258.らしいきれかた
『さて……実際はどうするのだ?』
ラードーンが俺に聞いてきた。
「考えはまとまってる……『今』ならたぶん実現、いや間違いなく出来るはずだ」
『ほう、それはたのしみだ』
ラードーンの言葉を受けて、俺は実行に移すことにした。
ふぅ――と、肺にたまった空気をまとめて吐き出すかのようにして意識を切り替え、より集中させた。
まずは――感じとる。
少し離れた所にいるアメリアの存在を。
今が魔法人生のピークと言ってもおかしくない位研ぎ澄まされた感覚でアメリアの存在を捉えた。
その存在を「魔力の塊」としてみた。
人間という生き物ではなく、あくまで魔力の塊としてみた。
そして更に意識を拡大する。
光の速さで意識の範囲を広げていく。
瞬く間にその範囲をこの国である約束の地を越えて、更に周囲の三国であるパルタ、ジャミール、キスタドール全て収めるほどに広げた。
そして、全てを感覚の中に収める。
人間ではない、魔力の塊とした。
範囲の中に存在する全ての魔力の塊を感覚の中に収めた。
そして片っ端からふるいにかけていく。
アメリアの魔力のベースに、ふるいにかけていくこと――一分。
「見つけた」
『ほう? どこにいるのだ?』
俺は目を開けて、ぐるっと半回転して、壁のある方を指さした。
「この先80キロ程度の所にいる。体は極めて健康的みたいでよかった」
『どうやってわかったのだ?』
「魔力って、一人一人特徴があるんだ。前からなんとなく感じてたけど」
『うむ、あるだろうな。人によっては色やら波やら、様々な表現があるが』
「ああ、俺も波っぽいので感じてる。それで意識を拡大して、アメリアの魔力と似てる波をさがした。血の繋がった親子なら似てるのも感じてたから」
『意識を拡大?』
「ああ……なんかおかしいか?」
『……80キロ先まで?』
「ちょっと違う。パルタ公国の隅っこまで広げた。円で広げた方が効率いいからついでにジャミールとキスタドールの方にもひろげたけど」
『……ふふっ、まるで化け物のように振る舞う』
ラードーンは楽しげに笑った。
俺も笑ってかえした。
「今だけだ。こんなのいつまでもつづくようなもんじゃない」
『逆鱗に触れられるとそうもなる。で、見つけたし早速助けに行くか?』
「いや、大丈夫だ」
『うむ? いいのか? なぜだ?』
「もう――」
俺は手をかざした。
数メートル先の床で魔法陣が広がって、光の柱がたった。
その光の柱の中から二人、初老の男女が現われた。
「――取り戻した」
と、ラードーンにいった。
『……ははっ』
ラードーンは珍しく、というか初めて聞くような反応をした。
「どうした?」
『いいぞ、お前。それはいい。我の想像の遙か上を軽々といったのが実に面白い』
「そうか」
『なにをどうやったのだ?』
「手を伸ばして掴んで引っ張った。アメリアさんの親御さんだからすこし失礼な振る舞いだったけど非常時だ」
『いいぞ、魔法理論まで適当になっているのが実にいい』
ラードーンはますます楽しげに笑った。
そんなラードーンとは裏腹に、ご両親は不安げに辺りを見回した。
「こ、ここは?」
「あなたは……いったい?」
「すみません。アメリアさんのご両親ですよね」
「そうだが……君は?」
「……ここはもう安全です。後ほどアメリアさんのところにご案内します。護衛もつけますので」
「君が助けてくれたのか?」
「ということはあの娘も無事なのね!」
アメリアの両親がそういい、俺は首を縦に振った。
すると二人は安堵した表情を浮かべた。
俺は名乗らなかった。
今リアムだと名乗ってしまうとはなしがややこしくなってしまうからだ。
☆
レイナをよんで、アメリアの両親をアメリアの所につれて行くように頼んだ。
両親はためらったが、受け入れ、従ってくれた。
それを見送ったあと、ラードーンが話しかけてきた。
『何ともまあ、肩透かしを喰らった気分だ』
そう話すラードーンはしかし実に楽しげだった。
「肩透かし?」
『うむ。これでも色々と問答を用意していたのだ。助けに行ったさきで行うであろうものを、な』
「問答……って?」
『向こうはどうせこう言ってくるであったろうな。先に家族に手を出したのはそっちだ、とな』
「先に……? ああ、そっか。そういえばそうだった」
言われた俺はその事を思い出した。
確かに、前世のラードーンのアドバイスに従って、トリスタンの家族に【ヒューマンスレイヤー】をかけて、人質にして脅した。
『やっていいのはやられる覚悟のあるヤツだけだ、とか言ってくるだろうなとおもってな、あれこれ殴り返す言葉を考えていたのだが――ふふっ、すべて無駄になったよ』
「えっと……ごめん?」
『謝るな謝るな、楽しいものを見せてもらったのだ、なにも問題はない』
「そっか」
『それに――お前らしくて、いい』
「俺らしい?」
『人質交換とか、脅迫を脅迫でやり返すとか、普通の人間ならやってるであろう事を一切合切かんがえず、ただ「魔法で取り返した」。そのお前らしさが実にいい』
「えっと……うーん」
ラードーンはかつてないほどの楽しげな口調で言ってくるが。
なんだろう……ほめられてるのか? これ。
微妙にちょっと、自信がない。
けど――まいっか。
アメリアの両親は取り戻せたし、ラードーンじゃないけど「何も問題はない」と思うことにしたのだった。