332.本来の強さ
「なんでそんな事になったんだ!?」
レイナに詰め寄るほどの勢いで問い詰めた。
「そ、それは――」
『待て』
困惑するレイナに、俺が更に問い詰めようとしたらラードーンから待ったがかかった。
「どうしたんだ?」
『理由は二の次だ、逃げてきたのがそのもの一人でもあるまい』
「――っ! そうだった。レイナ、他に逃げてきたバンシィはいるのか?」
「はい、レッドラインの向こうに、まだ」
「どこだ!」
更に詰めると、レイナの代わりにバンシィがおずおずと手を伸ばした。
半身だけ振り向いて自分の背後、野外につづく来た道を指さした。
「わかった、いってくる!」
言い放つのとほぼ同時に俺は飛び出した。
文字通りに飛行魔法でかっとんでいった。
ブルーノをはじめ、人間とも取引や交流があるから整備した街道の上を最高速で飛んでいった。
やがて見えてきた国境――レッドウォールを突き抜けて隣国に入っていった。
【モンスターサーチ】
俺が作ったものじゃない、最初の古代の記憶の中にあった魔法の一つ。
モンスターを討伐する者達が必ず使えるように、あるいは使える者を用意しておく魔法の一つだ。
その【モンスターサーチ】をつかうと、二つの塊を感知した。
一つは背後、来た方向にある巨大な塊。
魔法都市とそのまわりにある魔物たち。
もうひとつは斜め前方の少し離れた所にある、十数人程度だと思われる小さな塊。
「そこか!」
方向を修正して、【モンスターサーチ】で感知した所に向かっていった。
街道から外れ、踏み荒らされたばかりの野花の畑の上空を一気に突っ切り。
花畑の向こうにそこそこの池があって、その池の畔にバンシィが追い詰められていた。
水際にひとかたまりで追い詰められて、武装して攻撃してくる人間達に必死の抵抗をしている。
武装した人間はバンシィの約三倍、4~50人くらいはいた。
「待て!」
大声をだすと、バンシィも人間たちも一瞬動きが止まって、こっちに視線をむけてきた。
『問答は無用、まずは力で抑えろ』
「わかった!」
ラードーンの指示に応じて、俺は更に加速した。
バンシィを襲ってる人間の一人が「なんだお前は――」と口を開いた瞬間にはもう懐に迫って、ゼロ距離の【パワーミサイル】をたたき込んだ。
男は言葉の代わりに血反吐をはいて、体が「く」の字に折れて吹っ飛んでいった。
男が吹っ飛ぶのを、他の者達は一斉に視線を向けた。
そのうち半分が呆然とふっとぶ男の姿をみおくって、残りの半分がハッとして俺に振り向こうとした。
『そいつらからだ』
まるで俺の心を読んだかのように、ラードーンは更に指示を飛ばしてきた。
俺は次々と、「反応の早い」順から倒していった。
男達の反応よりも早く、次々に【パワーミサイル】をたたき込む。
「……」
途中からシーラの戦い方を思い出した。
速度をあげて、懐にあるいは背後に。
とにかく相手の死角にはいってからの攻撃をはなって、吹っ飛ばしていった。
「広がって包囲しろ!」
不意に誰かが叫んだ。
がなるような声の後、まだ倒れていない男達が一斉におれから離れた。
距離をとった――だけじゃなく、四方八方から俺を取り囲む。
ぱっと見回して十数人、立っているものが最初の半分以下にへっていた。
しかし減った分、俺が倒した分だけ、男達の顔に怒りと真剣味がましている。
全員が武器を構えて、徐々に、徐々に――と包囲網を狭めてくる。
お互いアイコンタクトも交わしている。
それはみた感じ――。
『一人やられてでもすぐにフォローできるように立て直したな』
ラードーンも同じことをおもったようだった。
駆けつけた俺の奇襲、つねに懐なり背後なりをとって、死角からの一撃でたおしていったが、それを対処するように陣形を組まれた。
さらに、そうやってじわじわ迫ってくるあいだ、最初に倒された20数人のうちダメージが軽かった5~6人位が立ち上がって、苦悶の表情をのぞかせながらも戦線に復帰してきた。
『なれないことをするものではないな』
「ついそうなったんだ」
シーラの動きをまねたのは、ここ最近ずっと彼女の戦い方を考えていたからだ。
俺に足りないうごきだし、取り入れれば魔法戦闘の新しい境地が見えると考えたからでもある。
それをずっと考えていたから、ついついそういう動きになってしまった。
その結果、倒しきれずに立て直されて、包囲までされてしまう。
『今後への課題だな』
「そうする」
いいながら、まわりをぐるっと一周みまわした。
更に数人が立ち上がってきて、30人近い包囲網になった。
人数がふえたのに、最初にバタバタ倒されたのもあってか男達は慎重に包囲網を狭めてきてる。
「30――はちょっと足りないか。なら――アメリアエミリアクラウディア」
前詠唱をして魔力を高める。
そして無詠唱だとたぶんぎりぎり足りないであろう攻撃の数を圧倒的な数に引き上げて――はなった。
【パワーミサイル】101連。
全方位にむかって一気にはなった101本の【パワーミサイル】が男達をなぎ倒していった。
狭まってきた包囲網の形のまま、男達は落としてわったガラスのコップのように、外側にむかって放射状にとびちっていった。