22.最強の自宅
階段を降りていくと、すぐに最下層にたどりついた。
深さは通常の家屋の三階分もない。
一番下にはちょっとドアがあって、ドアを開けて中に入ると、シンプルな石造りの台があって、台の上には一冊の魔導書と、手紙があった。
俺はまず手紙を手に取った。
前と同じ、師匠の字だ。
『リアムへ お前がこれを読んでいるということは、完全に俺の裏の意図を読み取ったという事だろう』
書き出しは、前のとあまり変わらなかった。
『そして、マジックペディアにある、もっともレアな魔法、アイテムボックスをも完全に使いこなせたという事だろう。そんなお前に、俺が持っていた最高の魔導書を渡す。最上級魔法に分類される物だ』
台の上をみた。
そこに置かれている魔導書に手を触れた。
これが……最高の魔導書か。
『ちなみに、その魔導書は俺には使えなかった。才能が無いのと、魔力が足りなかったからだ』
「師匠でも……使えなかったのか……」
『お前に使えることを祈っている』
そう締めくくられた師匠の手紙を再び折りたたんで、そっと懐にしまった。
そして、魔導書を手に取って、開く。
「アナザーワールド……どういう魔法なんだろう」
俺は魔導書を読んだ。
まずはやってみよう、とこれまでの魔導書と同じように、まずは練習――実践する方法から読んだ。
やり方を一通り頭にたたき込んで、魔導書を持ったまま魔力を込める。
うんともすんともいわなかった。
新しい魔導書、新しい魔法を始める時によくあることだ。
だが、今は分かる。
間違っていない事がわかる。
魔法を詠唱で使って以来、体の中にある魔力の流れをよりはっきりと感じ取れる様になった。
魔力は使われている、魔法を使うために使われている。
つまりやり方は間違っていない、まだ、発動出来ないだけだ。
そうと分かれば――後はものすごく簡単な話。
今までとまったく同じ話だ。
繰り返しの、練習。
魔法を覚えるにはそれしかない。
今までそれでやってきた、今回も同じこと。
俺は地下室にとどまって、アナザーワールドの魔法の練習を始めた。
魔導書に書かれてある手順にそって、丁寧に丁寧に、一つずつ手順をこなしていく。
新しい魔法を始める時はいつもこうだ。いや、全ての事に通じるかもしれない。
正しい手順を、丁寧にこなす。
慣れてきたりすると自分なりの手順を編み出していくもんだが、今はとにかく、正しい手順だけでやっていく。
気づけば、あっという間に数時間が経った。
その間、一度もアナザーワールドが発動しなかった。
初級、中級、上級――それらを全て飛び越えての、最上級魔法。
簡単にいくとは思ってない、俺は焦らなかった。
次第に、暗くなってきた。
地下室だからという事もあるが、時間経過で日没が近いのだろう。
「ウィスプ」
光の下級精霊、ウィスプを召喚。
こぶし大の光の玉、その両横に小さな翼がついているという、とても愛らしい見た目をした精霊だ。
それを召喚すると、地下室がたちまち、昼間のように明るくなった。
アナザーワールドの練習を続ける。
魔法同時発動2つだから、特に複雑に考えることなく、ウィスプの維持とアナザーワールドの練習を続けた。
延々と続けた。
とにかく続けた。
体の魔力の流れは感じてるから、くじけないで続けた。
やがて、ウィスプよりも明るい光――太陽の光が射しこんでくる頃。
「やった!」
目の前に、「扉」が現われた。
丸半日かかった、ようやく最初の発動だ。
一般的にみるドアとかとはまったく違う見た目だが、発動した瞬間、それが「扉」だと分かった。
だから俺はそれをくぐって、中に入った。
すると、それまでにいた地下室から、まったく違う場所に来た。
まわりが真っ白い、閉鎖的な空間だ。
縦横ともに2メートル、高さはもう少しある2.5メートルってところか。
部屋のようで、部屋ではない空間。
振り向く。
扉がそこにあった、うっすらと向こう側が、朝日がさしこむ地下室が見える。
俺はアナザーワールドの魔導書を開いた。
後回しにした効果の部分を読んだ。
アナザーワールド。
この世ではない、別の世界に空間を作り出す魔法だ。
空間の広さは術者の練度と魔力に比例する。
一度出すと、術者が入っている限り、消滅する事はない。例え覚えたてでも。
そして術者の許可無く侵入することも出来ない。ただし同じ魔法を使える人間は例外的にアナザーワールドで入れる。
そして、完全に身につければ、中に納めたものは消えることはない。
アイテムボックスと似ている。
アイテムボックスは、無限大の空間を持っているが、生命があるものは入れられない。
たいして、アナザーワールドは空間こそ術者の魔力次第だが、今俺が入っているように、生き物――人間も入れる。
「ここに家を建てる――入れれば」
アイテムボックスを既に使いこなしている俺には、すぐにアナザーワールドの便利さが分かった。
これを完全にマスターすれば、家・拠点・秘密基地――言い方は様々だが、そういうものをいつでもどこでも出入り出来るようになる。
「ありがとう、師匠」
数ヶ月かかるが、俺は既に練習を続ければ絶対にマスター出来ると、今までの経験から確信していた。
独立するに当って、これ以上の魔法はない。
最上級魔法で、俺は世界で最高の自宅――の建設地を手に入れたのだった。




