339.やっぱり魔法だった
「こ、これは……」
【ストロングポイント】を掛けたあと、グレースは発光する自分の体に驚いた。
全身が発光し、両手を見つめて目を見開いた。
「自分の中で一つがはっきりとかわってて、突出してるのがわかるか?」
「あ、ああ。わかる、はっきりと分かる」
「そこまではっきりと分かるものなのでしょうか?」
「今こういう感覚になってるはずだ」
アルカードの疑問に答えるために、俺は【アイテムボックス】から粘土を取り出した。
ノームとサラマンダーのコンボで最初の頃にやって以来放置してた、陶器とか焼くための粘土を取り出した。
手が丁度いい感じにわしづかみにできる程度の丸まった粘土をアルカードによく見えるようにした。
丸まっているが、適当に丸めた粘土だ。当然完全な球状であるわけが無い。
凸凹の一つ出っ張っている所を指さして。
「これが目立たないけど突出している才能」
「はい」
頷くアルカード。俺は更に、さした出っ張りを指でつまんで、普通に粘土遊びするようにそこをどんどん尖らせた。
すると、球状だったのが、まわりがちょっと窪んで中心が摘ままれて尖ってきて、「歪な形」になった。
「こんな状態になっているはずだから分かるはずだ」
「さすがでございます」
「さて――そろそろ感覚がなじんで才能がなんなのかが分かってきたころかな?」
「あ、ああ……たぶん、魔法だと思う」
「そうか」
俺は笑顔をうかべた。
魔法が一番の才能なら色々と手伝ってやれる事も多いだろう。
「あっ……光が収まっていく……」
「突出させるために力の先取りをしているからな、長すぎると体に毒だ」
「そうだったのか……」
「えっと……はいこれ」
【アイテムボックス】から指輪を取り出して、グレースにてわたす。
両手を皿にして受け取ったグレースは不思議そうに小首を傾げた。
「これは?」
「古代の記憶っていう。それをつかってまずは魔法を一つ覚えてみてくれ。その結果でまたいろいろ考える」
「わかった……ありがとう」
グレースはもう一度だけお礼をいって、この場から立ち去った。
元が俺にお返しをしたいからといって始まったことだ。
それが自分の才能をはっきりさせて、その才能を少し伸ばすと言う話になって。
今はまず俺からもらった古代の記憶で魔法を覚える時だ、とグレースは納得して立ち去った。
「あとは……【ストロングポイント】もいつでも測定に使えるように装置化させちまうか? いや、才能なんて一度測ったらもうおしまいだからいらないか」
「おっしゃる通りだと思います。常に成長する現在の力とはことなり才能の判別は使い魔になった直後の一度程度でしょうから、何人かが覚えていればそれで問題はないのでしょう」
「そうだな」
「才能が飛び抜けているものが現われた時のため、三幹部達が使えるようになっていた方がよろしいでしょう」
「ああ、それなら大丈夫」
魔法の事だから、アルカードがそう言い出した理由はすぐにわかった。
「大丈夫なのですか?」
「この魔法は術者の魔力で底上げするんじゃない、掛けられた人間の未来からちょっと前借りするような魔法だ。極論俺の才能が魔力だと判別するのに魔力の弱い――例えばアメリアさんでも問題なくいける」
アメリアが魔法を使えるかどうかはまた別の話だけど、それは口にしてしまうと話がややこしくなるから腹の中におさめた。
『ふむ、それをお前自身にかけるとどうなるのだ?』
「おれに?」
いきなりラードーンが質問してきた。
何をわかり切ったことをきくんだ? と不思議におもった。
『先入観でしかないかもしれんぞ? 魔法とか魔力とか、その辺の才能は実は自分の中で二番手だった、とかな』
「……ああ」
なるほどと思った。
「ラードーン様はなんと?」
ラードーンとのやり取りという現象自体は慣れているが内容が気になるようで、アルカードが質問してきた。
「俺に【ストロングポイント】をかけたらどうなるのかって話だ。魔法が得意だが、それが実は二番目の才能で一番の才能が発掘されてないまま埋もれているかもしれない、って話だ」
「盲点ですね」
「否定できる根拠はまったくないよな」
俺は苦笑いした。
俺はここまで魔法魔法とそればっかりやってきたのは、リアムになる前の人生でずっと魔法に憧れていたことと、リアムになって魔法が使える様になったからのめり込むようになったからで。
リアムの体だと魔法に才能があるが、それがリアムの才能で二位以下じゃないという根拠はなにもない。
じつは一位がまだ隠されていた、というのを否定する証拠はないのだ。
「せっかくだしやってみるか」
俺はそう宣言した。
アルカードは無言ですぅ、と俺から距離をとった。
邪魔にならないように離れて見る事にしたアルカード。
俺は手をつきだし、【ストロングポイント】を唱えた。
自分に【ストロングポイント】を掛けた――その瞬間!
「くっ! こ、これは!?」
「ご主人!?」
「離れろアルカード!」
叫びながら、とっさに目に入った俺の像――力を測る像の方をパッと向いた。
そして【ストロングポイント】をかけた瞬間数倍に膨れ上がった一番の才能――魔力を像にむかって一気に放出した。
もう少し体の中にとどめていたら体が破裂していたであろう桁外れの魔力。
その魔力が一気に像に放たれた――結果。
「あ……」
「さ、さすがでございます」
ラードーンとデュポーンの協力をえて創り出した最強の物質、それで作った戦力測定の像。
それが跡形もなくけしとばされてしまったのだった。