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202/439

202.限界を超えて

 魔物の街は、蜂の巣を突っついたような大騒ぎになっていた。


「なんだあれは!?」

「敵襲か!?」

「誰かリアム様に知らせてきて!」


 地上から見あげれば、まさしくもうひとつの太陽が現われたかのようだった。


 空に浮かぶ二つの太陽、それは等しく輝いていて、どっちが元からあった太陽か――と見分けるのが非常に困難だった。


 地上の生き物たちが大騒ぎになるのも(むべ)なるかなというところだ。

 そんな騒ぎとは裏腹に、ピュトーンが枕をかかえたまま、音もなく現われた。


 彼女は道の真ん中に立って、いかにも眠たそうな目をして空を見上げている。


「ピュトーン様!」


 二つ目の太陽の登場でパニックになっているスカーレットがピュトーンを見つけた。


 ピュトーンはリアムが作った枕を抱きしめつつ、視線をスカーレットに向けた。


「んん? どーしたのお?」

「あれはどこかの国がしかけてきた物かもしれません。ピュトーン様には無用な心配かと思いますがここは――」

「あれはデュデュだよぉ?」

「デュデュ……デュポーン様ですか?」


 驚き、声を上げてしまうスカーレット。

 周りにいる一部の魔物がそれを聞いて、さらにはピュトーンの姿にも気づいて、パニックが少し治まって、ピュトーンの言葉に耳を傾けだした。


「うん、デュデュだよぉ、あれ」


 ピュトーンはそう言って、二つある太陽のうちの一つを指さした。


「あれがデュポーン様なのですか?」


 スカーレットが驚いたようにいうと、周りからざわめきが起きた。

 さっきまでの軽い恐慌状態とは違う、驚きはあるが危機感はあまりないようなざわめきだ。


「うん」

「そうなのですか……さすが神竜様」

「となりにラーちゃんもいるみたい。あとかれも」

「彼?」

「すごい人」

「主様ですか!?」

「うん、デュデュに何かしてるみたいだねえ」


 ピュトーンがそう言うと、スカーレットを含め、周りの魔物が一斉に空を見上げた。


 新しくできた太陽のような所にリアムがいる。

 それを知った街の住民達から新しいざわめきが――尊敬・感心を含んだ新しいざわめきが起きて、それが波のように広まっていくのだった。


     ☆


「すごい……魔力量だ」

『やれやれ、やはり骨が折れるな、これは』


 ドラゴンの姿にもどったラードーンはため息交じりに言った。


「大丈夫なのか?」

『問題はない。それよりもそろそろだが、そっちこそ大丈夫なのか?』


 ラードーンはそう言い、目線を真横に向けた。


 そこには寝ている――水中に浮かんでいるかのような姿勢で寝ているデュポーンの姿がある。


 デュポーンの体からは未だに微弱な魔力が出し続けられていて、それが新しい太陽みたいな物に吸い込まれていく。


 そう、驚いたことに、これだけ出してもまだデュポーンの魔力はそこをついていないのだ。

 とはいえ、ラードーンが「そろそろ」って言ってくる以上、本当にそろそろなんだろう。


「ああ」


 俺は頷き、飛行魔法を操ってラードーンの側に移動し、ラードーンの体に手を当てた。


「いくぞ」

『うむ』

「『タイムスロウ』!」


 魔力を限界まで高める詠唱をし、魔法を行使。

 瞬間、世界の雰囲気が一変する。


『これは……新たな魔法か?』

「『タイムシフト』から派生した魔法だ、時間の流れを極端に遅くした」

『ふむ、しかしこれでも早すぎる(、、、、)ぞ』

「それは分かってる。タイミングを教えてくれ」

『うむ』


 ラードーンはそれ以上聞かず、俺に任せてくれた。


 『タイムスロウ』で極端に遅くなる時間の中、じっと待ち続ける。

 そして、デュポーンの体から流れ出る魔力が途切れた瞬間。


『今だ!』

「アメリア・エミリア・クラウディア――」


 転生前の俺が憧れた三人の歌姫。

 その歌姫たちの名前を魔法の詠唱に使うことで、瞬間的に魔力を極限まで高めた。


 両手を突き出す。

 体をラードーンに寄せながら、両手を突き出す。


「『タイムアクセラ』――『タイムシフト』!」


 スロウと併せて、更に二つの魔法を同時に詠唱。

 瞬間、両手がはじけ飛んだ。

 中から破裂するかのように血を吹き出した。


『大丈夫か!?』


 驚くラードーン。


「それよりデュポーンを!」

『――っ!!』


 ラードーンは応答さえも惜しんで、デュポーンの魔力を牽引した。

 新しい太陽になったデュポーンの魔力を彼女の体に戻していく。

 さっき見た光景を逆再生にする様な不思議な光景が起きる。

 魔力が、デュポーンの体の中に戻されていく。


 同じように派生から編み出した時間魔法、『タイムアクセラ』。

 それは時間を早くすすめる魔法だ。

 これを使えば、体感わずか十分で一日を過ごす事ができる。


 約束の日が早く来ればいいな、なんて思う事も人生の中にはある。

 その感覚を、デュポーンが見せた『タイムリープ』と『タイムシフト』を組み合わせてつくった。

 そして、同時に『タイムシフト』を使った。


 『タイムシフト』は時間を巻き戻す魔法。

 すすめる魔法と、巻き戻す魔法。

 それを同時に使った結果――時間が止まった。

 進むのと戻るのと、それを同じ案配の力で行使したら時間がびたりととまった。


 止まった時間の中で動けるのは術者の俺と、俺と触れて繋がっているラードーンだけ。


 デュポーンはとまった時間の中にいる。


 死の瞬間に新生するというのなら、その瞬間に時間を止められれば――と思ってこうした。


「……くっ」


 しかし、負担が大きかったようだ。

 もとから負担の大きい『タイムシフト』、それと同時に二つもタイム系の魔法をつかった。


 イメージした魔力伝達路の両腕が一瞬で張り裂け、俺の意識も遠のいていく。


 これはまずい、しっかり意識を持っておかなきゃ――と思ったが。


『とんでもない男よ』


 ラードーンの言葉が耳に入ってきた瞬間、俺はホッとして意識を手放したのだった。


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2025年1月6日アニメ放送開始しました!

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