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198.全力疾走

「……わ、我を離せ」

「え? ああごめん」


 腕の中からラードーンの力ない声が聞こえて、俺は慌てて彼女から離れた。


 普段と同じ言葉使いながらも普段とは違って口調が弱々しいラードーン。

 離れた直後、顔が真っ赤になっているのが見えた。


「大丈夫か?」

「ああ。……ふう」


 ラードーンはそう言いながら、深呼吸を一つ。

 そして顔の赤みがすぅと消えていき、みるみるうちにいつもの彼女に戻った。


「大丈夫なのか?」

「うむ、問題ない」

「それならいいんだけど……」


 そうは言いつつも、何故ラードーンが赤面したのかが気になる。

 俺のそんな疑問に気づいたのか、ラードーンは片手を腰に当てて、ジト目に呆れ顔を向けてきた。


「お前のことだ」

「え?」

「なぜ我がこのような反応をしたのか理解していないのだろうな」

「ああ、まあ」


 俺は頷いて、少し考えて、答えた。


「一つだけ分かる事がある」

「んむ?」

「お前がそう言うってことは、魔法の事じゃないだろうなって」

「……はは、そうだな」


 ラードーンは一瞬きょとんとしたあと、楽しげに笑った。


「分かってなきゃまずいか?」

「いや、お前はそれでよい。長所を伸ばす事だけを考えていればよいタイプだ」

「わかった、そうする」


 ラードーンの言葉を素直に受け入れた。

 一理ある話だし、彼女がそう言うのならそれで間違いないだろう。


「さて、話を戻そう」

「ああ。半分正しいが満点、のやつだな」

「そうだ。我が誘導したから考え方は違うが、誘導した方向性で満点を出したということだ」

「説明を頼む」

「うむ。まずお前がたどりついた正解は、『離昇状態に備えてあらかじめ何かをしかけておく』ということだ。それが回復魔法――魔法ではないと言うことだ」

「じゃあなんだ?」

「魔力だ」

「魔力……」


 俺はあごに手を当てて、考えた。

 ラードーンは更に続けた。


「魔力は魂と極めて同質のもの。魔力を使って魂を修復することも出来る」

「魂の修復」

「しかし離昇、死んでいる状態では魔力の行使ができなくなる。だから前もって魔力を放出し、離昇した状態でその魔力を取り込まなければならん。魔法ではない、純粋な魔力の回収だ」

「なるほど……それで俺が思い付かないかもしれないからって事で、ひとまず魔法って話にしたのか」

「うむ」


 ラードーンは頷き、にこりと笑った。


「話は理解できたか?」

「ああ。でもそれって魔法じゃなくて良いのか?」

「それは問題ない。離昇状態の魂を――そうだな、海綿だと思えばいい。まわりに元の魔力があれば勝手に吸い込む。そしてその魔力で補完して元の魂の一丁あがりというわけだ」

「そんなに――簡単にいくのか?」


 聞くと、ラードーンはにやりと笑った。


「無論うまく行かぬ事も多い。理由はいくつかあるが、一番多いのは回収する魔力がたりなくて魂が元に戻らぬケースだ。そうだな……あまり良い例えではないが、割れた皿をくっつけようとしたはいいが接着剤が足りなかったと思えばいい」

「なるほど」


 俺は頷き、納得した。

 いい例えじゃないとラードーンは言うが、充分にわかりやすいと思った。


「魔力が足りなければ人間の魂にならん。無理矢理他人の魔力を継ぎ足すこともできるが、そうすると別の魂――別人になってしまう」

「なるほど……どうすれば魔力が足りるんだ?」

「それこそやり方がいろいろあるが、お前の場合は回収率の話が一番とっつきやすいかもしれんな」

「回収率って……あの?」

「あの」


 こくりと頷くラードーン。


 回収率、それは少し前に魔力の鍛錬の一環で使ってた言葉だ。

 放出した魔力を回収再利用することで、一日でできる魔力の鍛錬の濃さを上げるということだ。


「お前は今のやり方で29%が限度と言っていたな?」

「ああ」

「独力でやるとなると51%はいる」

「51%……」


 ラードーンが口にした数字は、俺が前に話した限界を遙かに上回る数字だった。

 限界と話したのが29%なのに対して、ラードーンは51%だと言った。

 普通に考えたら不可能な数字だ。


「なので独力ではなく、我が少し手を貸して――」

「大丈夫、いける」

「――やる、って、なんだと?」

「いけるよ、51%だろ?」

「……いつの間に上げたのか?」

「いや、上げてはいない。ただ前提が違うだけだ」

「前提?」

「ああ」


 俺ははっきりと頷いた。

 ここから先は魔法の話だ。


「29%っていうのは、継続してやり続ける事が前提の術式だから、29%なんだ。一回きりでならもっと上がる」

「……なるほど、短距離を走るのと長距離を走るのとの違いということか」

「そうそう、それ」


 俺は頷き、ポンと手を叩いた。

 ラードーンのたとえはやはり分かりやすかった。


「一回きりなら51%は超えられる、結構大幅に」

「ふふ、さすがだ」

「え?」

「一回切りとはいえ51%というのじゃ容易なことはない。それを軽く超えられるといいきれるのはさすがだということだ」

「そっか」


 ラードーンに褒められるとちょっと嬉しかった。


「ならば早速やってしまおう。確実に出来るのだな?」

「ああ」

「ならばお前は魔力の放出と回収だけに専念するといい、我は仮死――離昇状態に導いてやろう」

「わかった」

「念の為魔法障壁の類はすべて切っておけ」

「わかった」


 俺は頷き、目を閉じた。

 魔力鍛錬の為に組み上げた、29%回収の術式を組み替える。

 一回こっきりの、やり終わった後に倒れても構わない位の全力疾走(、、、、)をイメージした術式を組み立てた。


 そして――。


「行くぞ」

「うむ」


 全身の魔力を一斉に放出した。

 マジックミサイル、パワーミサイルの系譜に連なる、シンプルな魔力の放出。


 100%(、、、、)回収出来る術式で、魔力を一気に放出した。

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2025年1月6日アニメ放送開始しました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読んでます。 [気になる点] 誤字報告です。 誤)言い例えじゃない 正)良い例えじゃない キーボードで打つ時、「yoi」と入力すると、間違えなくなりますよ。 [一言] 更新待って…
[一言] 今回も面白かったです。次話も期待してまってます。
[一言] >一回切りとはいえ51%というのひゃ容易なことはない 台詞噛みまくってやがんなあ(目反らし さらにしれっと会話してやがる(明後日の方を見ながら
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