219.黒字
連載再開します、まずは隔日で続けるのを目指します
「はあ……はあ…………ふぅ……」
力に気圧されて数十秒、胸を強く圧迫されたような苦しさがどうにか慣れてきた。
解放されたわけじゃない、あふれる力の強さにいまも全身を圧迫され続けている。
それが慣れただけで、我慢出来る程度になれた、というだけだ。
そうして、空の向こうを改めてみた。
「これって……星空?」
「そうね」
前々世のデュポーンが頷き、同じように視線をむけつつ、答えてくれた。
「星しかない空間よ」
「星しかない空間……」
「呼び方は色々あるみたいだけど、向こうの生き物たちは宇宙、あるいはシンプルに『そら』と呼んでいるようよ」
「向こうの生き物?」
「私達が住んでるこことは別の世界なのよ」
「別の……世界……?」
俺は首をかしげた。
別の世界というのはどういう物なのか理解できなかった。
「うーん、どういえばいいんだろ」
「わしに任せろ。すんでる家と別の家がある。これはわかるな?」
前世のラードーンが代わりに説明を始めた。
前々世のデュポーンが少しだけむっとしたが、特に何もいわずに引き下がった。
「え? ああ、うん。もちろん」
「では、すんでいる村とは別の村がある。これも分かるな?」
「うん」
「すんでいる国とは別の国がある」
「うん」
「すんでいる大陸とは別の大陸がある」
「うん」
「そういうことよ」
「え?」
話にカットインしてきた前々世のデュポーン。
俺は「どういう事?」って感じで首をかしげて、彼女を見つめ返した。
「ええ? うそ?」
「その考え方はこいつには通じんよ。魔法以外の事は本当にからっきしのようじゃからな」
「えっと……」
「すんでいるこの世界とは別の世界がある、ということじゃ」
「ああ、なるほど」
「え? 今の類推出来なかったって事?」
驚くデュポーン、肩をすくめるラードーン。
「才能値が全て魔法に極振りされているのじゃろうな。たまにおるじゃろ? そういう人間が」
「まあ……そうだったかもね」
前々世のデュポーンがここで納得した。
俺は少し考えた。
前世ラードーンがいう事を考えた。
家、村、国、大陸、世界。
どんどん大きくしていった。
何となくいいたいことはわかった。
そして、再び向こうをみた。
「あっ、面白い星が」
「え? どれ?」
「あれだよ、星の周りに輪っかがある」
デュポーンが同じようにのぞきこんだ。
星しかない向こうの空間に、ものすごく大きくて、光帯のような輪っかがついてる星が一つあった。
「ああ、これ。向こうじゃ有名なやつみたいだよ。やっぱり特殊だからね」
「うん、そうだよね」
「それよりも本題にはいろっか」
「あ、うん」
そうだった、と俺は言われて思い出した。
星空を見るのが目的じゃなかったはずだ。
「物って、世界の壁を跨ぐと、形を失ってちから、エネルギーに変わるの。で、あっちの世界のものはこっちに来ると崩壊して純度の高い魔力になる」
「ああ、なるほど!」
俺はポンと手を叩いた。
そして少し考えて、手をかざして、魔力を練り上げ魔法陣に変えた。
「ほう」
「あら」
デュポーンとラードーン、二人はすぐに「分かった」みたいだ。
「魔力抵抗を上げてみたけど、効果あったみたいだね」
「こっちはすぐに分かるのね」
「その上対処もできる」
「すごい子ね。そこまで尖ってると人生つらいだろうけど」
「そこは当代のわしがなんかするじゃろう。気に入ってるみたいだからな」
「そうね」
ラードーンとデュポーンは何か言い合ってた。
俺の事を言ってるみたいだけど、なんの事やらって感じだ。
「えっと、これからどうするの?」
「向こうから何かが飛んでくるまで待つ。それはこっち側に来た瞬間崩壊して莫大な魔力になるから、それを受け止めて自分の物にしなさいよ」
「それってかなりしんどいよね。いまでもこれくらいなんだから、実際に何かが飛んできたら大変だろ?」
「それをどうにかしなさい、ってことよ」
「なるほど」
俺は少し考えて、自分の髪の毛を一本ぬいた。
抜いた髪の毛を向こうに放り込んだ。
すると、髪の毛が「境目」を越えた瞬間、瞬く間に崩壊して何かの力になった。
魔力ではない、初めてみる力だ。
「なるほど」
俺は頷いた。
大体わかった。
しばらく待つと、向こうからまっすぐ飛んでくる何かが目に飛び込んできた。
「くる」
「運がいいわね」
「どういうこと?」
「あれって確かスペースデブリって呼ばれてたわ。自然物じゃなくて人工物」
「向こうの人がつくったってこと?」
「そう。人工物の方が強いエネルギー――魔力になるのよ」
「そうか」
俺は頷いて、身構えた。
予想よりも更に数段上の魔力になる、そう思って身構えた。
それはまっすぐ飛んできた
飛んできた「スペースデブリ」が境界を越えた瞬間。
「『タイムストップ』――っ!!」
時間を止めた。
時間をとめて来るであろう膨大な魔力を吸収しようというプランを立てたが、停止した時間の中でも、一気に襲いかかってきた魔力がしんどかった。
前々世デュポーンが境目を開いた時の数十倍はしんどかった。
数段上を予想してたけど数十段上だった気分だ。
「おっと」
こうしちゃいられない、と、俺は「スペースデブリ」が崩壊して出来た魔力に「食いついた」。
ものすごく消化に悪い、胃もたれする食べ物にかぶりつくイメージだ。
停止する時間のなか、それにかぶりつく。
そして――。
「……ほう」
「あら、何をしたの?」
時間が動き出すと、ラードーンとデュポーンは「何かあった」事に気づいて、聞いてきた。
「『タイムストップ』で時間を止めた」
「時間を?」
「そう。タイムストップ、魔力が最高の状態でも3秒くらいしか止められないけど、消化した側からタイムストップに回してたら黒字だったんだ」
「そうやって停止した時間のなかで食い尽くしたというわけじゃな」
「ああ」
「すごいわね」
デュポーンは素直に感心した様子だ。
俺は向こうの星空をみた。
『タイムストップ』を使っても差し引きかなりの黒字だったから、もう一つ二つ、食っておきたいなと思ったのだった。