237.デュポーンがいやがらないこと
「何をどうするんだ?」
訝しみ、デュポーンに聞き返してみた。
「……」
デュポーンは唇を尖らせて、拗ねた感じの表情を浮かべた。
自分で言い出してなぜ――とはまあ、思わなかった。
彼女達が犬猿の仲、いやそれ以上の仲なのはもうわかり切っている。
本当は名前を口に出したくもないんだな、と、不思議に思うどころか理解がより深まったとさえ思った。
その一方で、そこまで厭がっててなお名前をだすデュポーンの提案の内容がますます気になった。
「三人で何かするのか?」
「三人っていうか、ダーリンも含めてっていうか」
「俺も?」
「うん、そう。……そうだよ、ダーリンもだもんね」
デュポーンはそういい、自分の言葉で何かを再確認するかのようなかんじで、ここにいない他の二人への嫌悪感を追い払うようにして、笑顔をつくって俺に向けてきた。
「あのね、ダーリンが『向こう』から魔力をもらってくるのを一つの魔法にしたとするじゃん?」
「ああ」
「それをダーリンだけじゃなくて、あたしたちにも使えるようにすればいいの」
「デュポーン達にも? でもお前達は向こうの魔力に頼る必要はないだろ?」
「ううん、あたし達も、ダーリンのためにそれ使えるようにするってこと」
「……ああ、俺対象の魔法を、三人にも使えるようにするってことか」
「うん!」
デュポーンは無邪気な表情で大きく頷いた。
こうしてラードーンやピュトーンの事が絡まない彼女は本当に年頃の可愛らしい女の子のように見える。
「話はわかったけど、なんでそんな事を?」
「ダーリンがきにしてるのって、何かの状況でダーリンがその魔法を使えなくなると困る、ってことじゃん?」
「ああ」
「よく考えて? ダーリンと、あたしたち三人あわせての四人」
「ふむ」
俺は言われたとおりにするため、何となく自分含めた四人の姿を頭の中に思い浮かべた。
魔法の話をするだろうから、何となく四人とも人間の姿で、魔法を詠唱するようなポーズをとっている。
「この四人が同時に魔法を使えないような状況ってありえないじゃん?」
「……ああ」
ここでデュポーンがいいたいことがわかった。
そして、そういいだした理由もわかった。
「【ドラゴンスレイヤー】か」
「ああん! さすがダーリン!」
デュポーンは感極まったようすで、俺に飛びついて、ぎゅっと抱きついてきた。
「おっと」
俺はとっさにデュポーンを受け止めて、押し倒されないようにふんばった。
彼女の反応からして正解で間違いないようだ。
【ドラゴンスレイヤー】――というより【ドラゴンスレイヤー】のあの一件。
あれがデュポーンにこの提案をさせた。
「なるほど。【ドラゴンスレイヤー】でお前達三人は倒れた」
「そっ。本当はね、あたしら三人でいいっておもったけど、あれがあったからダーリンをいれたの」
デュポーンは俺に抱きついたまま、なによりも笑顔のまま、俺を見あげてきて。
「ダーリンも含めて全員が魔法使えなくなる状況なんてありえないじゃん? もう」
「……なるほど」
デュポーンにそう言われて、俺は少し考え込んだ。
魔法に関して、ありとあらゆる可能性を想像した。
俺、ラードーン、デュポーン、ピュトーン。
この四人が揃って、全員が魔法を使えなくなってしまう状況。
デュポーンのいうとおりだと思った。
そんな状況、かなり真面目に考えてみたけど、確かにないだろうなとおもった。
おもった――けど。
「いいのかそれで」
「あいつらと一緒はいやだけどさ」
デュポーンはまたまた、さっきと同じように唇を尖らせた。
が、それも一瞬だけ。
すぐにまた笑顔を向けてきた。
「ダーリンのためだもん、我慢する」
「我慢か……」
「あっ、本当に大丈夫だよ? あいつら今でも死ぬほどむかつくけど、でもダーリンの力になれる方がうれしいから」
「……うん」
俺は小さく頷いた。
デュポーンの言葉は本音なんだろう、と理解した。
我慢は我慢だけど、大して無理をしている訳じゃない、っていうのは雰囲気で伝わってきた。
だから俺は考えた。
デュポーンに何があっても命綱として成り立つような魔法を考えた。
「……まずはテストしたいな」
「テスト大事だよね。なんか協力した方がいい?」
「えっと……なんか虫か小動物がいた方が――」
「こういうの?」
デュポーンの姿が一瞬ブレた――かと思えば、何かをもって俺に向かって突き出してきた。
それは蜂だった。デュポーンの柔らかそうな手に掴まれているのはまだ生きてる一匹の蜂だった。
「いつの間に?」
「今とってきた」
「すごいな」
事もなさげに言ってのけるデュポーン。
やっぱり「神竜」だなと改めておもった。
魔法を使えば彼女達のいる高さに近づけそうな気はするけど、そうじゃない普通の時、普段の身体能力は比較するのもおこがましいっておもった。
そんな事を考えながら、デュポーンから蜂を受け取った。
まだ生きてる蜂をうけとって、逃がさないように、それでいてつぶさないように。
直接触れずに、魔力の塊を放出して、生地で餡を包むように魔力で蜂を包み込んだ。
そして――。
「【ピタゴラス】」
「あれ?」
俺が蜂にかけた魔法を見て、デュポーンはきょとんとなった。
「それ……普通にある魔法だよね」
「ああ」
「ダーリンが新しい魔法を作るんじゃなかったの?」
「その前のテストだ」
俺はそういい、パチン、と指を鳴らした。
【ウインドウカッター】で蜂を真っ二つにした。
真っ二つに切り裂かれて絶命した蜂が、全身から光を放つ。
「……うん」
「どういうこと?」
「いま、この蜂が死んだら光るように魔法をかけといた」
「うん、それは分かる」
「それと同じように、デュポーンに何かあったら、前世のデュポーンを召喚する魔法を作ろうって思う」
「前世のあたし?」
「【ドラゴンスレイヤー】で分かった事がもうひとつあるだろ?」
「……あ」
少し考えて、はっとするデュポーン。
「そう。デュポーン達三人もそうだけど、デュポーン達も、同時に魔法が使えなくなる状況なんてない、って」
デュポーンに説明した、俺が考えた、デュポーンのアドバイスから作ろうとする魔法。
|デュポーンに何があっても《、、、、、、、、、、、、》――命綱として成り立つような。
そんな考え方、彼女に「嫌い」をおしつけないですむ方法をデュポーンにいうと。
「ダーリン大好き!!」
彼女は再び俺に飛びついて。
今度は勢いをまったく受け止めきれず、そのまま押し倒されてしまうのだった。