250.外堀、更に埋める
『しかし……偶然ではあるのだが、こうも用途にマッチしているとは驚きだ』
「用途にマッチ?」
『うむ、そいつなら途中で燃え尽きずにすむ、故に「神罰」をしっかり地上に落とすことが出来るというわけだ』
「燃え尽きずにすむ……確かにこのアオアリ玉なら燃え尽きることは絶対にないだろうけど、他のなにかだと燃え尽きるのか?」
『流れ星は見たことないか?』
「流れ星? あの夜空のヤツか?」
『うむ。あれはお前が魔力に変換してる隕石と同じ、こっちの世界の隕石が地上に落ちてきて、その途中で燃え尽きるものの現象だ』
「そうなのか」
『稀に燃え尽きない物が地上に落ちてくる。その時さらに稀に超希少金属が含まれていることがある。人間の力ではどうやっても精錬できないような超希少金属がな』
「へえー」
『それを活用して作った武器が、大抵は流星剣という名前で歴史に残る』
「あっ、流星剣はどっかで聞いた事がある。そうかそういういきさつなのかそれ」
『うむ、勉強になったか』
「ああ」
『まあ、お前のことだ。この話は明日になれば忘れているだろうがな』
ラードーンはいつものように「ふふっ」と楽しげに笑いながらいった。
そんな事はない――といいたいところだけど、魔法に関係ない武器とか金属の話だから、明日は言い過ぎにしても、気づいたら忘れているだろうというのは自分でもはっきりとその感じが想像出来てしまう。
というか……うん、その話を聞いてもあまり興味わかないしなあ。
「隕石の中に、なんか魔法とか、存在しないタイプの魔力とかが封じ込められたりすることは?」
『ふふっ、聞くと思った』
「はは……」
俺はますます苦笑いした。
ラードーンがそういう反応するの当たり前だってわかるし、まんまとそういう質問をしてしまった自分がちょっとおかしかった。
『我が知る限りないな』
「そうか、そりゃ残念」
といってみたが、さほど残念でもなかった。
『話が盛大にそれてしまったが。通常は地上に落ちていく間に燃えつきるものだが、それならば燃え尽きることがないのが大きなアドバンテージ、というはなしだ』
「なるほど。……」
『今度はなんだ?』
「ああ、【オブラート】とおなじで、アオアリ玉を素材にして何かをコーディングしたら、燃え尽きずに地上に物を届けられるんじゃないかって。熱は全部それが吸収するんだから」
『そういう話なら、建物の外壁に満遍なく覆うようにするといい。夏がものすごく涼しくなるぞ』
「たしかに……でも冬は余計寒くならないか? 冬でも昼間ガラスから日差しが入ってくると暖かいから、それを全部吸い取ってしまうとヤバイ気がする」
『うむ、そうだろうな。ならば庭によくある東屋の屋根だけにつかうといい。人間があれをつかうのは大体夏に涼む時くらいだからな』
「いいかも知れないな」
『日傘とかにもいいかもしれんな、人間の女ならよろこぶだろう』
「そう考えるといろいろ使い道があるなこれ」
ラードーンと雑談めいた感じで、色々と使い道やら活用やらの話を聞きながら、地上に向かってゆっくりと下降を始める。
ものすごく上空まで来ればアオアリ玉を何もしなくてもずっとおいておける、それがわかったから、もう空の上でやることは無くなった。
まさかラードーンのいうように、「神罰」を落とす訳にもいかないし、まあ、この空の上からでも攻撃魔法めいたものを落とせばどうなるのかは想像がつくしあえてやる必要もなかった。
だから俺はゆっくりと降りていった。
「……あれ?」
『こんどはどうした』
ある事に気づいて、飛行魔法で高さを維持する。
「足元」を見回していると、ラードーンが聞いてきた。
「雲って……こんな高さまで来てたっけ」
『うむ、そういうこともある』
「そうなのか?」
『雨が降るパターンはいくつかあってな、一つは薄い雲がどんどんどんどん空に昇っていく。ここは「下」に比べて寒いだろう?』
「ああ」
『さっきガラスの話をだしたからしっているだろうが、冬の冷たいガラスに水滴がつく』
