338.長所を探る
「お使いにはならないのですか?」
「ああ、新しい物を作る」
「新しいものでございますか?」
アルカードは戸惑いが半分、興味津々が半分、そんな顔をしていた。
「これとちょっと違うものが必要になったんだ」
「といいますと?」
「こいつは戦力――力の強さを測るもの」
「はい」
「それとはちがって、何が得意なのかを計るためのものを作りたいんだ」
「なるほど、新入りのためにという事ですか」
「そういうことだ」
アルカードがすんなりと理解を示してくれた。
「問題はどうすればいいのかだな。さわってもらった者の一番得意なもの、強いものを読み取る仕組みがまだ思いついてないんだ。得意なものなんてみんなそれぞれで種類めちゃくちゃありそうで……。ここに来れば何か触発されるとおもったんだけど……」
今の所まだ思いついていない。
「私見を……申し上げてもよろしいでしょうか」
「え? ああもちろん」
「何かを読み取って見える形に表現する、というのはおっしゃるとおり難しく思います」
「ああ」
「しかしながら、『そのものがもつ一番の才能を一時的に増幅する』という形ではいかがでしょうか」
「……なるほど!!」
アルカードの案は目から鱗で、ものすごくいい案だった。
俺が考えていたのは、だれかが石像に触れて、その石像が「力自慢です」「足が速いです」「内政が得意です」と、三幹部がしたらこんな風な結果がでるような魔法、そして装置だった。
人間も魔物も得意とするものは千差万別。
その中には俺が知らない特技も全然ある。
それを魔法でよみとって表現する、というのは難しかった。
それに対してアルカードは『対象の一番の才能を増幅する魔法』を提案してきた。
これならきっとわかりやすい。
人間でも魔物でも自分の体の変化は結構わかるもんだ。
例えばガイがその魔法を掛けられたら「力がみなぎってきたでござる」とかなればいいし、クリスだと「今ならいつもより速く走れそう!」とかだ。
対象の一番の才能を一時的に増幅して、その状態で自覚をさせる。
「助かったアルカード、それなら行ける」
「恐れ入ります」
「グレース、ちょっとだけ待っててくれ」
「え、あ、ああ」
俺とアルカードの会話にまったく入って来れないグレースは戸惑いながらももとりあえず頷いてくれた。
俺は自分の内面に、体の内部に意識をむけて、考えた。
対象の一番のところをブーストする魔法。
俺で言えば魔力だけど、魔力をブーストするってわけじゃない。
あくまでその人の一番のところをブースト、伸ばす魔法だ。
そこが重要で、そこは間違えちゃいけないところ。
その事を念頭に置く。
「……アルカード、グレース。ちょっと離れててくれ」
「かしこまりました」
「あ、ああ」
対照的な反応をするアルカードとグレース。アルカードはまったくためらうことなく、グレースは逆に戸惑いっぱなしで。
そんな対照的な反応をする二人はどちらも俺から距離をとってくれた。
俺はまず、自分に魔法を掛けた。
「【マナブレイク】」
自分にかけた魔法、本来なら自分にかけることのない魔法。
効果は魔力の低下と、魔法成功率の低下といったものだ。
本来は敵対する相手にかけて戦いとかを有利に進めるもので、間違っても自分に掛けるものじゃない。
それを自分にかけた。
【マナブレイク】をかけると、自分の魔力がグングン下がっていくのを感じる。
一時的に下がっていくだけだが、それで充分。
【マナブレイク】がかかった状態で「魔力が一番じゃなくなった状態」を体感できた。
シーラのために魔法を作ったときに走馬灯を体験したのと同じことだ。
自分の体に変化をおこして、そこで感覚を実体験してそれを魔法にしていくやりかた。
ここまでする必要はない、こうした方が一番速くできる。
そうして、自分の体で魔力が一番の時とそうじゃないときの両方を体験して、感覚をつかめた。
【マナブレイク】をといて、体の感覚を取り戻す。
普段の魔力が戻ってきた。
「よし……やるぞ」
口にだして、自分をふるいただせる。
そして前詠唱をして魔力を高めて、いつものように同時魔法で練り上げる。
魔法は既存のものを覚えるのも、あたらしいものをつくるのも。
共通しているのは「くり返しやる」ということ。
新しい魔法の形をつくって、それを同時魔法で同時に繰り返した。
同時魔法で数百回の失敗と改良を一気にこなした後――できた。
「【ストロングポイント】」