215.死ぬ気でやれば出来る
賭けは、二つあった。
賭けにでようと思った理由も、同じように二つあった。
ラードーンは俺の体の中にいた。
そうでありながらも、自由自在に俺の中からでて、人の姿になれた。
それは俺の「魂が大きいから」とラードーンはいったから、俺は【オーバーソウル】という魔法を作り出して、同時にデュポーンも俺の中に入れるようにした。
ラードーンのこと、そして【オーバーソウル】のこと。
この二つの経験があって、俺は賭けに出た。
一つ目の賭けは、過去の三竜たち。
離昇を経て、過去の自分達を召喚出来るようになったラードーンたち。
それはつまり、過去の彼女たちの魂が近くに存在しているということ。
もしそうなら、オーバーソウルで広げた俺の魂の中に彼女達を招き入れることが出来るかも知れない。
一つ目の賭けは成功した。
過去の彼女達、前世の四人は俺が広げた魂の中に招くことが出来て、そして実体化もできた。
「二つ目はだめか……」
四人を目の前に、俺は少し苦い顔でそうつぶやいた。
「なんじゃ、二つ目というのは」
前世のラードーンは不思議そうな顔で聞いてきた。
俺は苦い表情のまま倒れている三人の方をちらっと見てから答えた。
「お前達四人と同じように、こっちの三人も魂だけ一時的に分離出来れば、力になるしもしかしてそこから【ドラゴンスレイヤー】の影響下から脱する、抜け道みたいなのが見つかるかも知れないって思ってさ」
「ふむ、たしかに。それが出来れば抜け道もありそうだな」
「無理だよそんなの。だってあたしがなすすべもなく殺された忌々しい魔法なんだから」
そう言ったのは前世のデュポーン。
今いる中で、唯一直接【ドラゴンスレイヤー】を体験したことのあるのが彼女だ。
そんな彼女がいう「無理」を、他の四人は否定しなかった。
「……四人は、というか三人か。仲はいいの?」
俺はすこし考えて、そう聞いた。
「時代や巡り合わせにもよるけど、大体が最悪ね」
「なるほど」
「人間の感覚で言うと――間男以上親の仇未満ってとこ?」
「うーん……」
前世ピュトーンの言葉で理解しかけて、前世デュポーンの例えでまたちょっと分からなくなってきた。
「とにかく悪い、ってのはまちがいないのか」
「そうじゃな……なぜ今そんな事を聞く」
「ガイとクリスのことを思い出してさ」
俺は直前まであっていた、いちいちなにがあっても言い返さなければ気が済まない、ガイとクリスの二人の関係性を思い出していた。
「今のデュポーンが『無理』って言ったの、クリスとかだったらすぐに言い返してるだろうなって」
「この女はクズだけど、能力と見識はわたくしたちと同ランクのもの」
「そうじゃな、そいつが実際に死に、死んだあとも意地を張らずに無理だと言い切るのならそれほどの物じゃろう」
ピュトーンとラードーンが立て続けにいった。
俺はすこし驚き、彼女達をじっと見つめてしまう。
「どうした、珍妙な顔をして」
「いや……なんだかんだ言いながらお互いのことは認めてるんだな、って」
俺がいうと、彼女達は複雑そうな顔をした。
特に前世のデュポーンは今のデュポーンと同じように、直情的な性格らしく、一番強く反応した。
「認めてるわけないでしょ! 大体ね、こんなことになったの、ラードーンが悪いんだからね」
「なんじゃ、わしに難癖か?」
「ちがうわよ、今のこいつ」
前世デュポーンは【ドラゴンスレイヤー】で倒れている今のラードーンを指さしながら言った。
「こいつ、【ドラゴンスレイヤー】のことを聞いてたんでしょ、それをあたしの所に話をもってきたら警戒もできたじゃん」
「わざわざ貴様に話をもっていく必要などないな」
「あんたかしこぶってるけど世の全てをしってる訳でもないのに生意気。大体ね、人間の心とかいっちばん分かってないのにいつも賢しらぶってさ」
「……」
前世ラードーンは苦虫をかみつぶしたような顔をした。
俺はちらっと今のラードーンをみた。
初めて彼女と出会ったときも、ラードーンはそんなようなことを言っていた。
自分は人間のことがよく分からない、興味もない。
そんな事を言っていた。
今のやり取り、そして言い返せずに苦虫をかみつぶしたような表情をするラードーンを見ていると。
どうやらそれは前世でも同じようだった。
「お――」
「起こってしまったことはしょうがない、とか言わないでしょうね」
「……っ」
ラードーンが更にやり込められた。
そこにピュトーンが口を挟んだ。
「いまラードーンを追及している時なのかしら。時間がどれくらいしか残っていないのは、あなたが一番よく知っているはずでしょう」
「――っ! そんな事言われなくてもわかっているわよ!!」
ピュトーンの言葉に、デュポーンは顔を真っ赤にして反発した。
反論まで行かなかったのは、ピュトーンが痛いところをピンポイントにえぐったからだろう。
三人が言い争い、互いに互いの痛いところをつつきあっているなか、これまでずっと黙っていた前々世のデュポーンが俺の方を向き、静かに開いた。
「そうね、時間は無駄にするべきではないわね。私達四人をこうして自由にさせるのなんて裏技に近い。いつまでも続けられる物ではないわ」
彼女がそういうと、直前まで言い合って――にらみ合いまで発展した三人が一斉にそれをやめ、俺の方を向いた。
「たしかにそうじゃな」
「それはあたしも思ってた。あんた人間にしてはすごいじゃん」
「そうですわね。魔力もさることながら、柔軟に対応できる発想力も素晴らしいわ」
さっきまでとはうってかわって、三人は立て続けに俺のことを褒めちぎってきた。
「たしかにこんなのいつまでも続けられるものじゃないわね。ずっと魔力を放出し続ける必要があるし……話は聞いてるけど寝るときは維持できないんでしょ?」
デュポーンがそう言ってきた。
【オーバーソウル】と一番深く関わっている今のデュポーンから聞いたんだろう。
「それなら大丈夫だ」
「なによ、強がってる場合じゃないでしょ」
「いや、強がりじゃない。大事なときだ、三日三晩くらい寝なくてもいける」
俺ははっきりとそう言いきった。
前世でも何回かあったことだ。
ここ一番の時に三日三晩の徹夜は、やってやれないことはない。
昔のどうでもいい事でさえそうなんだから、今のラードーンら三人の命がかかっている状態なんて、もっと気が張ってるし三日間くらいなら気力と根性で持たせられるだろうと俺は確信してる。
「たかが三日間、死ぬ気でやれば余裕で持たせられる」
「へえ……あんた、見かけよりも面白いじゃん」
デュポーンが面白そうな顔で言う。
気づけば他の三人も、同じような称賛する顔で俺を見ている。