361.見た目に全振り
宮殿の大広間の中で、スカーレットが俺の横に立っていた。
スカーレットにブルーノと契約シーラとの一連のやり取りを話した後、スカーレットはまずなるほどと頷き。
「御兄君もシーラ様もさすがだと思います。主の立場では御父君の力になりにくかったのですが、よい落とし所を思いつかれたと思います」
「やっぱり俺じゃむずかしいのか」
正直、ブルーノ達とのやり取りの中で不思議にはおもっていた。
リアムに転生する前の俺はド庶民で、そのド庶民の感覚では、力があれば直接父親を助けたり力になったりするものだけど、ブルーノとシーラはそういうアイデアは出さなかった。
「御兄君と主の関係ほどではなりませんが、難しいかと」
「どう、難しいんだ?」
「そうですね……シーラ様がおっしゃってた『屁理屈』が的を射ているかと思います」
「ふむ?」
「貴族の血縁というのは難しいもので、同盟に結婚を用いるのはそれで血縁を結んだ、だから協力しあう、という理屈です」
「なるほど」
「しかし、もっと血が繋がっている兄弟である事は同盟の証にはなりません」
「そうなのか?」
「血の繋がった兄弟、特に男同士であればお家騒動に発展し、血で血を洗う戦いが繰り広げられる事がよくありますので。兄弟ということは同盟の証にはなりません」
「……だから兄さんはあんな風にふるまっているのか」
「はい」
なるほどなあ……と今更で、そして妙に納得した。
ブルーノの態度の理由を、はっきりと貴族視点で説明を受けたのは初めてかもしれない。
「兄弟や親子の血のつながりに比べれば、アスナさんを差しだした方が同盟としてのつながりが強くなります――というのもそもそもが屁理屈でございます」
「やっぱり貴族は屁理屈を捏ねてなんぼなのか」
「はい、かつて宗教の力が強く、結婚が神の恵みだとされていた頃は、神に背くからということで離婚は許されず、どうしてもという場合は結婚前のあら探しをして、そもそも婚姻が成立していなかった、という屁理屈を捏ねます」
「大変だな」
俺は手を動かしつつ、スカーレットの話を聞いていた。
貴族にまつわる話が一段落したところで、スカーレットが話を変えて、聞いてきた。
「ところで主……それは何をしておられるのだろうか」
「ああ、そろそろおわりだから――よし」
最後の仕上げをして、出来たものをスカーレットに見えやすくするようにならべた。
スカーレットの前に広げたのは二種類の魔導戦鎧。
片方はいま現在この国の魔物が使っているのと同じもので、もう片方はバラの意匠をあしらったあたらしくつくったものだった。
「魔導戦鎧なんだが、シーラの所にはどっちがあった方がいいと思う」
「いい、というのは?」
「あー……言葉が足らなかったか」
俺は少し考えて、頭の中でいったん言葉をまとめた。
「シーラとブルーノから聞いた話で、まわりの国にシーラのパルタ公国とうちの国が繋がっているように見られた方がいい、ってのは分かった。でもどこまでみえて、どういう見え方がいいのかが分からないんだ」
「そういうことでしたか」
「いまは10万発の【マジックミサイル】を持たせてるけど、それは『みえない』だろ? だから見える武器も在った方がいいかなって」
「……こちらが新しく作ったものかとおもいますが、なぜこのように?」
「シーラは魔剣クリムゾンローゼというのを持ってて、それに合わせてバラをモチーフにしたものだ」
「性能――強さの面では?」
「普通の人間が使うから、それをカバー出来るようにちょっと強くした」
「であれば、このバラモチーフの魔導戦鎧で、性能は我が国のものとまったく同じものがよろしいかと存じます?」
「今あるものと同じ? ってことは……ここから弱くするのか」
「はい」
「なんでだ?」
わざわざ弱くする理由が分からず、スカーレットに聞き返した。
「ついでに我が国の、主の余裕を見せるためでございます」
「俺の余裕?」
「見た目にこだわっているが性能はまったく変わらない、それが余裕に繋がります」
「ふむ……なるほど」
「一事が万事ともうします、魔導戦鎧だけではなく、10万本の魔法の矢もそうです。シーラ様に協力しているが我が国、主にはまだまだ余力がある。余力のついでに助けている、底が見えない――とした方がよろしいかと」
「そんな風にとってくれるのか?」
「貴族は屁理屈をこね回すものです」
スカーレットはにこりと微笑んだ。
「それはつまり、相手のやることを常に深読みする癖がつくということでもあります」
「おー……なるほど」
理屈はわかるが、言われてもよく分からない感覚だが。
が、スカーレットがそう言うのならそうなんだろうと思うことにした。
「じゃあそうする。ありがとうスカーレット」
「恐縮です」
スカーレットのアドバイスを基に、バラの魔導戦鎧を改悪していく。
そんな中。
「……じゃあ、見た目を更にこだわればいいんだな」
「と、おっしゃいますと?」
「性能は同じままで、シーラが魔剣クリムゾンローゼを抜いてともにたったら更にバラが派手になる――どうだ」
「……」
スカーレットは一瞬驚いてから、感心した表情に変わって、頭を深々と下げた。
「さすがは主、それは最高の形かと」
「よし」
シーラに渡す魔導戦鎧の方向性が更にかたまった。