225.出番待ち
【スカイリンク】実現にむけて、俺はいろいろ考えた。
まず、出来る。
出来る事は出来る、雑に作ろうと思えば数分足らずで出来る。
だけど、実際のリアムネットをここしばらく動かして見て分かったことが一つある。
それは、魔物達や人間達は俺ほど魔法に詳しいわけじゃない。
俺が「これでいいだろう」と思ったやり方だと、みんなが分からないとか使えないとか、そういうことが結構ある。
今回は「リアムネットをどこでも使える」というのが目的だから、「どこでも使える」を「だれでも使える」というレベルでやらないといけないと思う。
そのためには、こっちからある程度サポートしてあげた方がいいと思った。
「わかりやすく、それでいてサポートも」
口に出してつぶやいて、考えをまとめる補助にする。
すぐにいい形でまとまった。
「【アイテムボックス】」
魔法を唱えて、備蓄のブラッドソウルとハイ・ミスリルを必要分取り出す。
それを純粋な魔力で、まるで粉挽きするかのように挽きつぶして粉にした。
瞬く間に、両手の手の平の中にブラッドソウルとハイ・ミスリルの粉が出来た。
「さあ、いけ!」
両手の粉をぱっ! と上空にむかって放り投げた。
魔力を帯びた二種類の粉は重力に逆らって天に昇っていく。
俺は目で昇っていく粉を追いかけ続けながら、その「感触」も把握し続けた。
細かい粉はばらまくと、中々地面におちないでいつまでも浮かんでいるものだ。
しばらく待ってやっと落ちた――ってなっても、ちょっとした空気の流れでまた舞い上がる。
風じゃなくても、人のちょっとした動きの、その空気の流れで舞い上がる。
それ位の粉を上空に向かって上昇させ続け、雲と同じくらいの高さまであげた。
雲と同じように、ブラッドソウルとハイ・ミスリルの粉は上空にとどまったまま、落ちてくることはなかった。
「【スケッチ】」
簡単な魔法をつかった。
子供が遊ぶ砂場でする感じで、空に掲げた二種類の粉を使って絵を描いた。
瞬く間に、空に俺の顔が出来た。
大きな白い雲の横で、粉が拡散して出来た俺の顔がうっすらと見える程度に掲げられていた。
「何をしておるのじゃ?」
「わっ! ラードーン、戻ってきてたんだ」
いきなり真横から声をかけられてびっくりした。
振り向いた先には、軍服姿の前世ラードーンが不思議そうに空を見上げていた。
「何かの魔法の準備か?」
「ああ、そうだ」
ラードーンは質問に答えずに質問を重ねてきた。
ここにいるんだから「戻ってきてたのか?」の質問に答える必要もないから、俺も馬鹿な質問をしたもんだ、と思ってラードーンの質問に答えた。
「リアムネット――って言ってわかるかな。街での生活を便利にする魔法なんだけど、それを離れた所にいても使えるようにしたいんだ」
「なるほど、人間どもがよくつかう魔法の杖みたいなものじゃな」
俺は小さく頷いた。
ラードーンのいうとおり、人間の多くの魔法使いはサポートに「魔法の杖」を持っている。
その多くは魔力を上手く練ったり放出したりする素材が使われていて、魔法が効果的に使える様になる。
俺が上空に打ち上げた俺の顔は、魔物達にとっての魔法の杖のようなものだ。
「31連――【スカイリンク】!」
「簡単なものなのだな」
「もともと存在する魔法の使い方を変えただけだからな」
「宜なるかなではあるが、それは違うだろうとも思う。ああ、現世のわしであればすんなりと納得していたのか」
「どういうこと?」
「感覚麻痺しているがすごい事をやっているぞ、と言う話じゃ」
「はあ」
すごいことっていわれてもいまいちピンとこなかった。
31連で出来た。
魔法を覚えるのと、魔法を作る時の難易度は基本同じだ。
くり返しやる、いわば反復練習で体に覚えさせていくもんだ。
それを俺が同時詠唱で時間短縮しているだけで、すごい事は何もない。
この【スカイリンク】も31連程度で済んだから、ますますすごい所はないはず。
「まあよい、今世のわしとちがって、まだ小僧の事をよく理解していないということにしておこう」
「はあ……あっ、それより、なんでラードーンだけ?」
俺はそういって、まわりを見回した。
俺とラードーン以外誰もいなかった。
デュポーンの二人と、ピュトーン、三人は出かけたまま戻ってきていないようすだ。
「うむ、わしの分担が終わったのでな、先に戻ってきたのじゃ」
「そうなんだ」
「というより、わしの分担領域に権力者が多くいたのでな、そいつらを避けたら早めに終わった」
「権力者を避けた? なんで?」
「ふっ、やはり考えてなかったか」
ラードーンは鼻を小さくならしてシニカルに笑った。
「なんかだめだったか?」
「いいや? 小僧はそれでよい。考えるのはわしがやってやる。これからもな」
「はあ……」
「説明をするとな、権力者まで一掃しては目的を果たせぬのじゃ」
「目的?」
「小僧はなにも、向こうを皆殺しにしたいわけではないのじゃろ?」
「もちろんだ」
俺ははっきりと頷いた。
魔法以外の事は今ひとつ分からない俺でも、今回のやるべき事の目的ははっきりしている。
「パルタ公国を――脅して? 【ドラゴンスレイヤー】を解除してもらう」
「その通りじゃ」
ラードーンははっきりと頷いた、そして、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「であれば、責任の取れる権力者まで【ヒューマンスレイヤー】にかけてしまっては解除の命令を出すものもいなくなるじゃろ?」
「……おお!」
俺はポン、と手をたたいた。
確かにそうだと、いわれてはっとした。
「焦りもせず、のんびりと魔法開発してるから『わしら』の事など忘れたのだとおもっていたのじゃ」
「それは大丈夫」
俺は真顔でラードーンを見つめ返し、いった。
「何かをするタイミングはラードーン達が考えてるっぽかったから、余計な口を挟まなくていいっておもったんだ」
「ほんとうか?」
「ああ」
俺はもう一度はっきり頷いた、そして今までで一番真顔でラードーンを見つめる。
「魔法で俺が何かをする場面がもう一度ある。ラードーンならそうすると思ってるから」
「……天然とはかくも恐ろしいものじゃな」
「へ?」
「その考えは正しいという意味じゃ」
「そうか、よかった」
「では仕上げと行こうか」
「ああ」
俺は三度ラードーンを見つめる。
この国で一番魔力の高い俺を、一番上手く使ってくれるであろうラードーンの指示を仰ぐために、彼女をまっすぐ見つめた。