308.根性が全てを解決する
ひとまずボルテージが下がった二人。このまま放っておくとまた何かの拍子で殺し合いを再開させてしまうから、戻らないように俺が話の主導権を握ることにした。
「二人に聞きたい事があるんだ」
「なになに? なんでも聞いてダーリン」
デュポーンが目を輝かせて俺の方を向いてきた。
ラードーンも口を閉ざしたままだが、同じように俺の方を向いて待ってくれている。
「二人が戦ってる時の事を聞きたい。何回か見た感想だけど、二人はいつも真っ向から力と力のぶつかり合いをしてるように見える。小細工とかそういうのは一切なさそうな感じがした」
「それは当たり前だよダーリン」
「うむ」
デュポーンとラードーン、どちらもほぼ即答といっていいレベルの速さで答え合わせしてくれた。
「やっぱりそうだよな」
「もちろん! こんなやつなんてその気になればいつでも殺せるんだから、小細工なんて必要ないんだもん」
「弱者をひねるのに小細工など不要だ」
「はあ? 何思い上がってんの?」
「ほう、お前の辞書では事実のことを思い上がりと間違えているのか?」
「なんですって!」
「待て待てどーどー」
再び二人の間に割って入った。
ちょっとだけ後悔し、やめようと思った。
このままだといつまでたっても話が進まない。
やっぱり彼女達に頼むのはやめよう――と思ったその時。
「ごめんなさいダーリン」
「え、ああいや……」
「ねっダーリン、ぎゅってして」
「え?」
「こんな感じで――ぎゅってして」
デュポーンは俺の前でぐるりと身を翻して、背中を俺の胸に押しつけてきた。
そして俺の手をとって、自ら抱き留められる姿勢になった。
それで「ぎゅって」してって言われたから、さすがに求めてる事は理解した。
俺は言われた通りにぎゅっと彼女をだきしめた。
デュポーンは抱きしめる俺の手に自分の小さい手を重ねて、「えへへ」とはにかんだ。
「ダーリンにぎゅってされたから、大人しくしてる」
「いいのか?」
「もっとぎゅってして」
「……ああ」
言外に抱きしめてるうちは大人しくしてる、と言ってくれたのが分かって有難いとおもった。
「それで、力をぶつかり合うだけじゃなくて、時には体でうける事もあると思うんだ」
「うん、たまにね」
「そういう時はどうしてるんだ?」
「うーん……」
デュポーンは俺の腕の中に収まったまま考える仕草をした。
それをしばらくやってから。
「……気合?」
「気合なのか?」
「そんな感じ。あいつには――あっ喧嘩しないから安心してねダーリン。あいつとかに負けるのは嫌いだから、受けても耐えられちゃうの」
「……そうか」
「厳密に言えば」
今度はラードーンが答えた。
「そいつらとの殺し合いは次第に精神が高揚し、精神が肉体を凌駕していく。もとよりやや劣――同格の存在、精神が肉体を凌駕すればいかようにも耐えられる」
「なるほど……」
ラードーンの方も、色々と気遣った感じで俺の質問に答えてくれた。
俺は少し考えこんだ。
二人の答えは俺が期待したものとはちょっと違ったからだ。
俺はテクニック的なものがあると、そういう感じの答えを期待していた。
ラードーン、デュポーン、ピュトーン。
彼女達は同格の存在だと俺は思っている。
それは俺が一方的に思っているだけじゃなくて、歴史に残っているように、そして本人達が言っているように。
一旦戦いはじめると日単位か、月単位で戦いが長引く。
規模が人間の尺度を大きく超えているのもそうだが、そもそも同格の存在でもなければ戦いがそんなに延びることはあり得ない。
そして彼女達はお互いに殺意を持っている。
同格の存在に殺意をもって日単位で殺し合っていれば、おのずと「殺す為の工夫」をしているだろうと思ったのだ。
その工夫はつまり技術、その技術が知りたかった――のだが。
「すごいな、そんなに長く力と力のぶつかり合いだけをやれるのか」
俺は感心した。
ほしかった答えこそ得られなかったが、予想外の答えでそれはそれで感心してしまった。
「ダーリンはどうしてそれを聞いてきたの?」
「それは――デュポーンにはまず説明からしないといけないな」
そうおもい、まずはデュポーンにいきさつを話した。
俺自身の測定の魔法は出来た、次は街のみんな、魔物達でも使える形のを作りたい。
その前提をまず話した。
「みんなにも使えるものをって考えたら一つ問題が出てくる」
「なに?」
「魔力が低いと、魔法を発動するだけで魔力のほとんどを消耗してしまう。魔力が低ければ低いほど正確に測れなくなってしまう」
「うんうん、そだね」
「だから魔法じゃなくて、魔導具って感じの『装置』として街に作っておきたい」
「さすがダーリン。それがいいとあたしも思う!」
「そうなると、魔法は『術者の魔力では壊れない』ようにするのは簡単だ、俺が今やったから。でも装置にするとそれが極端に難しくなる。だから――」
そこで一旦言葉を切って、ラードーンとデュポーンを交互に見比べた。
「圧倒的な力でも耐えられる何かがあれば教えてほしかったんだ」
説明が終わり、苦笑いした。
これで説明は終わったが、二人の言い分だとそういうものはないらしい。
ここにピュトーンはいないが、たぶん似たような答えしか返ってこないだろうと思った。
「……ねえ、ダーリン」
少しの間思案顔をした後、デュポーンが俺の腕からするりと抜け出して、正面に立ち見つめてきた。