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235.デュポーンと保存

「ダーリン!!」

「おっと!」


 庭で精神集中して魔法を――となった瞬間、真横から声とともにタックルをされた。

 全くの無防備だったから、その勢いのまま尻餅をついてしまった。


「いたたた……デュポーン」


 そのまま腰のあたりにしがみついてきたのは、見て確認するまでもなくデュポーンだとわかった。

 ツインテールの少女は俺に抱きついて胸板のあたりに顔を押しつけてのスリスリをしている。


「ありがとうダーリン! あたしを助けてくれたのダーリンだよね」

「ああ、うん」

「ありがとうダーリン! 命の恩人! 大好き!」

「体はもう大丈夫なのか?」

「もちろん! いまならあの国を地上からけしさる事もできちゃうもんね」


 腰にしがみついたまま顔をあげるデュポーン。

 無邪気な顔ですごく上機嫌だが、放った言葉はやばいとしか言いようがない。


「消し飛ばさなくていいぞ」

「うん、ダーリンがそう言うのならそうする!」

「……いいのかそれで?」


 ちょっと不思議がって、聞き返した。

 「聞き分けがいいな」という言葉はのど元のあたりで飲み込んだ。


 デュポーンからすれば、俺は命の恩人だ。

 そしてそれなら、パルタ公国とかトリスタン大公とかは自分を殺しかけたにっくきかたきだ。


 そんな相手なのに「うんいいよ」程度の軽いノリだと、逆に不安になってしまう。


「あんな虫けらに興味ないもん、そんな事よりもダーリンに命を助けてもらった事の方がうれしいもん」

「そうなのか」

「あのね、ダーリン」

「え?」


 俺にしがみつくのをやめて、体が離れた。

 互いに地べたに座る体勢で、デュポーンはしっとりとした目で、俺を見つめてきた。


「あたし……今まで何回も生まれ変わって、何千年と生きてきたんだけどね」

「ああ、うん」

「何千年と生きてきた中で命を助けられたのって初めてなんだ! それがね、すっごくうれしいの! ドキドキしてるの!」

「あー……」


 なるほど、と妙に納得してしまった。

 命を助けてもらったのは初めてと言う話は、彼女の正体を考えればいかにもそうだなという納得が生まれた。


「あのね……ダーリン。人間の女の子みたいにして……いい?」

「いいけど、人間の女の子って――」


 なんだ? といい終えるよりも早く、デュポーンの顔が迫ってきた。


 決して速くはなかった。

 デュポーンの力量を考えれば目にも留まらぬ速さで、それの数百倍の速さでうごけそうなものだが、そうじゃなかった。

 デュポーンは見た目通りの、か弱い女の子とまったく同じくくらいの速さで顔を近づけて、俺にキスをした。


 チュッ、と触れるだけのキス。

 ほんの一瞬、一呼吸にも満たないほどの短いキス。


 そんなキスをしたデュポーンは、「えへへ」、と。嬉しそうにはにかんだ笑みを顔に作った。


「普通の女の子だったらこれくらいだよね」

「うん、そうかも」


 その辺は俺も詳しくないけど、多分そうじゃないかとおもった。


「えへへ……変なの?」

「変?」

「うん。ちょっと触れただけなのに、こう、エッチするためのキスよりもずっと嬉しい」

「……なるほど」


 そっちはまったく分からなかった。

 命の恩人に「ちゅっ」位の軽い感謝のキスは「多分そうじゃないか」と思えるが、この軽いキスがエッチするためのキス、たぶん濃厚さバリバリのキスよりも気持ちいいというのはまったく理解できなかった。


 できなかった、が。


「えへへ……」


 デュポーンはものすごく嬉しそうにしてたから、それでいいかなと思った。

 同時に、もうちょっと何かしてあげたくもなった。


 ここまで嬉しそうにしてくれるんなら何か嬉しくなってくれるようなことを、こっちからもしてあげたいなと思った。


 何かないかな、なにか。

 そう思っていると、デュポーンの表情と、彼女がしきりに口にした「普通の女の子」という言葉が一つの答えにつないでくれた。


 俺は立ち上がって、庭の外れに向かっていく。


「ダーリン?」


 地べたに座ったまま、不思議そうに俺を見あげてくるデュポーン。

 俺はそのまま、庭の外れに向かっていった。

 そこで咲いている花、確かエルフメイド達が維持している花壇から花を一輪摘んで、戻ってくる。

 それを不思議そうにしているデュポーンに、髪飾りのようにして、耳に引っかけるようにして飾ってあげた。


「プレゼント」

「――っっ、ダーリン!!」


 数秒かけてめちゃくちゃに「溜めて」から、デュポーンは再び俺に抱きついてきた。


 そして「嬉しい」「ダーリン」を交互に連呼して、全力でその嬉しさを表した。

 それをひとしきりやってから、彼女ははっとした顔になって。


「どうしよう! ダーリンからのプレゼント、これ絶対永久保存しなきゃ」

「え? いや別にそんな大した――」

「時の秘法でとめちゃったほうがいいかな! それとも永久凍土の中に封印した方がいいかな!」

「えー、いやいや」


 めちゃくちゃ大興奮しているデュポーン。

 その口からはいくつものめちゃくちゃすごそうな言葉が飛び出してきた。

 それはすごい事の数々だけど、どれもこれもデュポーンだったら出来そうだと妙に納得した。


「とにかく保存しなきゃ!」


 デュポーンはそういい、俺が耳にかけてあげた花を大事そうに、世界で一つしかない宝物かってくらい大事そうな手つきでかかえ持って、そのままどこかに飛んで(、、、)いった。


 嵐のようにきて嵐のようにさったデュポーン。


「嬉しそうだしよかった、かな」


 俺はふっと微笑んで、空の彼方に消えていくデュポーンを見送った。


「どうやって保存するのかが気になるな」


 戻ってきたら聞いてみようと思った。


 その、次の瞬間。


「――っ!」


 白い稲妻が脳裏を突き抜けていたかのようなひらめきを感じた。


「デュポーン……保存……」


 その二つの言葉が脳裏をグルグル巡った。


「デュポーン……保存……デュポーン……保存……」


 その二つのキーワードをつぶやきつつ、曖昧だったひらめきを、頭の中に浮かび上がってきたものをはっきりとしたビジョンに整理していく。

 やがてそれは、霧が晴れたかのようなはっきりとしたビジョンになっていった。


「デュポーン」


 そうつぶやき、【アナザーディメンション】を唱える。

 目の前に次元の裂け目が出現する。


「保存」


 更につぶやき、【アイテムボックス】を唱える。

 目の前に物をしまう異次元の空間が出現する。


 【アイテムボックス】の口と、【アナザーディメンション】の裂け目をぴったりあわせる。


 やがて、向こうから隕石が飛んできて、【アイテムボックス】の中に入った。


「……」


 俺はドキドキするのを抑えつつ、アイテムボックスの中に手を突っ込む。

 すると、中に。


「あったぞ!」


 興奮を抑えられない。

 【アイテムボックス】の中で、隕石が崩壊せずにのこっていたのだった。


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2025年1月6日アニメ放送開始しました!

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