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272.最高の舞台

 昼下がり、宮殿の応接間の中。

 俺はブルーノを呼び出して、二人っきりで向き合っている。

 いつものように詰め物たっぷりのソファーに座って、テーブルを挟んで向き合う。


 この高級なソファーもテーブルも、というかこの街の「贅沢品」は全てブルーノに調達してもらってるよなあ、と頭の隅っこでちょっと思った。


 そう思いながら向き合っていると、ブルーノから切り出してきた。


「本日はどのような御用向きで?」

「実は会場の事で、兄さんのアドバイスがほしいんだ」

「会場……ですか」

「ああ」


 俺は頷き、まっすぐブルーノを見つめた。

 多分だけど、すがるような目をしているかもしれなかった。


「ラードーンにも聞いてみたんだけど、まったく知らない分野だと言われたから」

「神竜様でも知らない事をわたくしなんかが――」

「ああいや。逆に人間の娯楽に関する事は分からないっていうんだ」

「――娯楽、ですか」


 言葉の途中を遮るようにいってやると、ブルーノは(へりくだ)るのをやめて、俺をみつめ、つぎの言葉をまった。


「アメリアの演奏会。この街のみんなに聴いてほしい。そうなると当然、みんなが集まる会場が必要になるよな? 家の中で聴いてもらうのはおかしいし、宮殿前の広場もみんながはいるほど広くはない」

「おっしゃる通りでございます」

「で、ためしに造ろうとしたんだ――でも」


 俺は【アイテムボックス】から拳大の岩を取り出した。

 それを【スライサー】の魔法で薄い板状に切って、それをブルーノとの間のテーブルの上に並べる。

 正方形の石の板、それを5かける5の、25枚での大きな正方形をならべた。


「街の外の開けた場所に作ろうとしたんだ、でも舞台とか会場とか、そういうの作ったことなくて、こんな感じの板を並べたものしかできなかった。ああ、もちろんこれより遙かに大きかったけど」


 俺は苦笑いしながらそういった。


 岩から切り出した石の板なのは同じだが、これよりも遙かに一枚一枚大きいものを、20かける20の400枚を作って、ならべた。

 しかしそれはただの「広いスペース」にしかならなかった。

 一応「舞台」に見えなくもないけど。


「自分でもわかる、これはアメリアさんの舞台に相応しくないって」

「そうでしたか」

「それでラードーンにも聞いてみたけど、人間が娯楽で建てるための建物の事は何もしらん、と言われたんだ」

「あぁ……それはそれは……」


 ブルーノは返事に困っていたようだから、俺が言い切ってやった。


「神竜の意外な弱点だったな、まあ説明されればむしろ当然ってなもんだが」

「そうで……ございますな」

「で、こうなったら専門家に聞いてみるかって事になって。兄さんはそういう専門家の事を知らないか? っておもったんだ」

「そういうことでしたら、僭越ながら自分が少々」

「分かるのか?」

「はい」


 ブルーノは小さく、しかしはっきりと頷いた。


「ハミルトンの家にいたころは後を継ぐことはありえません(、、、、、、)でしたので、芸事に精を出しておりました」

「そうなのか?」


 なんでまた――と思っていたら、ラードーンがさくっと答えてくれた。


『趣味に没頭することで跡目争いに興味は無いぞというアピールだ。処世術だな』


 なるほど、とおもった。

 それを納得しつつ、ブルーノが続けた話にも耳を傾けた。


「その時におぼえた事ですが、演奏用の建物の構造は大きく分けて二パターンございます」

「どんなのだ?」

「音の反響がよいものと、まったくしないもの」

「……なるほど?」


 言いたいことはわかる。

 音に関して両極端の造りだという話だから、目的に応じて反響のありなしを使い分けるという話なんだろうなというのが分かる。


「どっちがどういいんだ?」

「音楽や歌の種類によります。一番大きな違いは『余韻』です」

「よいん」


 すぐにはピンと来なくて、おうむ返しでつぶやいた。


「余韻でございます。反響がよいとはいっても、当然徐々に音が小さくなっていきます。したがって余韻が大事な音楽の場合は反響がよい建物がむいています」

「なるほど」

「演奏ではありませんが、演劇の場合は反響が少ない方がよいともされています。音は常に前方へだけ伝えるからです。反響がよすぎては前で演技をされているのに後ろからも声が聞こえるという落ち着かない状況にもなります」

「へえ……すごいな兄さん、詳しいな」

「恐れ入ります」


 俺は少し考えた。

 かつて聴いた演奏、そしてここ最近試しに聴かせてもらった演奏。


 俺が好きになったアメリアの演奏は――。


「余韻が素晴らしかった。それをみんなにも聴いてほしい」

「であれば反響のよい造りがよろしいかと」

「うん。そういう建設に詳しい人知ってる? 兄さん……はさすがに建築までは無理だよな」

「おっしゃる通りでございます。腕のいい職人集団を知っていますので、すぐに呼び寄せます」

「うん」


 これで話はまた一つ進んだ。

 一万人の魔物が全員はいるとなると結構な工事になるが、アメリアの歌を最高の形でみんなに聴いてほしいから、それくらいはたいしたことじゃない。

 建築のノウハウはまったくないけど、建物を建てるのって純粋な労働力がいる場面が多い。

 その辺りを俺の魔法でフォローすれば色々とかなり短縮できるはずだ。


 また一つ進んだ、最高の演奏会までまた一歩すすめられた。

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[一言] 一緒についてきた国の連中はどうしてるんだろ 監視不可、両親奪還され、街が消え、王は舞台準備 歌姫に御執心は目論み通りだけど国としては困ったことに
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