315.刹那の輝き
「ダーリン? ――はっ!」
俺が四人になった事を一瞬訝しんだデュポーンだが、すぐに何かを察したような、そんな表情をした。
そんなデュポーンに微笑みかけながら、四人の俺で頷き合って四方に散った。
四方に散った四人、向き合う十字路の中心にラードーンとデュポーンが作ってくれた素材の小山がくるように位置を調整。
誰かともなく口を開き、前詠唱をはじめる。
「「「「アメリアエミリアクラウディア――」」」」
次の瞬間――。
☆
「……あれ?」
「ダーリン!? 良かったダーリンが無事だった!」
何が起こったのかも分からなかった。
デュポーンの焦りから安堵に移っていく最中の声で何かがおきたのがわかり。
そのデュポーンが抱きついてきたから一呼吸遅れて自分が倒れて地面に横たわっている事を理解した。
デュポーンにしがみつかれたまま体を起こし、まわりをきょろきょろと見回す。
光景に変化はない。ラードーンとデュポーンの激戦で荒れ果てた荒野に変わった場所そのままで、空模様から時間もほとんどたっていない様子。
『倒れていたのだ、時間は1分かそこらだな』
俺の疑問を察してくれたラードーンが状況を教えてくれた。
「……そっか」
その事で俺は全てを理解した。
倒れる直前の状況と、自分がやろうとした事で全てに察しがついた。
「一体どうしたのダーリン、急に倒れるなんて。心配したんだからね!」
「わるかった。魔力のつかいすぎで倒れたんだろう」
「ええっ!? あれで?」
「あれで」
俺は静かにうなずいた。
「そんな! たしかにダーリンの全力だったしすごかったけど、今までと同じだったじゃん? なんであんなので倒れたの?」
「……凡ミスだな。全力をだしつつ、足りない魔力は【アナザーディメンション】とかで補充しようとおもったけど、全力を同時に四つだしてしまったもんだからヤバイと思う前に『切れた』んだな」
反省だな、と最後に結んだ。
通常の全力であってもそれなりに体に負担がかかるというのに、ましてやその全力を四つ分一気に出すのならこうなって当然だ。
二階から飛び降りればケガするかしないかの所を、一気に四階から飛び降りたらケガするのは当然。
魔力の出所が一つの【盟約召喚】の改善点として忘れないようにしようと思った。
「……そうだ! あれはどうなった!?」
ハッとして、思い出す。
気を失う事になった理由、全力をだそうと思った理由。
それを思い出して聞くと、デュポーンはニコニコ顔になって俺から離れて。
「ちゃんとダーリンの狙い通りだとおもう、ほら!」
デュポーンがどいて、その先に見えたのは見たことのない金属の塊。
さっきまでいわば砂鉄の山だったのが、四方からの力を受けてぎゅっ――と圧縮されたような。
歪だが、ちゃんと一つの塊になっていた。
「行けたのか」
「うん! さっすがダーリンだよ」
「あとはこれを加工しないとな。形もそうだし、もちろん魔法面でも――」
『今日はもうやすめ』「今日はもう休んでダーリン!」
図らずも、ラードーンとデュポーンの言葉がかさなった。
ラードーンのは俺だけに聞こえるようにいったものだからデュポーンは気づかなかったが、ラードーン側はデュポーンとかぶってしまったのが相当に嫌みたいで、直後から不機嫌な感情がダイレクトに伝わってきた。
「ダーリンが倒れるなんてよっぽどの事だよ。だって全力の四倍だよ? 限界の向こうの向こうの更に向こうみたいな感じなんだよ。体にわるいよ」
「まあ……そうだな」
必死に訴えかけてくるデュポーン、そしておそらくは同じことを言おうとしたラードーン。
二人のいう事はごもっともだ。
デュポーンがいう「限界の向こうの向こうの更に向こう」は聞いてて一瞬噴き出しそうになるが、言いたい事はよく分かる。
あれで体にどういう負担がかかって、どういう影響が出るのか興味もあった。
そう思って、二人の言う通りにすることにした。
「わかった、今日はもうやめる」
「うん!」
「最後にこれをしまってから」
「それも明日で! 放っておいても絶対壊れないものだもん」
「それもそうか」
たしかに、一晩くらい放置してどうにかなるようなものじゃないのはここまでやった俺が一番よく知っている。
「じゃあ、帰ろう」
「ああ」
「あたしにつかまって」
「え? あっ――」
掴まって、と言った割にはデュポーンの方から抱きついてきた。
俺に抱きついて、問答無用に空へととびあがった。
俺にこれ以上魔法を使わせないように、デュポーンが俺を連れて空を飛んだ。
そのまま一直線に街に向かっていく。
「でも」
「うん?」
ふと、デュポーンがぼそりとつぶやいた。
体のサイズがちがって、かつ俺を抱きしめたまま空を飛ぶ体勢もあって、彼女の表情は見えなかった。
表情は見えなかったが、口調がいつもよりしっとりしていた。
「さっきのダーリン、本当にすごかった。一瞬だけどあたし達より上いってたよ」
デュポーンに褒められてちょっとこまった。
一瞬だけどラードーンとデュポーンを上回った。
彼女が言うのならそうだろうし、なんとなくそうかもしれないと思う。
ただ、それが「魔法を使った瞬間すら覚えていない」ような一瞬のきらめき的なものなのは実用性がないなと、褒め言葉を素直に受け止められなかった。
もっと何か改良出来ないかなあ、と。
街に着くまで俺はその事を考え続けた。
そのままデュポーンに連れられて、街にもどって、宮殿にもどった。
庭で下ろされて、デュポーンが俺から離れる。
「じゃああたしはここで。今日はゆっくり休んでねダーリン!」
そういって、デュポーンは駆け去った。
そんなデュポーンの後ろ姿を見えなくなるまで見送ってから、俺も宮殿の中にはいった。
「あっ、ご主人様」
宮殿の中は入るなりすぐに感じるほど何かバタバタしてて、メイドエルフの一人が俺を見つけて駆け寄ってきた。
「どうした?」
「スカーレットさんがご主人様の事を探してました」
「スカーレットが? なにかあったのか?」
「なんでも、パルタ公国が分裂しそうだ、とのことです」
「……へ?」
メイドの口から出たのは、予想外で理解しがたい内容だった。