221.新たな扉
俺はじっと世界の境目を見つめた。
デュポーンがやったことが、魔力の残滓として残っていたから、それを感じられる様に、じっと集中して見つめた。
最近は魔法の事になると、あえて相手に聞かない事が多くなった。
聞いても理解できないというわけじゃない。
この「リアム・ハミルトン」になってから、大好きで憧れだった魔法のことがよく分かるようになった。
理解度がすごく高まったんだ。
ちょっとした説明を聞けば理解できるようになったし、そこからどうすれば再現できるのかも分かるようになった。
だけど最近、気づいた事がもうひとつある。
魔法が使われた現場だったら、言葉で説明されるより、魔法をつかった痕跡に意識を集中させた方がより理解度が深まるって事に気づいた。
言葉で説明されたら8~9理解できてたのが、魔法の痕跡だったら10理解できる、って感じだ。
今みたいに使いたてほやほやの魔法だったらなおさら現場を見た方がいい。
前にそれを、ラードーンに話したら――
『レシピよりも、料理を自分の舌で味わった方が再現できる料理人もいる。その類だ』
といわれた。
なるほどとおもった。
俺には理解できない感覚だが、世間では「目で盗む」「舌で盗む」といういいかたがある事自体は知っている。
なるほどそういう物なんだなとおもった。
ラードーンのお墨付きもあり、俺自身その方が理解が深まるという感覚もあって。
デュポーンにはあえて聞かずに、魔力の痕跡、残滓だけを感じ取っていた。
「……ふむ」
しばらく見つめていると、何となく分かってきた。
そしてやっぱりデュポーンはすごいと思った。
こんなすごい魔法をあんな造作もなくやってのけたのはやっぱりすごいなと思った。
こんなすごい魔法、俺に出来るのだろうか。
分からない、失敗する可能性の方がきっと大きい。
でも、したい。
大好きな魔法だ。
それを試せるんだ。
だったら、失敗の可能性が高かったとしても、それをやりたい。
俺は魔法をみて、感じた事を頭の中で一度まとめた。
かなりの無茶になる、それなりの事をしなきゃいけない。
だから――
「アメリア・エミリア・クラウディア。61、67、71――」
魔力を絞った。
腹の底から絞って、何かの器の底まで全て掻き出すようなイメージで、自分の中身をとにかく絞った。
「73……79…………」
向こうの世界から飛んできたもの、それをタイムストップで消化して自分の中に溜めた魔力も搾り出した。
「83……………………はち、じゅ――」
必死に絞った。
これでいけるか? この数でマスターまでいけるか?
もう少しほしい、でももう無理だ。
既に限界を超えている。
限界を超えて、消化したばかりの余分な魔力さえもつぎ込んで、限界の更に向こうまで足を踏み込んでいる。
気を抜くとはじけ飛んで、なにもかもが吹っ飛びそうな、そんな限界ぎりぎり。
この状況でやってみるしか無い。
そう思った――その時だった。
「――っ!」
開いた空間、向こう側の世界。
デュポーンが宇宙と呼んだ空間からものすごい勢いで何かが飛んできた。
巨大な、見たこともないようななにかだった。
金属的な外見で、青白く光を反射する長方形の翼めいたものをつけている。
人造物なんだろうとは思うが、それがなんなのか分からない代物だった。
それがさっきの物よりも大きく、さっきの物よりも速い速度で飛んできた。
「まずっ――」
俺は避けようとした。
あの速度にあの大きさ、ぶつかったらケガどころじゃすまない。
当ったら体の半分がもがれるどころか、完全に肉片になって消し飛んでしまいそうな。
そんな大きさと速さだった。
だから避けようとした。
瞬間、脳裏に白い雷が突き抜けていく。
デュポーンの言葉が、言葉にならないひらめきとなって頭を突き抜けていく。
「リバース!」
それまで練り上げた魔力を全部止めて、腹の底に一度押し込んだ。
全魔力よりも更に大きな魔力を一気に体の中に押し戻した、それで体が無事な訳がなかった。
血を吐きそうになった、のど元までせり上がってきた。
「――がはっ!」
たまらず吐き出した、それほどのダメージを負った。
が。
「【タイムストップ】」
吐いた血をそのままにして、口角も拭わずに続けた。
一度戻した魔力を使って、また時間を止めた。
向こうの世界の人工物が境目を越えたところで時間をとめた。
『人工物の方が強いエネルギー――魔力になるのよ』
デュポーンはそういった、そしてそれはただしかった。
今までに感じた事の無いような高純度な魔力をかんじた。
【タイムストップ】で止めた時間の中で、それを取り込み、消化する。
全部取り込んだ瞬間、俺は未だかつてない、膨大な魔力を手にした。
一時的なものだ、それは間違いない。
でも、それでいい。
時が――動き出す。
「アメリア・エミリア・クラウディア――101連!!」
魔力を全て注ぎ込んで、新しい扉を無理矢理こじ開けていった。