236.デュポーンがいやがること
【アイテムボックス】の中に手を突っ込んだまま、隕石をわしづかみにする。
【タイムストップ】でやったときと同じように、隕石を魔力に変換していく。
【アイテムボックス】の中は【タイムストップ】と同じように、時間の流れが完全に止まっている。
それが【タイムストップ】とちがって魔力の持続消費なしで維持出来るから、ゆっくりと異世界の隕石を魔力化することができた。
「……【パワーミサイル】、連射」
少し考えて、使っていない手を空に突き出して、一番シンプルな魔法【パワーミサイル】を連続でうった。
同時に多数撃つのではなく、連続で撃ち続ける。
片手で隕石の魔力化をしつつ、もう片手で魔力を放出し続ける。
過去のラードーン達の維持をしなくてよくなったから、俺の魔力はかなり回復してる。
満タンといってもいいくらいの量だ。
隕石から魔力化すると確実に俺のキャパを超える。
だからゆっくりと魔力化するいっぽうで放出もやりつづけた。
「……ああ」
体の中である感覚を見つけて、俺はやり方を変えた。
そういう物があるわけじゃないけど、魔力は体の中に貯蔵庫――まあツボにそそがれた水の様な感覚で存在している。
それを今までの俺は、片手で隕石から「水」を「ツボ」にそそいでから、改めてツボから水を掬いだして魔法にしている。
よく考えたらそんな必要性はまるでなかった。
魔力をツボに溜めずにそのまま放出する。
いれて出すのではなく、素通しさせる。
そうすることで魔力の取り込みと放出がスムーズになって、体への負担もかなり減った。
【アイテムボックス】から【パワーミサイル】へ直結して、魔力をとにかく流しっぱなしにした。
「0.1…………0.2…………0.3…………」
体を素通ししていく魔力を体感で数える。
俺がもつ最大魔力――「ツボ」の最大容量を1とした場合、流れていく隕石の魔力をカウントする。
パルタともめてる間はやってる余裕はなかったけど、落ち着いた今やっておくべきだと思った。
それが1を越えたあたりでやっぱりすごいと思った。
サイズにもよるが、隕石一つで俺の最大魔力よりも多いのはすごい事だとおもった。
そうやって、魔力変換を続けていると、空の向こうからデュポーンが戻ってきた。
高速飛行で戻ってきて、俺の側に着陸してきたデュポーンは、俺がやってる事をみてふしぎがった。
「ただいまー。ダーリン何してるの?」
「ああ、うん。異次元の物を魔力に――ってわかるかな」
「え? ダーリンそんな事もできるの? すごい!!」
「前世のデュポーンから教えてもらったんだよ」
「そうなの?」
おれはデュポーンに事のいきさつを話した。
同じような性格ではあるものの、今のデュポーンは前世のデュポーンに比べてどこか幼い雰囲気がある。
前世のデュポーンはいい意味で蓮っ葉というか、サバサバ感があるのにたいして、今のデュポーンはほとんど見た目通りの、十代の活発な女の子って感じだ。
俺の説明を聞いている間も「そうなの!?」「すごい!」を連呼していた。
「すごいっていうけど、これデュポーンから教わったことだぞ?」
「そうだけど。でもあたしじゃそういうやり方は絶対思いつけないもん」
「そうなの?」
「うん! だって魔力がたりなくなる事なんて一度もなかったもん!」
「そうなのか? ラードーンと喧嘩してたときも?」
「あんなの相手に魔力使い切るわけないじゃーん」
デュポーンはあっけらかんにいって、俺に抱きついてきた。
……あっけらかんのようにみえて、ちょっとだけとげみたいなのを感じた。
とくに「あんなの」の所に力が入ってた。
ラードーンとはやっぱりまだまだわだかまりがのこってるんだな、と不意打ちのような形で痛感させられた。
「仲良くは――いやなんでもない」
「……」
デュポーンは何もいわなかった。
俺が言いたいことは察しているだろうが、何もいわなかった。
そんな無言のやり取りで気が散ったこともあって、俺は【パワーミサイル】の連射の手をひとまずそこで止めた。
「それよりもやっぱりダーリンすごいよ。それを使えばもうぜったい魔力切れしなくなるよね」
「……そうでも無いと思う」
「え、なんで?」
デュポーンはきょとんとなった。
「隕石なんていくらでも取れるじゃん?」
「魔法が使えない場面には無力だから」
「どういうこと? あっ、組み合わせだから? ここからダーリン得意の一つにパッケージにするのをまだやってないからだね」
「それはあとでやるけど、そうじゃない」
「じゃあなんで?」」
「このやり方――【アナザーディメンション】と【アイテムボックス】の組み合わせって、要するに『魔力回復状態にする魔法』だから」
「うん、そうだよね――って、あっ」
デュポーンははっとした。
見た目は幼くて可愛いだけの少女に見えていても、彼女も神竜の一人。
すぐに俺が言いたいことがわかった。
「封じられたり、そもそも立ち上げの魔力が足りなかったり。魔法を使えない場面って人生の中に結構ある。そういう場面だとまったくの無力になっちゃう」
「ずっと出しっぱにすればいいじゃん?」
「それだと【アイテムボックス】がどうなるか恐い。一個の隕石でも俺の魔力よりも遙かに大きいから、ずっと出しっぱなしで隕石取り込み続けたらどうなるのかがちょっと恐い」
「パンクしちゃうってこと?」
「可能性はあるとおもう。改良すればいいんだけどそれよりも」
「それよりも?」
「出来れば抜本的な解決法にしたい、小手先の調整だけじゃなくて」
「そっかー」
さてどうすればいいかと、頭を巡らせた。
小手先の解決策ならいまこの瞬間にもすでに20通りくらい思いついている。
だけど俺は自分から自分の不得意な分野に首をつっこんでしまった。
魔法が使えない状況、言い換えれば魔法を使わない状況での解決策をほしがってしまった。
「方法、一個あるよ」
「どんなのだ?」
「腹立つけど、あたしとあいつらが協力すれば解決するよ」
「あいつらって……」
腹立つってことは――。
「ラードーンとピュトーン?」
デュポーンは無言で頷いた。
本当にいやそうだけど、いやなんだけどダーリンのためなら、と言う顔をしている。
何をどうする話だいったい?