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187/439

187.全ては我の手の上

連載再開します、約10万字の予定です

 宮殿の中、謁見の広間。

 俺は玉座に座って、使節団と向き合っていた。


 謁見の広間まで入ってきたのは総勢10名。

 先頭の貴族らしき人を筆頭に、全員が正装をしてきている。


 こんなに数多くの貴族らしい相手と対面したのは初めてだ。

 ハミルトン家に生まれて、スカーレットなどと親しくなって。

 それなりに貴族と対面したり、時にはバチバチやり合ったりもするが、こんなに「多い」のは初めてだ。


 「玉座」に座っていながらも、俺は緊張していた。


 が、俺以上に向こうの方が明らかに緊張しているのが、それこそ手に取るように分かる。

 その理由は――俺の背後だ。


 俺の玉座の後ろに、三頭(さんにん)の竜がいる。


 ラードーン、デュポーン、そしてピュトーンだ。


 三人とも元の姿――の数十分の一の、人間とさほど変わらないサイズをしている。

 それだけでなく、体がぼんやりと、淡い燐光を放っている。

 そんな姿で、俺の後ろに鎮座している。


 更にその後ろの窓の外には、オリジナルサイズのラードーンら三人の姿も見える。


 つまりどういう事なのかというと、宮殿の外にオリジナルの巨大な三頭の竜がいて、その三頭とまったく同じ見た目でサイズだけ小さくした、しかし幻想的な光を放つ竜が俺の背後にいる。


 謁見の直前、これで何をアピールするのかとラードーンに聞いてみたところ。


『何もない』

「え?」

『別段、これといった意図はない』

「じゃあなんで?」

『人間は理解不能なものを勝手に解釈する、自分が理解できるようにな』

「……?」

『つまり、あたし達がダーリンにラブラブだって思うようになる――』

『三竜がお前に協力的だと思い、勝手に恐怖に陥ってくれるだろうよ』


 デュポーンの言葉を遮るように言って、ラードーンはくすくすと笑った。 

 ちなみにピュトーンは何もいわなかった。


 果たして、ラードーンの言ったとおりだった。

 彼女達が演出した光景をみて、使節団は終始ビクビクしていた。


「ですので、我が国は決して陛下と敵対するつもりはなく――」

行動(、、)は口ほどにものをいう』

「行動は口ほどにものをいう」

「――っ!!」


 謁見中のやり取りとかは、完全にラードーンがアドバイスしたものを、俺が腹話術の人形になったかのように繰り返しているだけだった。

 それが間違いなく一番良いやり方だ。


 魔法の事は俺も考えた方がいいけど、それ以外のことはラードーンのアドバイスにしたがうのが一番いい。

 経験でそれが分かってるから、何も考えずにリピートだけをした。


「先日の一件は我々もいわば被害者でして、本当に困っている――」

『来週あたりにそなたらも加害者にされる(、、、)のかな』

「来週あたりにそなたらも加害者にされるのかな」

「ーーっ!!」


 ラードーンはやっぱりすごくて、一言一言が相手の痛いところをえぐって、その度に言葉を詰まらせた。

 それを見る度に、ああやっぱりラードーンに任せて良かったと俺は思った。


『なによなによなによ、ちょっとあんた、ダーリンを好き勝手にしてるんじゃないわよ』


 俺はそれに納得して――むしろ進んでそうしているが、デュポーンは不満があるみたいだった。


 ドラゴンの姿で居るからか、デュポーンはラードーンと同じように、直接俺の心の中に語りかけてきてて、ほかの人間には聞こえなかった。

 そうやって怒ってわめいているが、ラードーンはまったくそしらぬ顔で、知らんぷりをしていた。

 それがますますデュポーンを刺激してしまって。


「おい! さっきから聞いてれば好き放題言いやがって!」

『それでは決裂ということで――』

『こっちの話を聞きなさいよ!』


 デュポーンはラードーンの言葉を遮るように大声をだした。

 ラードーンの言葉を最後まで聞けなかったから、俺はリピートはしなかった。

 俺がしなかった代わりに、苛立ったデュポーンが力を放出して、彼女のまわりの床がビシッ! と放射状にひび割れた。


「――っ!!」

「おい! 失礼だろ!」

「申し訳ございません陛下、このものはまだ若く、決して悪気があったわけでは」


 偶然の出来事だが、結果として使節団の末席にいた男が俺に怒鳴ったことでデュポーンがキレた――という形になった。


 俺への無礼で三竜が怒る、という事態になって、使節団はますます大慌てになる。

 俺を怒鳴った男もかわいそうな位に青ざめた。


『成長しないな、いや、文字通り退化(、、)したからしょうがないのか』

『退化じゃないわよ! 新生(、、)よ新生! あんたも時期がきたら同じようになるでしょうが!』

『そうだったかな』

『むっきーっ! なによなによなによ! いつもいつもスカしちゃって』

『年長者の余裕と言ってもらおうか』


 流れが変わった。

 さすがにこれはリピートするものじゃない、ラードーンとデュポーンの間のやり取り、だというのは分かる。

 だから俺は何も言わずに黙っていたが、二人は――というかデュポーンはますますエスカレートして、そのせいでラードーンとデュポーンの間の空気がビリビリと張り詰め、しまいにはバチバチと空気中に放電しだした。


 さすがにこれはまずい。

 ドラゴンたちの威厳で使節団を圧倒するのはいい。

 でも、ラードーンとデュポーンが仲間割れするのはまずい。

 魔法以外の事は――とは言っても、仲間割れがまずいというのは俺にも分かることだ。


『あんたなんかね――』

「デュポーン」

『とめないでダーリン、今日こそこいつを塵一つ残さず――』

「今はやめて」

『うっ……』

「良いかな」

『うぅ……ダーリンがそう言うなら』

「……」


 俺はにこりと、デュポーンに微笑んだ。

 すると、デュポーンは引き下がった。

 直前まであった張り詰めた空気が一気に緩んだ。


 手を伸ばして、デュポーンの頭を撫でた。

 デュポーンの事が、拗ねた大型犬に見えたから、それをあやすために自然と手が出た。


 撫でてやると、デュポーンは『えへへ……』とますます緩んで、ついさっきまでの殺意がどこへやら、という感じになった。


「見たかあれを」

「あ、ああ……まさかあのデュポーンをそこまで手懐けているとは」

「やはり絶対敵に回してはいけない相手だ」


 使節団の中でなにかぼそぼそと耳打ちを交わしていたが、ラードーンが相づちを打たなかったから、俺もスルーすることにした。


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2025年1月6日アニメ放送開始しました!

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― 新着の感想 ―
[一言] あ~あ!パルタ公国は下手を打ったなある意味この会見は 敗戦の停戦交渉なのに相手国の王を怒鳴った?これ宣戦布告が成立するし他国が聞いても納得の開戦理由だよ? 懐刀のエクス・ブラストは暗殺未遂の…
[気になる点] 誤字?報告:ドラゴンの姿デイルからか デイルって誰?何? 「姿でいるからか」の間違いですかね?
[気になる点] 手を伸ばして、ラードーンの頭を撫でた。  デュポーンの事が、拗ねた大型犬に見えたから、それをあやすために自然と手がでた。 撫でたのはデュポーンの頭なのでは?
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