223.ヒューマンスレイヤー
「殺し文句?」
俺は首をかしげて、デュポーンの方をみた。
どういう意味なんだろうかと不思議に思った。
「気にしないでいいのよ。それより【ヒューマンスレイヤー】を作りなさい。切羽詰まってはないけどそんなに時間があるわけでもないのだから」
「うん、それならもうできてるよ」
「「「「え?」」」」
四人が同時に俺を凝視した。
デュポーンの二人、そしてラードーンにピュートン。
前世の彼女達はまったく性格も違うし普段からの会話の特徴とかも違うけど、何故かぴったりと、同じ反応を返してきた。
「出来たとはどういうことなのじゃ?」
ラードーンが聞いてきた。
俺は戸惑った、今の言葉で伝わらない事ってあるのか? と一周回ってちょっと不安になってしまう。
「どういう事って、出来たは……出来た、だけど?」
「【ヒューマンスレイヤー】が出来たというのか?」
「ああ」
「……今の一瞬で?」
「もとから覚えてたとかではなくて?」
デュポーンも聞いてきた。
俺は頷いてかえした。
「うん、今作った。なんかまずかったのか?」
きょとん半分、不安半分。
彼女達の反応と質問でそんな気持ちになってしまった。
「まずいことはないが――あっさり言うのじゃな」
「そんなに簡単な話でもないでしょ?」
「いやだって……俺人間だし、自分の体人間だから、何をどうすればいいのかわかるし。【ヒューマンスレイヤー】は一番作り方簡単だよ?」
言いながら、自分の頭の中でもその理屈を検証する。
彼女達に驚かれたから検証してみた。
俺は人間、どの生物の事よりも人間の事がわかる、体感出来る。
ありとあらゆるスレイヤーの中で、【ヒューマンスレイヤー】は一番作りやすい。
……うん、やっぱり理屈は何も間違ってない。
改めて意識して検証してみた結果、自分の理屈に少しだけ自信を持てた。
そもそもが魔法の事だし、それは間違いないはずだとおもった。
「あっさりいいおる」
「まあ理屈はまちがってないかもしれないけど」
「不思議なものね。この子が面白くて気になる。死んだ後で初めてあなたに共感する事になろうなどと」
「長生きはするものじゃな」
「全員一度死んでるのよね」
ドラゴンたち四人は分かるような、分からないような内容の言葉を交わして、楽しそうに笑いあった。
「えっと……これからどうすればいい?」
笑い合う四人のそれを止めてしまうような形で聞いた。
彼女達なら目的を忘れて楽しみに耽る――なんて事はないだろうけど、この状況でこの四人が笑い合うという不思議な光景に俺はちょっとだけ不安になってしまったのだ。
それで聞くと、四人は一度視線を交わし合って、その視線やジェスチャーでラードーンに「お前がやれ」的な感じになった。
そうして押し出された感じのラードーンが俺に改めて向き直った。
「【ヒューマンスレイヤー】が出来たのなら次は実践投入するだけじゃ」
「そうだよな」
俺は頷き、すこしホッとした。
「だれに向かって使えばいい?」
「前提をまず確認するのじゃ。いま喰らっている【ドラゴンスレイヤー】と同じ時限式じゃな?」
「うん、そうした。俺が人間だから、ついでに時間の長さも調整出来る様にした」
「上等じゃ。それなら――全員じゃな」
「……全員?」
なんの全員だろうか、と俺は首をかしげた。
「うむ、全員じゃ」
「えっと、どういう『全員』?」
「喧嘩を売ってきたのはたしか――なんという国だったのじゃ?」
「国の名前? それはパルタ公国だけど」
「うむ。まあ名前はどうでもよい。その国に住まう人間全員に【ヒューマンスレイヤー】を打ち込むのじゃ」
「なるほど。全員かあ……」
俺は少し考えた。
「なんじゃ、わしの言葉にとうとう疑問を持ち始めたか」
「ああ、いや。そうじゃなくて。ラードーンの言葉は疑わない、魔法以外の事はね」
「なら何を考えておった?」
「えっと、さすがに一つだけ分かる事があって、それは【ドラゴンスレイヤー】にかかってる三人が死んでしまうまでにやらなきゃ、ってことなんだろ?」
「当たり前過ぎる前提じゃな」
「その時間内でどうやったらスムーズに公国民全員にかけられるのか、って考えてたんだよ」
「なるほど、そっちを悩んでおったのか」
「だったら問題ないよ」
デュポーンが言った。
「そうね、せっかくこの格好をしている事だし」
「むしろ好都合」
ドラゴンたちはそう言って、全員がうすくわらった。
「どういう事?」
「この格好をしてて、あんたの命令にしたがうって形にしてるでしょ」
「そういえばそうだった」
「だからわしらにその【ヒューマンスレイヤー】をおしえるのじゃ。わしらなら小僧のように一瞬ではないが10分もあれば習得できよう。さらにこの四人が手分けすれば半日で一国すべてにかけられよう」
「……おお」
俺はポン、と手を叩いた。
たしかに、彼女達四人が覚えて、手分けすれば半日もいらないだろうとおもった。
さらにそれは、魔物の王リアムに臣従している、という形の演出にも丁度いい。
彼女達が纏っているこの軍服――つまり制服の意味にも合っている。
「じゃあ――【アイテムボックス】」
俺はアイテムボックスを呼び出した。
中から貯蔵しているハイ・ミスリル銀を取り出して、それをつかって【ヒューマンスレイヤー】の古代の記憶――つまり魔導書をつくった。
作ったものを四人に渡すと、10分どころか五分くらいで四人は【ヒューマンスレイヤー】を覚えた。
「うえんじゃな」
「人間を殺害するのにこんな魔法をつかう意味ないものね」
「でもそれを楽しんでるでしょあんた」
「うむ」
そんなやり取りをする四人は、やはりどこか楽しげに見えた。
「じゃあいってくるね?」
「終わったら戻ってくる、それまでに魔力を溜めておくのじゃ」
「わかった」
俺は頷き、四人を送り出した。
軍服をきた四人は空を飛んで、四方に散っていった。
それから一時間もしないうちに四人は戻ってきた――つまり。
パルタ公国の人間全員が、【ヒューマンスレイヤー】にかかって、絶命へのカウントダウンがはじまったのだった。