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356.廉価版蓄音石

「そうか! だから中にあんなメッセージを……」

「あんなメッセージって?」


 ハッとするグレースに、仲間のダークエルフ達が不思議そうに見つめ、その中の一人が聞いた。


「中にメッセージがあったんだ。外のことは心配するな、魔法を覚えるまで頑張れ、って」

「そうなの?」

「一日過ぎたあたりで不安になったけど――」


 グレースはちらっと俺を見て、更に続ける。


「まずは言われた通りにしようと」

「そうだったんだ」

「すぐに覚えるのなら……みんな、順番にはいって」

「「「うん!」」」


 グレースがしきって、ダークエルフ達が順番にゲームブックの中にはいって、魔法を覚えていった。

 それを待つ間、グレースが覚えたての魔法で新たに蓄音石をつくった。


 額に脂汗を浮かべて、全身全霊をこめて、って感じで蓄音石を作った。


「出来た!」


 出来たばかりの蓄音石を手の平に載せて、嬉しそうに俺を見るグレース。


「むぅ……」

「どうしたんだ?」


 グレースの表情が変わる。

 俺の表情が思いがけないもの、成功を祝う物ではない事に気づいて、不安そうになった。


「たぶん……いや、実際に見てもらった方が早い」

「え……?」

「借りるぞ?」

「あ、ああ」


 グレースから蓄音石を受け取って、まずは音を記録するように使う。


「これはこうやって、喋った事を記録する」

「あ、ああ」

「で、こうしてやると――」


 今度は記録した内容を出すように使う。


『こ……う……て、……事を……する』

「こ、これは!?」


 グレースは驚愕した。

 そばにいる、まだゲームブックの中に入っていないダークエルフ達も一斉に驚愕した。


 記録した音をそのまま繰り返す魔導具、蓄音石。

 それがはっきりとした失敗の形になった。


「ちなみにちゃんと成功したものはこうなる」


 俺はそういい、【アイテムボックス】をつかい、異空間から作り置きの蓄音石を取り出した。

 俺がつくった蓄音石だ。


 俺が作った魔導具は常にいくつか予備として【アイテムボックス】の中にとっておいてある。

 それを取り出して、グレースが作ったものと同じようにつかって、言葉を記録して、再生する。


『これはこうやって、喋った事を記録する』

「ああっ!」

「ちゃんと声が……」

「グレースさんのは失敗……ってこと?」


 グレースをはじめ、ダークエルフの間に動揺がはしった。

 一番動揺しているグレースに話しかける。


「魔力はまだ大丈夫か?」

「え? あ、ああ」

「じゃあもう何個か作ってくれ」

「わ、わかった」


 グレースは頷き、更に蓄音石を作った。

 その間にゲームブックの中からダークエルフが戻ってきた。

 そのダークエルフは空気の異変に気づいて戸惑ったが、とりあえずまだのダークエルフには中にはいって魔法は覚えてもらう事にした。


 それで出てきたダークエルフも、グレースと同じように蓄音石を実際に作らせて見た。


     ☆


 夕方。

 黄昏の中、あたりの空気は重苦しいものになった。


 グレースを始めとするダークエルフ達が全員意気消沈している。


「申し訳ない……」


 グレースが代表するようにあやまると、ダークエルフ達は一様に、そして一段と落ち込んでしまった。


「グレースの成功率が五割、他のみんなはばらつきがあるけど大体3分の1ってところか」

「本当に……申し訳ない。これでは恩返しには到底――」

「ああ、それはいいんだ」


 グレースを始めとするダークエルフ達がさらに落ち込みそうだったから、俺はそれを遮って止めた。


「まあ難しい魔法だからな。【マジックミサイル】のあれに比べたら」

「だが、これでは他の魔物とちがって恩返しが!」

「それは気にしなくていい」

「え?」

「俺の見立てじゃ、グレース達がダメなら他の魔物達はもっと成功率が下がるはずだ」

「そ、そうなのか」

「ああ。だから気にしなくていい」


 グレースはなおも半信半疑って目で俺を見る。

 それは偽らざる本音だった。


 まだダークエルフ達がこの国に合流する様になって間もないが、魔法技術、特に細かい技術ではダークエルフたちがもっとも長けている。


 その中でもグレースが一番だ。


 そのグレースをもってしても成功率5割、他の皆が3割ちょっとなら、他のみんなはもっと低くなるだろう。


「本当に気に病むことはないぞ」

「あぁ……」

「さて、どうしたもんかな」

「時間をくれ! もっとがんばるから」

「うん! もっと頑張る」

「3分の1しか成功しないなら三倍がんばるから!」

「いや、それよりも――ちょっと待っててくれ」


     ☆


 次の日の朝、グレース達を宮殿に呼びつけた。

 昨日のメンツが集まって、不安げな顔で俺を見つめた。


「あの……今日は……?」


 皆を代表して、おそるおそる聞いてくるグレース。

 そんなグレースに俺はゲームブックを差しだした。


「これは?」

「新しい魔法だ。グレース、まずはやってみてくれ」

「わかった」


 グレースの不安そうな表情はそのままだが、迷いは一切なくて昨日と同じようにゲームブックの中に飛び込んだ。

 昨日と同じことをしている――ということで、他のダークエルフ達はグレースが出てくるまで、何も聞かずにじっと待ってくれた。


 約一分。

 これまた昨日と同じような感じで、グレースがゲームブックの中から出てきた。

 昨日と違うのは、すぐに次のダークエルフが入ることなく、他の全員が固唾をのんで俺とグレースをみまもった。


「覚えた?」

「あ、ああ」

「じゃあやってみてくれ」

「わかった」


 グレースは手をかざして、魔法を使う。

 かなり集中して作ったのは、昨日とまったく同じ見た目をした蓄音石だった。


「これで……いいのか?」

「ああ。念の為にもう二つ三つ作ってみてくれ」

「わかった」


 グレースは俺に言われた通りに蓄音石を作った。

 念の為になのか、全部で5個作ってくれた。


「じゃあまた記録するぞ」

「ああ」

「今度はたぶんいい感じになるはずだ」


 五個の蓄音石を使いながら音声を記録して、すぐに音を取り出す。


『今度はたぶんいい感じになるはずだ』

『今度はたぶんいい感じになるはずだ』

『今度はたぶんいい感じになるはずだ』

『今……い感……ずだ』

『今度はたぶんいい感じになるはずだ』


 五個の内、四個までは成功してちゃんと俺の声を繰り返して、一個だけが失敗した。


「8割ってところか」

「ど、どうしてこんなに?」

「簡単にしたんだ」

「え?」

「前のは記録できる時間が無制限だし、アメリアさんの歌を完璧にやろうとしたけど。今度のはある程度音の質をさげて、時間制限もつけた。当面は歌だからそんなに長く記録できなくてもいいしな」

「そんな風にできるのか……すごい……」


 たった一晩で改良したことをグレースを始めとするダークエルフ達は開いた口が塞がらないほどに驚いたのだった。

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2025年1月6日アニメ放送開始しました!

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