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220.俗事は任せる

 リアムはデュポーンが開いた次元の裂け目を食い入るように見つめ続けていた。

 全神経を集中させている、といっても過言ではないくらい、真剣に見つめ続けていた。


 その視線の先に、次元の向こうの宇宙(、、)では輪っかのついた星が存在感をこれでもかとアピールしていたが、リアムの視線、焦点はそこに向けられていない。

 まったく眼中に入っていない、という様子だ。


 その仕草に、デュポーンは不思議がって、声をかけようとした。


「ねえ、なにを――」

「やめておけ」

「はい? なに、お前に指図されるいわれはないんだけど」

「わしのためではない、小僧のためじゃ」

「むっ」


 制止したラードーンに、半ば脊髄反射で食ってかかったデュポーン。

 その一瞬に、常人であれば気を失いかねないほどの殺意と威圧感が放たれた。

 三竜は元来水と油、リアムの元で一時停戦しているに過ぎないということを強く主張したようなワンシーンになった。


 リアムのため、という言葉にデュポーンは引き下がったが、それでも言い出したのがラードーンということで、彼女は更に食ってかかった。


「彼の為ってどういう事?」

「わしもそれほど良くはしらぬのじゃが、どうやら小僧、こういう時は魔法の事を考えておるようじゃ」

「魔法のこと?」

「そうじゃ。おそらくは――これ(、、)をどうすれば再現できるのか、と考えているところじゃろうな」

「だったらこっちに聞けばいいじゃないの」

「そうせずに自力で探求する。そうしてきたから今の(、、)わしが気に入ったのじゃろう」

「……そう」


 ラードーンの言葉に、デュポーンは一呼吸間置いた後、納得したような表情をした。

 一生懸命な人間は見守る。

 このあたり、彼女とラードーンにさほどの違いはない。


それ(、、)をどこまで再現できるのかは気になる、放っておいてやれ」

「あんたに言われるまでもないわ」

「それはいいけど、本来の目的を忘れてるんじゃないの?」

「わすれておるじゃろうな」


 ラードーンが楽しげにいい、ピュトーンは少しだけ呆れた。


「今のあんたが好きそうな子」

「うむ。じゃから見守ってやれ」

「だから命令しないで。それはいいけど」


 デュポーンはそういい、リアムをみた。


「本来の目的を忘れてたらだめじゃないの」

「何も問題はあるまい。人間の国の一つや二つ、ここにいる四人だれでもおつりはこよう」

「ドラゴンスレイヤーの事を忘れてない?」


 ドラゴンを殺す魔法を実体験した前々世のデュポーンが半ばあきれ顔でいった。


「なんだ? あのようなもの、二度も喰らうつもりなのか?」


 ラードーンは逆に、からかうような表情と口調で切り返した。


「そんなわけないでしょ! あんなものしってたらくらわないわよ」

「そのとおりじゃ。わしらが互いに使えば切り札にもなろうが人間ではな。猛毒のナイフをもったアリンコを怖がる人間がいないのとおなじじゃ」


 ラードーンは一呼吸置いて、尋ねるようにいった。


「あの国を滅ぼし、ドラゴンスレイヤー解除の方法を聞き出す。お主らはどれくらいかかる?」

「一日ね」

「まあそんなもんね」


 前世と前々世のデュポーンはそういい、頷き合った。


「知ってる人間の目星をつけれたら一時間ね」


 前世のピュトーンはそういって、ラードーンは「ほう」と面白そうに首をかしげた。


「何をどうすれば一時間という計算になるのじゃ?」

「そいつにようは拷問でしょ。連れ回して、質問に答えない度に街一つ消していったらそのうち喋るでしょ」

「ふむ、人間はその手の罪悪感には耐性がないじゃろうな」

「あんたはどうなのよ」

「わしか? わしは……そうじゃな、三日あるのじゃから、仔らを走らせてじわじわしめあげるとしようか」

「なんでよ」

「人間は虚言を弄す、三つ目くらいの自白までは偽りであるとまず決めつける」

「へえ、まっ、それはそれで正しいかもね」


 魔法の事以外目に入らないリアムにたいし、四人のドラゴンは実に悠長な感じで喋っていた。


 そもそもが余裕ありありなのだ、この四人は。


 三竜は「新生」をするため、たとえ現在の三人が死ぬようなことになったとしても、それを嘆いたり悲しんだりしない。

 それに加えて本人達が言うように、手段さえ選ばなければ最短一時間で問題を解決出来る力をもっている。


 その余裕がこの軽口、そしてリアムに「服従した」というパフォーマンスの軍服に表れている。


「で?」


 前世のデュポーンがラードーンに聞く。


「うむ?」

「放っておくのはいいけど、最悪あんたが全部やるの? 私はそこまでは(、、、、、)やらないよ」

