300.自家憧着
「ダーリンはあの女の事が好きなの?」
あくる日の昼下がり、いつものように宮殿の自分の部屋で魔法の練習をしていると、デュポーンがいきなりやってきてそんな事を聞いてきた。
「なんの話だ?」
「あの女の事好きなの?」
デュポーンは同じ言葉を繰り返したが、いまいちピンと来なかった。
「あの女って?」
「ほら、この前歌ってた女の子のこと」
「ああ、アメリアさんの事か。そりゃ――」
「好きなの? 人間同士だから結婚する?」
「――す、ってふぇっ!?」
憧れの人だから好きの部類にはいるって答えようとしたけど、デュポーンの追加質問に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
好きなのかという質問だったら好きだとしか答えようがないけど、それは「結婚する?」という形の好きじゃない。
「な、なんでそんな事をきくんだ?」
「もしダーリンがあの女の事すきだったら話つけなきゃって思ってさ」
「話つける!? ちょ、ちょっとちょっと」
俺は慌てた。
デュポーンがあまりにも不穏当な事を言い出したから焦ってしまう。
「あ、アメリアさんはただの人間なんだから、手荒な事は――」
「ほら、ダーリンが好きなのに向こうがダーリンの事好きじゃなかったら腹立つじゃん? 逆は全然いいんだけど」
「――ほえ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
さっきのにつづいて、またまたデュポーンの発想が予想の外に行っちゃってて盛大に戸惑ってしまう。
「それって……どういう事?」
「ほら、せっかくダーリンが好きになってあげてるのに、向こうがそうじゃないのって腹立つじゃん?」
「あー……うん? わからなくもない、か?」
どう返事していいのか分からなかった。
ちゃんと言葉にして説明されると、デュポーンの理屈が何となくわかった。
というか、俺自身「置き換えれば」そう思うだろうと今思った。
例えばアメリアが誰か好きな人がいて、でもその人がアメリアのことなんて、っていってたら俺もむかつくっておもうだろう。
だから話はわかる。
わかるが、素直に同調し辛い内容だった。
「ねえ、どうなの? あの子の事好き? ラブ?」
「あー……ラブではない」
これまた即答で答えられない質問だった。
好きじゃない、は否定するべきだけど、ラブか? といわれればラブじゃないと即答できる。
かといって好きとラブは意味として重なっている部分もあるから、即答では答えにくかった。
だから少しためらったが、ラブじゃないとだけ答えた。
『ふふっ……くっくっく……』
「ラードーン?」
俺の中から、ラードーンがいつになく――というか。
なんだか今までで一番楽しげな笑い声が伝わってきた。
『あの娘に好きな人間がいて、でもその人間が彼女の事好きじゃなかったら腹がたつのだろう?』
「ああ、もちろん」
『ぷっ! くっくっく……いやなんでもない、忘れてくれ』
「えっと……」
ラードーンには噴き出すほど、俺の答えがおかしかったようだ。
一体どういうことなのか――。
「ちょっと! あいつと話してないであたしの方見てよ!」
デュポーンは俺の顔を掴んで、自分の方を向かせた。
デュポーンと目と目でまっすぐ、至近距離から見つめ合う形になった。
さっきまでの反応とは違う。
アメリアの話をしている時は余裕があって、どことなく他人事的な空気感だったのだが、ラードーンとはなしていると感じられるとそれが一変して、かなり激しく不快感を剥き出しにしてきた。
アメリアの事好き? という話から、最初は「女の嫉妬」的な展開をちょっと予想した。
だがそうはならなかった。
むしろラードーンとちょっと話しただけでデュポーンは激しく反応し、それこそ嫉妬したかもしれないような感じだった。
俺でもはっきりと分かる、デュポーンにとってのラードーン……ピュトーンも含めて……とそれ以外って感じだった。
「ああ、悪い」
「ダーリンは悪くないの。どうせあいつが勝手に面白がって勝手にダーリンに話しかけたんでしょ」
「ああ、まあ。それはそうだ」
「だから悪いのはあいつ。いつか絶対殺すから」
「ぶ、物騒だな……」
そういい、苦笑いしつつも、俺は止めようとはしなかった。
たとえラードーンとデュポーンが本気で争ったとて、慌てる必要は一切ないって歴史が証明している。
二人の本気の戦いは年単位に及ぶ、人智を遙かにこえるもの。
大事だけど慌てる必要はないって思ってしまう。
「で、どうなのさ。あの女の事、本当にラブじゃない?」
「ああ、違う。アメリアさんの事は尊敬してるから、ラブじゃない」
「尊敬なの?」
「ああ」
「わかった。じゃあ適当に仲良くしとくね」
「ああ、うん。そうしてくれると助かる」
聞きたい事を聞いて、それで納得して部屋から立ち去るデュポーン。
そんなデュポーンを見守る最中――いやその前の、デュポーンに顔を掴まれてる間も。
ラードーンはずっと――人の姿になっていれば腹を抱えていたであろう位の勢いで笑い続けていた。
「あの……本当に、なんか変な事をいったか?」
デュポーンがいなくなったから改めてちゃんとラードーンに聞いた。
するとラードーンは少しだけ笑うのを抑えて答えてくれた。
『あの娘に好きな人間がいて、でもその人間が彼女の事好きじゃなかったら許さないのだろう?』
「え? まあ許さないというか、腹立つというか……まあ許さない、か?」
当然だがさっきの話そのままだった。
ちょっと言い回しが変わっていたけど、実際なってみたらたぶん許せないんだろうなとは思った。
『許さないためなら力は必要だな?』
「それは……まあ」
『ふふっ、これはいい』
「え?」
『お前はまだまだ、まだまだまだ強くなれそうな。とおもったのだ』
「はあ……」
ラードーンらしからぬ「まだ」の五連発。
そういって彼女はめちゃくちゃ楽しそうで、俺はますますこまったのだった。
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