「ああ、つくよな」
『冷たくなれば水気の含んだ雲も同じように水滴になる、水滴になれば地上に落ちていく』
「ああ、それで雨になるのか」
『そういうことだ。あくまで一つのパターンではあるがな』
「へえ、じゃあ下の方にある雲も魔法で冷やせばその場で雨がふるのか?」
『むろんだ。ふふっ、相変わらず魔法の応用になると頭が回る』
「なんだろうな、ぱっと頭にうかんでくるんだよな。こうすればいいとか、こうしたらいいかも、とか」
『お前らしいよ。そして』
「そして?」
俺は空中に浮かんだまま首をかしげた。
そしてなんだろう? と不思議がった。
『悪意やら邪気やらがまったくないのがお前らしい』
「悪意? 邪気?」
俺はますます首をかしげた。眉間も自分で分かるくらいしわができた。
今の話でなにをどう悪意や邪気の話に繋がるのか見当もつかなかった。
『良い事を思いついた。我に――悪用に付き合え』
「悪用?」
『なあに、悪いようにはせん』
「わかった」
俺は頷いた、それはラードーンの反応通り――。
『よいのか? そんなあっさりと』
――要請された内容から考えれば実にあっさりとした、軽いノリの返事だった。
「ラードーンのいう事は信用してる。悪いようにはしないんだろ?」
『ふふっ。流れに身を任せた結果ではあるが、お前はしっかりと王の資質を持っていたな』
「へ?」
『よい、それは今度だ』
「わかった」
『まずは……簡単な話だ。我が案内するいくつかの場所にいって、その近辺の雨雲を全て雨にして降らせてしまう』
「それだけ?」
『それだけだ』
「わかった。じゃあ案内してくれ」
『うむ』
俺はラードーンの案内通りに、飛行魔法でゆっくり地上にむかいつつ、彼女が案内してくれた場所にいって、大規模な氷魔法で雨雲を強制的に雨にしていった。
☆
空の上から見下ろす俺。
眼下では小さい雲がさらに小さく縮んでいき、小粒でまばらな雨を地上に降らせている。
『ご苦労。とりあえずこれで全部だ』
「うん……で、これでどうなるんだ?」
『うむ。根本的な話をするとな、雨は本来降るべき場所で降るものだ』
「そうなのか?」
『地方によって多雨だったり乾燥だったりするだろ?』
「なるほど、たしかに」
『それを空の上で見れば、雲が流れていって、しかるべき場所に到達するあたり「育ちきって」雨になって降り注ぐ』
「えっと……うん」
俺は頷いた。
ラードーンの説明を受けながら、なんとなく人差し指を立ててぐるぐる回しながら、それを補助にするような感じで言われた事を想像していた。
『今、お前にやらせたことを一言で言えば、降るべき場所にいく前に強制的に降らせた――だ』
「まあ、そうだよな」
『それでどうなると思う?』
「どうなるって……」
どうなるんだ?
って答えあぐねていると、ラードーンは「ふふっ」と、まるで答えられないことを予想したような感じで答えあわせてしてくれた。
『本来降るべき場所で降らなくなるのだ。先に降らせてしまったからな』
「なるほど、いわれてみればそうだ」
『それが理屈。そしてここからが肝心な所なのだが』
「うん」
『我が案内した所はすべて、パルタ公国で降るはずだった雨雲の通り道だ。さて、ここまで言えばもう分かるだろ? これを繰り返せばどうなる』
「……はっ」
俺ははっとした。
ラードーンのいうとおり、さすがにここまで説明されればもう分かる。
パルタで降るはずだった雨を全部先に、別の所で降らせた。
つまりパルタでは一切、雨が降らなくなってしまう。
『礼を言うぞ。偶然だが、更にパルタを締め上げる方法を思いつかせてくれて』
「いやまあ、偶然だし……」
なんでここで礼を言われるのかよく分からなかったけど、後日デュポーンにこの話をしたら――。
「殺されかけたし恨んでるからに決まってるじゃん」
といわれて、そんなことも気づかなかった自分の鈍さに苦笑いしてしまうのだった。
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