276.ゴールは一緒
「もしや」が分かればやりようがある。
俺は来た時以上の速さで地上にとんぼ返りした。
ある程度の地上、まわりが明るく見えてくるくらいの高さでいったんとまった。
「【アイテムボックス】」
魔法を唱えて、アイテムボックスの中に空気を詰め込んだ。
普段はやらないことだが、空気はそこら中にある。
詰めるだけ詰めて、空の上に戻る。
まわりが暗くなって、息苦しくなってきた高さに戻ってきた。
多少の息苦しさなんてなんのその、その位のテンションで【アイテムボックス】を再びだして、詰め込んできた空気をだした。
かなりの風切り音とともに、空気がアイテムボックスから解き放たれる。
一瞬、失敗かと思った。
空気の薄い所で一気に放出すると、空気はものすごい勢いでまわりに拡散されていった。
が、すぐに大丈夫だと思った。
拡散するよりも早く、アイテムボックスから空気が続けて流れ出たのだ。
まわりが一時的に空気が濃くなった結果――明るくなった。
「空気だったのか……」
ちょっとだけ感動した、感動がそのまま言葉になった。
そうなると、次は「空気がどういう風に作用してるんだ?」という疑問が生じる。
ふと、室内にいた時に見えた、発想の起点になった「空間を舞うホコリ」の事を思い出した。
空気の中に存在するそういうものが影響してるんじゃないかって思った。
「……【スモール】」
少し考えて、自分に魔法をかけて小さくした。
小さくなって、ホコリとかそういう「小さいもの」がどういう風になっているのかを確認する。
小さく、小さく。
【スモール】をかけ続けて、とにかく自分を小さくする。
加速的に小さくなっていく自分の体、それにともなっていろいろ見え方が違ってくる。
そうやってどんどんどんどん、どんどんどんどんどん――と小さくなっていく。
放出した空気の中に混ざっていたホコリの一粒が、自分の体よりも大きくなってくると、まわりの見え方が別世界かってくらいまったく違った。
それまではまわりが透明にみえていたのが、ホコリよりも小さい何かが充満していた。
それはまるで、霧の中にいるかのような感じになった。
ホコリよりも細かい何かの霧、普段はみえない何かの霧。
それはよく見ると、淡く光っていた。
更に小さくなってよく見ると、細かいなにかが一粒一粒、光を反射しているのが分かった。
それが無数にある、無数の何かが光をちょっとずつ反射している。
一度大きくなった。
【スモール】の魔法を解除して、元の大きさに戻った。
見え方ももどった。
空気が広まりきっていないそこは、離れて空気のないところに比べて明るかった。
「なるほど……空気の中にある細かい何かが光を反射した結果、か?」
そんな事があるのか? と一瞬思ったが、あった。
そもそも光を反射するのは鏡だけじゃない。
もっといえば、「鏡っぽい」ものだけじゃないのだ。
昔すんでいた村は、冬になると結構な雪が積もる。
雪が積もった晴れの日は普通の晴れの日よりも遙かにまぶしいことを思い出した。
雪が光を反射しているのだ。
真っ白で、「反射」とは縁が遠そうな白い雪でも、光をめちゃくちゃ反射する。
それで考えたら、空気の中にいるめちゃくちゃ細かい何かが、無数に弱く光を反射したから明るくなった、というのは納得のいく話だ。
だったら反射の強いものをたくさん――いや。
考え方を変えた。
自覚はあった、ゴールは近いだろうと。
ゴールが近いかもしれないという確信が、俺の頭を更に速く回転させた。
今までは「細かいのをたくさん作る」という発想でやってた、それがすごく難しかった。
だけど、空気中に「何か」が大量に存在しているのなら、それを増幅するという方向性でやればよかった。
大量に何かを作るより、大量に何かあるものに影響を与える魔法の方が遙かに簡単だった。
つまりは範囲魔法ということだ。
俺はゆっくりと下降した。
飛行魔法を解いて、ゆっくりと下降していく。
アオアリ玉を持ってきた理由は地上の吸い寄せる力が弱いから。
それもあって、最初はゆっくりと、それが徐々に速くなって、というペースで「落ちて」いった。
その間、考えた。
新しい魔法の事を考えた。
今度は簡単だった、範囲にわたって特徴を強化する魔法だから、簡単だった。
途中で止まることなく、一直線に地上へ、天井の穴からそのまま建設中の会場の中にもどった。
床にしっかりと足をつけて立った後、手をかざす。
「【リフレクトランス】、31連」
降りてくる途中に考えた魔法を形にする、簡単な形だから31連であっさり完成した。
魔法の光が魔法陣とともに拡散して、まわりの空間――室内の空間に影響を与える。
次の瞬間、室内がぱあと明るくなった。
直接の光ではない、影とかは出来ていない。
天井から差込まれた光が、空気中の細かい何かに反射されていたのが、その反射が強くなったことで室内全体が明るくなったのだ。
「……よしっ!」
俺はガッツポーズした。
目指した形とは違ったけど、ほしかった結果が得られたというのは大成功だから、思いっきりガッツポーズしたのだった。