「わしもそこまではやるつもりはないのじゃ。楽しいから参加はするが生者のことは最終的に生者がなすべきじゃ」


 ラードーンの答えに、他の三人は口にこそ出さないが、表情で「同感」と示した。


「じゃあどうするの?」

「生者を(けしか)ければよろしい」


 ラードーンはそういい、手をまっすぐ空に向かって突き上げた。


 瞬間、頭上すこしの高さに三つの魔法陣が作られた。

 魔法陣は一瞬まばゆく光った直後、その魔法陣から人の姿をしたものが三人、湧き出るようにして現われた。


 エルフのレイナ、人狼のクリス、そしてギガースのガイ。

 リアムに付き従っている魔物のうち、三幹部と呼ばれる者達。


「な、なにここ!」

「むっ、あれは主」

「……何かご用でございますか、ラードーン様」


 三人のうち、クリスとガイはいきなり召喚された事、リアムの前に呼び出されたことに驚いていたが、もっとも冷静なレイナは瞬時にまわりの状況を把握し、前世のラードーンに伺いを立てた。


「みてのとおり、小僧が魔法の探究にはいった」

「そのようでございますね」

「その間お主らが働け。そうじゃな、街の一つや二つでも滅ぼしてこい」

「……それはご主人様のご意志ですか?」

「いいや。だが目的には繋がる」

「……そうですか」


 レイナは真意を探るような眼差しでラードーンを真っ直ぐ見つめ、ひとまずは納得した、という様子で頷いた。

 レイナはそうだが、クリスとガイはすぐには引き下がらなかった。


「ちょっと、なんであんたが命令してんのよ」

「そうでござる、神竜殿は主も敬意をはらっているのでござるが、拙者達はあくまで主の僕」

「そうよ! あんたに命令される筋合いはないわよ」


 反発するクリスとガイだった。

 それをレイナは止めに入らなかった。直接反発こそしていないが、止めに入らないのは彼女なりの反抗の仕方だろう。


 前世のラードーンは心の中でため息をつきつつ、ふっ、と笑みをこぼして、更にいった。


「これは提案じゃ」

「提案?」

「そうじゃ。小僧が魔法の探究に専念出来るよう、お主らが俗事を全て引き受ける」

「……俗事の全て」


 ラードーンの言葉に反応したのは、意外にもレイナであった。

 彼女は頷き、ラードーンの言葉を受け入れた。


「承知致しました、お任せ下さい」

「なに! よいのでござるか?」

「そうよ、いくら何でもご主人様じゃない命令をさ」

「ご主人様が魔法に没頭しているのは見ての通りです」

「そりゃ……まあいつも通りだけど」

「うむ、この主だからこそ我らも従っているのでござる」

「なら、そんなご主人様が専念出来るように我々が俗事――雑事の全てを引き受ける。だれの命令関係なくやりがいのある仕事だとはおもいませんか?」

「……たしかに!」

「うむ、そういわれればその通りでござるな!」


 クリスとガイ、単純な二人はあっという間にレイナに説得された。

 その説得をしたレイナはラードーンに振り向いた。


「街を滅ぼしていけば良いのですね?」

「できれば流布もやって置けば小僧の目的に更に近づく」

「何をでしょう?」

「自分達は前座、こんな自分達が束になってもわが王にはかなわない、と」

「お安いご用です」

「そんなのあたりまえじゃん」

「それがイノシシ女の限界でござるな。拙者達がしっているだけでは意味がない、それを人間に教えてやるということでござる。からだにな」

「むっ、分かってるよそんな事!」


 クリスとガイはいつものように少しばかりのいがみ合いをしたが、ラードーンのオーダーは理解したようだ。


 三幹部が全てを理解したところで、ラードーンは再び手をかざした。

 今度は三幹部の頭上に魔法陣が出来て、その魔法陣がすっと降りてきて、三人を飲み込むように元の場所に送り返していった。


 三人がいなくなった後、ピュトーンがあきれ顔でいった。


「本当、真綿でじわじわしめあげるの好きよねあんた」


 ピュトーンの言葉に、ラードーンはフッと笑って、肩をすくめて応えた。

 このやり取りの間も、リアムはずっと、時にはぶつぶつ何か言いながら、魔法の事を考えていた。


 そこからしばらくして、三幹部が率いる魔王不在(、、、、)の魔物軍は、圧倒的な力で街を一つ蹂躙し、滅ぼしたのだった。

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2025年1月6日アニメ放送開始しました!

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― 新着の感想 ―
[一言] そういや教会ってどう出るんだろ 4王会議で敗戦処理するのかな
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