311.背中を押す魔法
「……」
「どうするの?」
「え?」
「助け、いる?」
「助けてくれるのか?」
ピュトーンの言葉はちょっと意外だった。
この状況で協力を申し出てくれるとは思いもしなかったからかなり驚いた。
すぐに「もしや」と心あたりが頭に浮かんできた。
「もしかしてあの二人に攻撃する口実だとか?」
「それはちがう」
ピュトーンは淡々と否定した。
「あの二人を殺すのに理由はいらない。殺したいときに殺す」
「そ、そうなのか」
ストレートな言い方に俺はちょっとたじろいだ。
言ってることは前にも聞いたし三人そろって似たような内容だけど、改めて聞くとちょっとぎょっとする。
気を取り直して、改めて聞く。
「じゃあ、なんで?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
「そう、なんとなく。あなたが困ってるのならぴゅーたすける。そして恩を売ってもっといい枕とかを作ってもらう」
「……はは」
小さくふきだしてしまった。
ここでも彼女らしさ全開な理由がちょっと面白かった。
「ありがとう、でも、いい」
「いいの?」
「ああ、あの様子をみてると俺がやった方が結果的には早く終わる」
本気でそう思った。
ピュトーンがどこまで本腰入れて介入してくれるのか分からないけど、彼女がはいったことで三つ巴になってかつての三竜戦争の再来、なんて事になったら年単位でことが長引きかねない。
もちろんピュトーンがはいったことで目的のものが早く作れるかもしれない。
しかし、気分が盛り上がった結果本来の目的を見失うのもよくある話だ。
だからピュトーンの申し出は嬉しいが、そこに首を突っ込まないでほしいと思った。
「じゃあ、どうするの? あなたが戦う?」
「俺が?」
「あなたでも本気のあの二人は厳しいと思う」
「厳しいなんてもんじゃないだろ」
俺は苦笑いした。
ピュトーンは俺を気遣ってくれたのか、厳しい、なんてマイルドな表現をしてくれた。
しかし俺と彼女達の力の差を考えると、殺気だって本気で殺りあっている二人を力づくで止めるのは不可能に近い。
「本気でそう思ったらうぬぼれなんてもんじゃない」
「じゃあ?」
「二人をサポートする。ラードーンは俺のためにしかけてくれたんだから、止めるよりも目的達成のためのサポートをしたい」
「そう。じゃあ二人を守るの? 回復でのサポートとか?」
「……いや」
このあたりは難しかった。
さっきからずっと、ピュトーンと話をしている間もずっと決めかねているくらい難しい話だった。
が……俺は決意する。
腹を決める。
こうして迷っている間も二人は殺し合っている。
ならば俺もさっさと決めてサポートのため介入すべきだと思った。
「まもりじゃなくて、攻撃のサポートをする」
「……?」
「アメリアエミリアクラウディア――」
俺は前詠唱をして魔力を高めた。
本当はここにアメリアに来てもらって、歌ってもらってそれで魔力を高めてもらった方がいいのかもしれないが、アメリアをこんな地獄の果てみたいな戦場に連れてくるのは気が引ける。
やってはいけないと思う。
だから自分の力で何とかしなきゃって思った。
前詠唱で充分に魔力を高めた後、戦っている二人を丸ごと包み込むように、辺り一帯をすべて範囲内に収めるイメージで魔法を発動。
「【ブーストコンバーター】」
魔法が発動し、半径一キロくらいの範囲を包み込んだ。
その範囲内に収まったラードーンとデュポーン、互いにぶつける力の威力が上がった。
両方の威力がともに上がって、それがぶつかり合って、より地獄絵図な感じになっていった。
この状態で間に割って入ると一瞬で死ねるな、とおもいつつも、それでもまったく変わらない様子で殺し合いを続けるラードーンとデュポーンに一周回って感動すら覚えた。
一方で、俺の隣にいるピュトーンはこれまた変わらない様子で、天変地異級の戦いを眺めながら聞いてきた。
「力を増幅したの?」
「ああ」
「それをして良かったの?」
「そもそもが、力と力をぶつけてその先のものを産み出してくれる、って事をしてくれてるんだ。だったら下手に手加減とか抑えてもらうより、むしろ力を増幅して一気に終わらせた方がいいと思う」
「そう……一理ある」
「上手くいってくれるといいんだけど」
「でも、この後どうするの? あそこまでいったら二人ともやめない」
「ああ、それなら――」
こたえようとした瞬間、変化が起きた。
それまでただぶつかり合って、破壊しか生み出さなかった二人の間に変化がおきた。
きらりと光を反射する何かが生まれた。
最初は錯覚かと思った、しかしすぐにそうじゃないと確信した。
拡散したからだ。
きらりと光を反射するそれが拡散して、真冬の空気中に広がるダイヤモンドダストのようになった。
中心だけじゃなく、あたり一体に広がっていく。
不思議な事に、それは二人の力のぶつかり合いに影響されること無く、荒れ狂う空気の中でも静かに漂っている。
だからこそ確信する。
「これか……デュポーンが言ってたのは」