35.全方位モテモテ
「功績……」
「これから大変になるぞ」
そう言って、ジェイムズはにやりと笑った。
☆
ジェイムズの屋敷を出た後、俺はギルドに向かった。
アスナとジョディと合流して、今日も一仕事行って来ようと思っている。
ちなみに、ジェイムズと話している間も、移動している時も。
俺はラードーンジュニアの召喚を続けていた。
これまでは馬鹿正直に、仕事を始めて、必要になった時から使っていたが、よくよく考えれば発動時間の長いものはあらかじめ始めておいていい。
発動したときに必要なければどっかに空撃ちしてもいいし、こうすることで移動中も魔法の練習になる。
今は召喚のなかで一番戦力になるし、一番時間がかかるラードーンジュニアでそれをやっていた。
そうしながらハンターギルドにやってくると、ガチャリ、と扉が開いた。
「あっ、リアム」
「リアムくん」
中からアスナとジョディが現われた。
「二人そろってどっかに行くのか――」
「こっち来て」
「ではみなさん、話は伝えますから」
アスナは俺の手を引いて歩き出した。
ジョディはその場に一度とどまって、二人をおってでてきた十数人のハンターらしき相手にペコリと頭を下げてから、俺達を追いかけてきた。
ギルドの中で合流する予定だったのが、いきなり連れ出されてギルドから離れていく。
「どうしたんだいきなり。あの人達は?」
「パーティー申請」
「パーティー申請?」
「リアムくんが魔竜を討伐したって聞いて、これからは一緒に、って言ってきた人たちだわ」
「ええ?」
アスナに手を引かれて進みながら、ちらっと振り向く。
扉の辺りで一度ジョディが食い止めたのにもかかわらず、何人かはさらに諦めきれずに追っかけてきそうな雰囲気があった。
その人たちを振り切って、角を曲がって繁華街に入ったところで、アスナは手を放してくれた。
「ふう、ここまで来れば平気かな」
「ふふ、リアムくん、大人気ね」
「はい、これリスト」
アスナはそう言って、四つ折りにした小さなメモを差し出してきた。
受け取って、開く。
人の名前と、得意な戦闘スタイルが書かれていた。
「これは?」
「さっきの人たちのリストだよ」
「さっきの人たち」
「目がもう欲まみれでまともに話ができそうにないから一旦引き離したけど、こういうの、リアムが決める事だからさ」
アスナはけろっと言った。
「このパーティーの主はリアムくんですものね」
「そっか……二人ともありがとう」
「さ、とりあえず今日も仕事仕事」
「ええ、頑張りましょう」
気を取り直して、って感じの二人。
俺は渡されたメモをみる。
二十人近いハンターのリスト。全部、俺のパーティーに入ろうと言ってきてる人たち。
こんなにモテたの……生まれて初めてだ。
☆
街道に出没した危険な野獣を何頭も討伐した後、アスナとジョディと別れて、屋敷に戻る。
屋敷に戻ってきて、アスナからもらったメモを眺める。
パーティーの参加の申し込み。
これに応えるべきか――って事で、各人の簡単なプロフィールを眺めていた。
「あっ! お帰りなさいませお坊ちゃま」
玄関ホールに上がると、すぐに一人のメイドが駆け寄ってきた。
「どうした、そんなに慌てて」
「おぼっちゃまにお届け物が殺到してます」
「お届け物?」
「こちらです」
メイドに連れられて、一つの部屋に入った。
部屋の中はサロンの造りになっていて、その中央にあるローテーブルの上に、何かが積み上げられていた。
「あれは?」
「旦那様が、ひとまずここに集めるようにと」
「父上が……? それはいいけど、なんなんだ?」
「お見合いの申し込みでございます」
「お見合い?」
俺は盛大にびっくりした。
ローテーブルに近づき、積み上げられているもの――何かのファイルになっているそれを一つ手に取って、開いてみた。
冒頭に「家」のプロフィールがあって、その後に女の子のプロフィールが続く。
今開いているのはサンチェス公爵家のもので、女の子は次女で名前はアイナという名前だった。
他も開く、これも公爵家で、今度は三女のエリカだった。
次々と開いてみる、ほとんどが公爵とか侯爵の家からのお見合いの申し込みだ。
「なんだってこんな……」
「ちょっと出遅れたか」
「――っ! ブルーノ兄さん!」
いきなり背後から男の人の声がして振り向くと、そこにブルーノの姿があった。
別の貴族の家に婿入りしたブルーノ、それが何故か現われていた。
「どうしたんだ兄さん」
「使いっ走りさ」
ブルーノは積み上げられてるものと同じファイルを取り出して、俺に手渡した。
そのままソファーに座って、メイドに飲み物を持ってこいと命じる。
メイドが慌てて部屋の外にでた。
俺はファイルを開いた。
これも公爵家からのものだった。
「あっちの家の、上の方からの命令でな。お前の兄って事で、届けて、うまく言いくるめてこいって言われた」
「なるほど……」
「おまえ、何した」
「え?」
俺はどきっとした。
「えっと、魔竜を討伐しただけだけど」
「いいや、それだけじゃねえ」
ブルーノは瞬時に否定した。
「俺に命令を下した上の方はな、詳しいことは何も教えてくれなかった」
「え?」
「詳しい事は何も言えないが、お前とはお近づきになりたい。しかも――」
ブルーノは他のお見合いファイルをぱらぱら開く。
「見た所ほとんどが位の高くて、どいつもこいつも有能で鳴らしてる貴族ばっかだ。全員、何かに気づいて集まってきたとしか思えない」
「あっ……」
俺はハッとした。
ジェイムズの言葉を思い出した。
『あんな多額の金銭を王女殿下からいきなり渡すなど、まわりに邪推してくれと言わんばかりのものだ』
『それを殿下が、王都に帰るよりも前に自分で。貴族をよく知る者は勘ぐらざるを得ぬよ』
ブルーノのいう、有能で鳴らした貴族達が早速勘ぐったわけだ。
「ん? おい、何か落としたぞ」
「え?」
ブルーノの視線を追いかける。
俺の足元にメモが落ちていた。
拾い上げる。アスナからもらった、パーティー申し込みのメモだ。
「あぁ……」
この人達はなにも知らない。魔竜討伐をやったってことで、俺に近づいてきた。
貴族達も詳しい事は知らない。スカーレット王女のやったことからより正しい真実を推測して、俺に近づいてきた。
真実を知ってる者も、知らない者もやってきた。
俺のパーティーに入ろうとしたり、妻になろうとしたり。
こんなにモテたのは、生まれて初めてのことだ。