325.魔法偏重
奇襲から始まる一戦、寝室が半壊したあと、俺達は大きな風穴があいた壁から外に飛びだした。
シーラの斬撃をシールドで彼女ごと弾き飛ばし、距離を取った後。
「アメリアエミリアクラウディア――【フルインパクト】」
前詠唱で単発最大火力をだす魔法をシーラに向かってはなった。
ほぼ全力の、見ようによっては命を刈り取るために放つ一撃。
それを躊躇なくシーラにはなった。
【フルインパクト】がせまるなか、シーラは婉然とした笑みを作りながら。
「やって見せなさい」
と、握っている魔剣に命じた。
魔剣の刀身が感動に震えているように見えた直後、シーラの前に魔法の障壁が張られた。
その障壁は前詠唱の【フルインパクト】を弾いた。
「マジックシールド!」
思わず、叫び声が口から飛び出してしまった。
シーラが――クリムゾンローゼが今使ったのは間違いなく【アブソリュート・マジック・シールド】。
魔法を完全に一度は防ぎきる魔法障壁だ。
それは俺の全力【フルインパクト】をも防いだ。
「アメリアエミリアクラウディア――【マジックミサイル】101連!」
単発が防がれるのなら手数ならどうだ?
今度は前詠唱で魔力を高めて、自力で放てるもっとも多い「数」をはなった。
「なんのこれしきですわ!」
101発の【マジックミサイル】をシーラは魔剣をふるって、一発ずつ切り払った。
元々剣捌きにたけていて、スピードが卓越しているシーラだ。
101発の【マジックミサイル】などまるでものともせず、全部切り払った。
「むっ」
「あなたは!」
シーラはそういい、また口角をあげて笑った。
直後、その姿がブレてきえた。
「――っ!」
とっさに反応して、全方位に【アブソリュート・マジック・シールド】【アブソリュート・フォース・シールド】の両方をはった。
何がきても、どこからきても防げるようにした完全防御。
「魔法に偏重しすぎですわ!」
そういってガガガガガ――と前方からフォースシールドが次々とかち割られる爆音が耳をつんざく。
それとほぼ同時に、目の前に迫ってきたシーラが俺の懐に入りこんだ。
「その魔法障壁も攻撃性のないものは素通しですわよ!」
といって、いきなり俺に抱きついてきた。
抱きついて、寄りかかって。
純粋な人間一人の重さに俺は思わず数歩後ずさった。
寄りかかられて、後ずさって。
気がついたらシールドの外に出されていた。
「はああああ!」
「くっ! 【タイムストップ】」
とっさに時間をとめて、シーラとの至近距離から脱出。
距離を離れるだけ離れて、時間が再び動き出す。
「なるほど、この距離で時間停止を喰らえばこんな感じですのね」
「――。………………」
距離をとって、手をかざして。
反撃の魔法を放とうとしたが、何を放てばいいのか一瞬分からなくて、動きが止まってしまった。
『魔法に偏重しすぎですわ!』
シーラの叫びが脳裏によみがえる。
全力の一撃は【アブソリュート・マジック・シールド】に防がれ、手数頼りの軽い魔法はいともあっさり切り払われる。
初めてといってもいい、【アブソリュート・マジック・シールド】を前にして俺は困ってしまった。
シーラが更に迫ってくる。魔剣クリムゾンローゼをふるって襲ってくる。
【アブソリュート・マジック・シールド】の存在が頭をちらついて反応や対処が常にワンテンポ遅れてしまう。
とてもじゃないが、シーラの速度を相手にしながらゆっくりと魔法を考えている余裕はない。
「――っ!」
その中でのひらめきだった。
「【契約召喚:リアム】!」
魔法を唱え、もう一人の俺を呼び出した。
シーラが一瞬きょとんと、動きがとまった。
何故その魔法を、という戸惑いがありありとみえた。
直後、俺は【マジックミサイル】を連射した。
連射向きの魔法を絶え間なくシーラに向かって撃ち続けた。
シーラは魔剣をふるって、それを切り払っていった。
逆説もまた真ある。
シーラの速さの前ではさすがにゆっくりと考える暇がない。
それとおなじで、俺の連射を前にしてシーラももう一人を相手にする余裕がない。
俺自身がシーラを引きつけた。
契約召喚で呼び出した俺はその間に大きく離れた。
数十メートル離れて、シーラがすぐには手の届かない範囲に退避した。
その間、俺はシーラを牽制し続けた。
シーラはその間、ちらちらと召喚されたもう一人の俺のことがきになった。
一分くらいして。
「何かをつかえ!」
契約召喚の俺が叫んだ。
「間接的に何かをぶつけろ!」
「――っ!」
自分の考えついた事だから、一瞬で理解できた。
まずは【フルインパクト】をはなった。
シーラをして腰を据えてしっかりと対処しなればいけない強い魔法。
それに対処している間に俺は大きく跳びのいて距離をとった。
そして、【精霊召喚:ノーム】を呼び出した。
可愛らしい大地の精霊が現われた。
「岩を上から落とせ」
ノームは俺の命令にしたがって、シーラの頭上に大岩を作って、そのままおとした。
シーラは舌打ちして大きく横っ飛びして岩をかわした。
「フォースシールドは用意してなかったんだな」
「……そうですわ」
シーラが避けると想定して先回りした俺は彼女の懐にはいって、観念したシーラにチェックメイトの一撃をはなった。
これにて勝利――したけど。
「魔法に偏重しすぎか……」
シーラに課題を突きつけられて、それがなんとも嬉しかった。