238.都市改造
「あっ……」
「なにかあったのダーリン?」
俺を押し倒して、腰にしがみついた体勢のまま、上目遣いで見つめてくる。
「ラードーンが戻ってきたんだ」
「……そう」
ラードーンの名前をだした途端、デュポーンは唇を尖らせて拗ねてしまった。
「あいつもういるの?」
「ああ。もういいのかラードーン?」
俺は自分の中にいる――自分の中にもどってきたラードーンにといかけた。
『うむ。あとは任せてきた』
「任せてきた?」
『しばらくは政治と外交を実行する段階、我の出番はないからな』
「俺なんかもっと出番なさそうだ」
『そうでもない』
「え?」
『締め上げればパルタの下のものたちが破れかぶれで襲ってくるかもしれん。その時が出番だ』
「倒せばいいのか?」
『無慈悲にな』
「わかった」
ラードーンからのオーダーをしっかりと受け取った。
外交で何をしているのかはいわなかったし、俺も聞こうとは思わなかった。
聞いてもどうせわからないしな。
「あっ……」
「こんどはどうしたのダーリン?」
「街灯がついた」
「うん、ついたね」
デュポーンはそういい、起き上がった。
彼女が俺の上から退いたから、俺もおきあがって、立ってまわりをみまわした。
未だに無人の魔法都市、西日が落ちていくなか、街のあっちこっちにある街灯が徐々につきはじめた。
「ねえ、あれってダーリンが作った物だよね」
「ああ」
「だれもいないこの街の事を見るのは初めてだけど……すごいね。誰もいなくても明かりがかってにつくんだから」
「そういう風につくったから」
返事をしつつも、俺はあっちこっちの街灯をながめていた。
「うーん……なんかへんだな」
「え? なんかって?」
「それは――あっ」
「おかしい」の内訳を探ろうとしたら、それよりも先に異変が現われた。
あっちこっちでつき始めた街灯が一つまた一つきえていったのだ。
やがて全部が消えて、街全体が薄暗くなってしまった。
「なにがあったの?」
「……魔力切れ、だな」
「魔力切れ?」
デュポーンは首をかしげ、聞き返してきた。
「街灯もそうだけど、この街の都市魔法のエネルギー源は全部魔晶石、ブラッドソウルでまかなってるんだ」
「そうなんだ?」
「それで、その魔晶石を使い切らないように、街のみんなが生活で余分にでてる――余剰魔力っていえばいいのかな、そういうので循環するような仕組みにした」
「それって……」
デュポーンは少し考えたあと、いった。
「人が住んでたらずっとまわり続けるってこと?」
「そういうことだ」
「すごい! そんな風にしてたなんてダーリンすごい!」
デュポーンはかなり大げさに俺に抱きついてきた。
彼女にこのあたり説明したことなかったっけな……って思ったけど、今は目の前の状況が気になったからそれはおいておくことにした。
『それが消えたという事は……そうか』
「ああ」
俺はうなずいた。
「魔物達が総出で街から離れて数日たつ。循環でもどる魔力はないのに街を維持する街灯その他の魔法は魔晶石を消費し続けてる――完全にガス欠だ」
「それってみんなが戻ってくれば戻るんでしょ?」
「……ああ、魔法網――システムに破損とかないから。再起動にちょっと大きめの魔力がいるけど」
「じゃあ! それをあたしにやらせて」
「デュポーン?」
「ダーリンのために何かしたいの、ね!」
「あ、ああ。じゃあ魔物達が戻ってきたら頼む」
「今やってもどうせきれるもんね。わかった!」
デュポーンは快く引き受けてくれた。
というより、やる気満々だ。
その一方で、俺は考え続けていた。
『どうした』
「あの時は魔力の循環でいいって思ってたけど、こういう事もあるんだな、って」
『うむ。街をからにするなど普通は予想もしないだろうからな』
「これが例えば――魔物スレイヤーで全員が寝てしまったら、やっぱりブラッドソウルがきれるよな、って」
『ふふ、その場合は街の機能よりも皆の命ではないのか?』
「あくまで可能性のはなしだよ」
『そうだな』
俺はかなり真剣に考えてみた。
前にやったときは、街の魔力循環はあれで完成した形だと思っていた。
完成した形だから、それ以上手をつけるつもりもなかった。
だけど今欠陥というか、欠点がみつかった。
魔法の欠点を見つけてしまうと、それをどうにかしたいって思ってしまうのが今の俺だ。
なにか代わりの物はないのか、と考える。
普段はブラッドソウルの循環でいいけど、その予備になる物を。
「……いや」
ブラッドソウルにこだわる必要はないのかも知れない。
あの頃に比べてまた少し魔法に詳しくなった。
出来る事も多くなったし、扱える魔力も増えた。
今ならもっと違う、もっといいやり方があるはずだ。
「……」
『行き詰まったか』
「ああ、いや」
俺は首を振った。
「大きくて持続で魔力を流す方法はもうあるんだ」
『ほう? もう、か。すごいな。だったら何を悩んでいる?』
「誰か管理者をつければ簡単だけど、全自動化するにはどうしたらいいのかって――ほら、今回のも半自動だけど魔物達がいなくなって止まったから」
その先に行くには全自動化したいなと、俺はそうするための方法を考え続けたのだった。