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289.積極的黙認

「それはいいんだけど……」


 俺はちょっとだけ困った。

 ブルーノの剣幕に驚いた。


 彼が頼んできたことは今までもやってきた事――というか今もやっていること。

 俺が作った物とか、この国で金になるようなものとかはほぼほぼブルーノに独占して取引させている。


 【フォノグラフ】の魔導具も、ブルーノが望めば今まで通りに卸すつもりだ。


 それはブルーノも分かっているはずなのに、今こうしてめちゃくちゃな剣幕でいってきてる。


「どうしたんだよ兄さん、いつもと様子がちょっと違うけど」

「あっ……お見苦しいところ、大変申し訳ございません」

「それはいいけど、なにか訳ありなのか?」

「はい。理由は……二つございます」

「ああ」


 頷き、ブルーノをまっすぐみつめる。


 ブルーノにここまでさせる二つの理由の内訳が気になった。


「一つ目は、陛下の新魔法は率直に莫大な利益になるであろうと直感的に思ったからでございます」

「そうなのか?」

「窓際までご足労頂けますでしょうか?」

「え? ああ」


 頷き、ブルーノに言われた通り窓際に移動した。

 そこで何をしろ――と言われるまでもなくすぐに分かった。


 窓の外、見下ろす宮殿の前庭。

 そこには大量の荷馬車が駐まっていた。


「あれは?」


 振り向き、肩越しにブルーノに視線を向けて、問いかける。


「手付金でございます」

「手付金?」

「それほどに、喉から手が出るほどほしい商品、ととらえて頂ければ」

「すごいな……」


 心の底から感心し、そうつぶやいた。


 もう一度窓の外を見て、荷馬車を確認した。

 あれに全て現金が積まれていたとして――。


 一つの商品として、あるいは一度の取引として。

 そういう分け方でみたとき、そこにある分は今までで一番の高額どころか、これまでの最高の倍近くはあるかという勢いだった。


「そんなに売れるのか」

「はい。ご婦人達、特に上流階級のご婦人達は役者や詩人などに入れ込むことが多く、そういった方々に、陛下が使い魔の皆様方に与えている様なものはきっと大歓迎されるはずでございます」

「なるほどな」


 それは何となく想像出来た。

 想像は出来たのだが。


「それだけでこんなになるのか?」

「それがもうひとつの理由でございます」

「そうだったな――うん?」


 納得しつつ、窓の外のお金にはもう用はないからブルーノに体ごと振り向いたが――驚いた。


 ブルーノは何故か赤面して、微苦笑を浮かべていたのだ。


「どうした兄さん? いいにくい理由なのか?」

「はい、言いにくいと言えば言いにくい理由でございます」

「そうなのか」

「陛下は『積極的黙認』に聞き覚えはございませんか?」

「『積極的黙認』?」


 首をかしげ、頭の中にある知識を探る。

 俺の知識にそれらしき物はなかった。


 念の為にラードーンにも「どう?」という気持ちを向けてみたが。


『しらんな』


 とあっさりした答えが返ってきた。


「しらないけど、それってなんなんだ?」

「陛下は未婚でございますので、無理もございません」

「結婚してると分かるのか?」

「はい。正確には既婚である貴族の当主であれば……といったところです」

「ああ、兄さんも今は別の家の当主だもんな」


 だからか、と俺は納得し、言われたブルーノは小さく頷いた。

 元々同じハミルトンの子供だったが、四男であるブルーノは他の家の婿養子になった。

 そこで当主になって今は商売の辣腕を振るっている。


「俗な話で恐縮なのですが、貴族のご婦人達は肉体的な不義をのぞけば一切合切自由にしていいという風潮がございます」

「肉体的……不義?」

『夫以外の子を孕むようなことはするなということだろう』


 なるほど、とラードーンの解説に納得した。

 貴族は血のつながりを大事にする。

 だから貴族の特に正妻は、浮気はしてはならないというのは何となく知っていたが、こういう言い回しと制限は初耳だ。


「そうした中、貴婦人達は騎士達との関係を好みます。騎士が持つ自己犠牲の精神がベースとなり、精神的なつながりのみで自分に命を捧げる騎士との関係を好むのです」

「へえ……」


 なんか分かるような分からないような話だな。


「そして、そう言った関係性を、貴族の当主――つまり夫側は『積極的に黙認』することが美徳とされます」

「あっ」


 分からなかった最重要のキーワードが再びブルーノの口から出てきて、それで話が繋がった。


「貴族ですので、精神的な不義は黙認。貴族ですので、金銭的な面で見栄を張るくらいが良しとされる。それが合わさって『積極的な黙認』という形になりました」

「へえ」


 なんともまあ……すごい世界だな。


「そのようないきさつもあり、私の立場上、この商いは赤字になるくらいが、貴族としての『格』があがります」

「えっ!? 赤字の方がなのか?」

「はい」

「へえ……」

『人間の貴族は珍妙なしきたりを作るのがうまいものだな』


 そう話すラードーンは半ば呆れ気味で、俺も同感だと思ったのだった。

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