351.息をするように改良する
俺とブルーノは街にでて、アメリアの家に向かった。
街の中心地から外周にむかって二人で歩いて行く。
歩きながら、ブルーノは街を眺めながら感心した様にいう。
「不思議な街でございます」
「不思議な街? どこら辺が?」
「私は陛下がこの約束の地にはいってからすぐにこことの関わり合いを持たせて頂いております。この街の最初期からしっております」
「ああ」
「陛下がおわす宮殿を中心に、放射状、あるいは同心円状というべきか。木の年輪の如くぐるぐると外側にむかって増築をしていっております」
「それが普通だろ?」
俺は首をかしげた。
建築も、街の開発も。
それは魔法のことじゃなく、つまりは俺が得意としているところではない。
そこに何か不思議な事があったのだろうか? とふしぎがった。
「それ自体はよくある街の発展の仕方ですが、建物の新旧が他に類を見ない形なのです」
「新旧?」
「年輪と同じです、通常は中、あるいは奥ともうしますか。そこに行けば行くほど建物も使われている技術も古く、外に行けば行くほど新しい」
「そりゃそうだ」
何を当たり前の事をいってるんだ? と更にふしぎがった。
「ですがこの街はそうはなっていません。中心も外周も、建物も技術も等しくあたらしいのです」
「……ああ、新しい魔法とか魔道具とかを導入するときはいつもまとめて更新してるからな」
「それが不思議な街と感じたゆえんです。通常は建物――つまり家は財産。そうそう簡単に建て直すことなど出来ないものです」
「……たしかに」
その理屈、いや感覚は何となく分かる。
リアムに転生する前、村のだれかが結婚するときによくそういう感じになっていた。
若者が結婚したいときは、簡単でも新しい家を建てる。
家を建てて、家具も新調して、それをもって嫁を迎える。
そういうのが一般的だ。
そして若者が家を建てて、家を出たあとは、両親は元の古い家に住むのが一般的だ。
もちろんそれは庶民での例だが――この世の大多数が庶民だ。
新しい家が出来たからといって、古い家がなくなる訳ではなくそのまま使い続けるのが一般的だ。
「魔物達は家の所有権? とかを主張しないからな」
「それもありましょうが、もっと根本的な理由は陛下です」
「俺?」
「陛下の新しい魔法技術と、それを編み出す陛下。魔物達は皆それに心酔し、仮にまだ住めても陛下のあたらしい技術の導入に前向き――いえ前のめりなのです」
「ああ、それは確かにそうかも」
「その結果、新しい技術で常に街の建物が一新される――極めて不思議な街でございます」
「なるほど」
一通り説明をされて、ようやくブルーノがいう「不思議な街」の理由が理解できた。
できた――が。
「それはいい事なのか? 悪い事のようには……聞こえないけど」
「この上なくよいことでございます」
「そうなのか」
「この状況、言い換えれば『需要』が常に高止まりしている状況。いい事どころの騒ぎではありません、歴史上あらゆる為政者がよだれをたらすほど奇跡的な状況でございます」
「そんなにか」
「はい、さすがは陛下でございます」
「はは」
最後の一言でブルーノがお世辞も込みでいってるんだと理解したが、悪い事ではないと思うし、ラードーンも指摘してこないからそのままいい事だ、ということとして受け止める事にした。
そのまま少し歩いたあと、アメリアの家にたどりついた。
街の外周にある、最新の造りの家。
二階建ての一軒家で、庭がついている。
庭の外周をぐるっと取り囲む塀があって、中が見えない・見えにくいようになっている。
これはアスナとジョディからのアドバイスで、アメリアのような若い女性は見られたくないし生活もあるから塀があったほうがいいってことでそういう建物にしてもらった。
そのアメリアの家の正門にたった。
観音開きに開く正門、両横の太い柱の中程にスイッチとなる出っ張りがあった。
俺はそれをそっとおした。
鈴のような音がなって、ブルーノはにこりと微笑んだ。
「この呼び出しの魔法鈴も、本当はとんでもない技術でございますが、この街では当たり前のようにあるのが不思議な光景です」
「ドアを叩くだけのノッカーだと屋敷のおくにいたら聞こえないことあるからな」
「押すだけで本人の耳元で音がなる……この上なく便利な魔法です。訪問者と家主双方にとって」
「これもみんなつけてほしいっていってきてたな」
「そうでございましょう」
そのまま少し待っていると、家のドアが開いてアメリアが姿をみせた。
俺の姿を見たアメリアは少し驚き、慌てた様子で、バタバタと小走りでむかってきた。
「すみません陛下! おいでになったとは知らずに」
「いえ、こっちが勝手に来たのですから気にしないでくださいアメリアさん」
「はい。す、すみません、このとびら、開けるのにまだ慣れていなくて」
アメリアはそういって、鉄柵のような正門を開こうとしたが、慌てている事もあって上手く行かなかった。
「……ああ、そうか」
「どうしたのですか陛下」
「実際に使ってみないとわからないよな。呼び出しを受けたら門を開くのが自然の流れ。つまり呼び出しを受けたら門を開くかどうかをそのまま選べた方がいいよな」
俺はぶつぶつ言いながら、魔法の呼び出し鈴の改良の事を考えた。
没頭して考えこむ俺。
アメリアがなんか嬉しそうに俺をみているのも、そのアメリアを見守るブルーノの姿も意識にはいってこなかった。
そのままの勢いで、魔法の鈴の改良を一気にやってしまった。