表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/439

03.才能の片鱗

「どうやったらそんな短い期間で覚えられた!」

「どうやったらって……」


 ブルーノの剣幕に気圧された。

 自分が何かまずいことでもしてしまったんじゃないか、みたいな気分になって、俺はこれまでやってきた事を思い返した。


「普通に、毎日魔導書通りにやっただけだけど」

「すると……その魔導書がすごいのか? いやあり得る、うちは『最古の貴族』、書庫にとんでもねえ代物が眠ってたとしてもおかしくねえ」


 ブルーノは下あごを摘まんで、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。

 何となく邪魔するのも気が引けるから、しばらくじっと見守っていたら。


「おいリアム、それを貸せ」

「う、うん。わかった」


 またまた剣幕におされて、俺は『初級火炎魔法』の魔導書を渡した。

 ブルーノはそれを開いて、俺がここ一ヶ月ずっと見ていたページを見つめ、同じことを始める。


 彼が魔法の練習を始めるのなら、ここは邪魔しないでどっかに行ってよう――。


「なあ、リアム」

「え?」


 立ち去ろうとした俺を、ブルーノが呼び止めた。

 びっくりして振り向く。

 すると、ブルーノは魔導書を見つめたままだが、いかにも面倒臭そう、って顔をしているのが見えた。


 そんな顔をしながら、話しかけてくる。


「お前、そんなに頑張ってよ、当主にでもなりてえのか?」

「当主に? なんで?」

「オヤジと一緒だからだよ」

「……?」


 一緒? チャールズ……父上と?

 なにが一緒なんだろうか。


「まさかしらないのか? オヤジがあんなにしゃかりきになってる理由を」

「理由……あるのか?」

「ほら、貴族ってある程度年いったら家督を譲るのが常識だろ?」

「そうなんだ」


 それは知らなかった。

 俺の考えてることを、ブルーノは正確に読み取った。


「やっぱり知らなかったのか。まあ、のんびり屋のお前らしい。貴族の家督ってよ、死んだ後に移すとごたつくんだよ。そうなるよりかは、生きてて権力を持ってるうちに譲った方が、その後の混乱を収められるんだよ」

「へえ」


 その発想はなかった。

 お貴族様ってのも大変なんだな。


「それをやった方がもめねえですむ。まあそれで、俺達も気ままに過ごせるんだがよ」

「なるほど」

「だがよ、そこで問題が一つ出てくる。うちはオヤジが譲った瞬間、四代目になって貴族返上、庶民転落だ」

「……あっ」

「家督を譲った後も、仕事丸投げして、権力をもったまま楽しむのが当たり前だから、このままじゃそれが出来ねえから、オヤジは必死なんだよ」


 なるほど……。

 確かに、よく考えたら、自分の次の代が平民になるからといって、そこまで必死になるのもおかしい話だ。

 父上のそれは鬼気迫っている、まるで自分の事のように。


 なるほど、そういう理由があるからだったのか――。


「ああもう面倒くせえ!」

「え?」


 いきなりブルーノがかんしゃくを起こした。

 何事かと思っていると、彼は魔導書を俺に投げつけた。


「こんなめんどいことやってられるか! じゃあな!」


 そう言って、大股で立ち去った。


「……」


 俺は苦笑いした。

 練習を始めてから、まだ十分も経ってないだろうに。


 まあでも、魔導書が俺の手元に戻ってきたんだ。


 これでまた、練習できる。


     ☆


 数日後、俺は書庫に向かった。

 前に持ち出した『初級火炎魔法』の魔法は全部覚えた、今度は『初級氷結魔法』の魔導書を持ち出した。


 持ち出した魔導書を、林まで行くのを待ちきれずに、早速練習を始める。


 火炎魔法は百人に一人の割合でつかえる、でも氷結魔法は、温度を上げるよりも下げる方が難しいから、千人に一人らしい。


 その説明は普通に納得出来た。


 魔法を使わないで火をおこすのは簡単だが、氷を作るのは無理だ。

 そんなの、季節を待つ以外方法はない。


 だから難しくて、魔法でも出来る人間は少ないのは納得だ。


 だからこそ、ワクワクした。

 憧れの魔法、しかも難しい氷結魔法。

 それが出来たらどんなに楽しいだろうか。


 俺は廊下を歩きながら、魔導書で氷結魔法の練習をした。


 火炎魔法のときもそうだが、いくつかは魔導書にそのまま魔法を使うのがある。

 魔導書を補助につかうから、直接かけた方が、魔導書もサポートしやすいらしい。


 魔導書のマテリアルコーティングも、そのためにあるらしい。


 だから俺はやってみたが――。


「うわっ!」


 上手く行かなくて、魔導書が燃えた。

 氷結魔法を使おうとしたのに、火炎魔法のファイヤーボールを魔導書にかけてしまった。


 炎上する魔導書、びっくりして取り落とす。


 慌てて拾い上げて、炎を消す。


「誰だこんなところで火を使っているのは――リアムか」

「父上!」


 俺はますます慌てた。

 声の方を向いた。

 すると父上が執事に何かを話しながら、こっちにむかってくる。


 多分どっかに行く途中だろう。

 なぜなら、父上の目は相変わらずこっちを向いていない。


「廊下で火を使うな……それは魔導書か?」

「はい」

「初級氷結魔法……うん? 今のは火ではなかったか?」

「はい、すみません。氷結は難しくて、火炎魔法が出てしまいました」

「そうか……なんだと?」


 そのまま立ち去りかけた父上、立ち止まってこっちをむいた。


 初めて――視線が交わされる。


「お前……魔法を勉強していたのか?」

「……はい」


 どう答えていいのか迷って、俺はとりあえず頷いた。

 魔導書を使う許可をもらいに行ったはずなのに……覚えてないのか。


 父上はしばらく俺を見つめた。


「魔導書がなくても使えるということは、火炎魔法はマスターしたんだな? いつから勉強していた」

「一ヶ月前です」

「一ヶ月前だと!?」


 驚愕する父上。


「一ヶ月で魔法をおぼえたというのか?」

「はい」

「才能が……あった?」


 俺を見つめる父上。

 その目は、初めてこのリアムの体で目覚めたとき、あの宴会の時。


 娘が生まれたときの目と、ほとんど一緒だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2025年1月6日アニメ放送開始しました!

3ws9j9191gydcg9j2wjy2kopa181_np9_jb_rg_81p7.jpg
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「まさかしらないのか? オヤジがあんなにしゃかりきになってる理由を」 「理由……あるのか?」 「ほら、貴族ってある程度年いったら家督を譲るのが常識だろ?」 「そうなんだ」  それは知…
[一言] 氷って何処まで知ってるかよな。文明科学が発達してれば水を冷やせば冷やすほどできるから水魔法さえ使えれば問題ないしね(笑)お湯もそうやな
2019/12/30 21:23 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