337.人間測定器
「できること……」
腕を組んで、考えた。
今すぐにやってもらいたい事はやっぱり無いけど、ここで更に聞いてくるって事はグレースの中でそうしたいって気持ちが大きいんだろう。
断ってもまたすぐに言ってきそうだから、何かやってもらった方がいいと思って、その何かを考えた。
『得意とするものを聞いてから考えた方がよいぞ』
「あ、そっか」
「え?」
「いやこっちの話。逆に何が出来るんだ? 得意なことは?」
ラードーンとやり取りすることをほぼはじめて目にするグレースは驚き戸惑ったが、俺の質問をうけて考え込んだ。
しばらくのあいだ考え込んだあと。
「……よく、わからない」
申し訳なさそうな感じで、シュンとなってうつむいてしまった。
「見た目が変わって、今までと全然違うから」
「……そりゃそうだ」
「すぐになんとかするから――」
「いや、こっちでなんとかしよう」
「な、なんとか? いやっ、そこまで手を煩わせるのは――」
「ご主人様に全てを委ねるといいですよ」
「――え? お、おまえは」
横から割って入ってきた声に驚き、振り向くグレース。
俺もそっちを向くと、メイドの格好をしたエルフのレイナが柔らかい物腰でそこにたたずんでいた。
いつの間に――という質問をする暇もなく、レイナが穏やかな微笑みのまま続けた。
「使い魔に成り立てなのですから何も分からなくて当然ですよ。そんな事で機嫌を損なうほどご主人様の器は小さくありません」
「しかし――」
「むしろご主人様は今どうすれば得意とすることを調べられるのか考えておられるはず。私達は静かにそれをまって、ご主人様が思いついた事を実行すればいいのです」
「そ、そうなのか……」
「はい」
レイナはまったく躊躇することなくそう言い切った。
俺はレイナに礼を言った。
「ありがとうレイナ、言いたかった事をわかりやすく言ってくれて」
「恐れ入ります」
「という訳で少し待ってくれ。最近にたような事を考えてたような記憶が――ああっ!」
「――っ!」
言葉の途中で思いついて、ポンと手を叩いた。
それに驚いて、ビクッとしてしまうグレース。
「そうだった、あれの新人用を作ればいいんだ!」
「「あれ?」」
不思議がる二人に、俺はにこりと笑い返した。
☆
新しいダークエルフの保護をレイナに任せて、俺はグレースを連れて街の反対側にむかった。
ここに来る途中、スラルンやスラポンなど、様々な魔物に捕まったりじゃれ合ったりした。
初めて一緒にゆっくり街中を歩いたグレースはその光景を見て目を丸くしていた。
「あんたは……」
「ん?」
「王……といっていたが」
「まあ、一応王様だな」
「なのにこんなに……気安くされているのか?」
「仲良くしてるよ、みんなとは。王様の威厳がないんだろ、それはよく言われるよ」
俺が笑いながらそういうと、グレースは更に困った顔をした。
本人の口から「威厳はないだろ」って言われてどう返事していいのか分からないって顔だ。
そうこうしているうちに、ほとんど街を突っ切って反対側にでた。
ここ最近すっかり人間の街っぽくなった中心街から外れた、平屋が多くなった区画。
その区画の中で更に一際開けた場所があった。
区画の中央に俺の銅像のようなものがあって、その前に一人の男がいた。
「アルカード」
後ろ姿ですぐに分かった男の名前を呼んだ。
呼ばれた男は振り向いて、貴族を連想させるような上品な仕草で一礼してきた。
「力のテストをしてたのか?」
「はい、任務の合間に、現在の力を把握しようと思いまして」
「どんな感じだった?」
「戦力値は1023を記録しました」
「それは……どれくらいのものだっけ」
「ランキングでどうにか5位を守れました。ガイやクリスには及ぶべきも有りませんが」
「あの二人はいつも意地の張り合いをしてるからな。同じタイミングで計ったら両方とも限界以上の数値がでてしまうから気にしない方がいい」
「そのように致します――そちらは?」
「ああ、ダークエルフのグレース。いわば新入りだ」
「そうでございましたか。こちらをお使いでしょうか?」
「いや、それは使わない」
アルカードの質問に首をふった。
アルカードが測定に使った物、俺の銅像のようなもの。
少し前に、ラードーンとデュポーンの力を借りて作った最強の物質。
それで力の測定器を作ったのだが、外見は腰にてをあてて大いばりしている俺の銅像みたいな感じのものになった。
見た目がそうなったのは、魔物達の意見を求めた結果そうなったからだ。
何故俺が威張ってるような姿になったのかというと。
「ご主人様が君臨なさってる姿なら皆が自分の力を見て頂く気分で全力をだせるから」
という理由らしかった。
正直よく分からなかったが、その意見が出るまではいろんな意見があったが、でた後は満場一致で魔物達全員がこれに賛成した。
そこまでの賛同を得られたのならそれがベストだと思い、提案された通りの格好でつくった。
それ以来、魔物達が俺の像にむかって力を打ち込んで、力の測定をするようになった。