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186.三竜の王

 ある日の昼下がり。

 俺は宮殿の中庭、林の中で魔力の修練をしていた。

 魔力の修練で、いろいろ方法を変えたりしている。

 もっともっと、魔力がより増える方法を日夜考えて、考えついた事を片っ端からやっている。

 今もそうで、俺が転生した直後に魔法を練習し始めた「林」というロケーションだったらどうか? ってことで林の中でやってみた。

 結果変わらなかった。

 変わらなかったが、俺はそこそこ満足した。

 これで「林でやっても変わらなかった」というのがはっきりしたからだ。

 魔法に関する知識は多ければ多いほどいい。

 実際に役に立つし――魔法の知識が増えれば純粋に嬉しい。

 今のも、「林でやっても変わらなかった」という知識が増えたから満足出来た。

 変わらなかったからといって、別にすぐ戻る必要もなくて、俺は林の中で魔力の修練を続けた。

 地面であぐらを組んでリラックスした姿勢で、魔力の修練をする。

 そうしているうちに、「じぃー」って感じの視線を感じた。

 視線を感じる真横を向くとピュトーンがいた。

 小柄なピュトーンは、ちょこんとしゃがんだ姿勢で、俺をじっと見つめていた。

 相変わらず眠たそうな顔をしているが、霧が出ていないから寝ている訳じゃなさそうだ。

「どうしたんだ?」

「あなたを見てた」

「俺を?」

 俺の何を見てたんだろう、と不思議がった。

「話を聞いた。何でも叶えてくれるって、本当?」

「うん?」

「なんでも一つだけ、願いを叶えてくれる、って」

「なんだその昔話の様なやつ」

 俺は微苦笑した。

 したが、心当たりがあった。

 そうか、デュポーンのことか。

 デュポーンは【マリオネット】を大いに気に入った。

 その後も何回かおねだりに来たくらいだ。

 あれでちょっと支配されたがり? なところがあって、無理矢理苛められるのが好きっぽくて、【マリオネット】で俺の口を使ってそういう事を言わせた。

 その事なんだろう。

「別になんでも叶えるってわけじゃないぞ」

「……そう」

 じゃない、けど。

「何か困ってることでもあるのか?」

「え?」

 ピュトーンが驚き、俺を見る。

「困ってることがあるんなら力になるけど」

「困ってること」

「そう。ただのわがままなら言われてもちょっと困るけど、困ってることだったら力になる」

 ピュトーンはしばし、俺をじっと見つめた。

 見つめてから。

「良い人?」

「それを口に出して言われると恥ずかしくなる」

「悪い人」

「そっちも嫌かもしれない」

「……どうでもいい人」

「それが一番嫌だ!」

 俺は声に出して突っ込んだ。

 うん、間違いない。

 どうでもいい人が一番精神的にキツい。

 俺の突っ込みには乗ってこなかったピュトーン。

 そういうノリツッコミをするようなタイプの子じゃない。

 むしろ彼女は思案顔になった。

 うつむき加減で、何かを考え込んだ。

 俺に言われたことを考えているのだろうか。

 ピュトーンなら、と思った。

 彼女のお願いなら、そんな変な事にはならないだろう――。

「子供、ちょーだい?」

「ぶっぅぅぅぅぅ!!」

 俺は盛大に吹きだした。

 ピュトーンのお願いは、予想の遙か斜め上のものだった。

「何を言ってるの!?」

「あなたの卵を産みたい」

「いやそういう意味じゃなくてね!」

「あなたとの子供なら、寝てる時も側にいられそう」

「……ああ」

 盛大に突っ込んだが、急速に冷静になった。

 ピュトーンにとって大真面目な話だった。

 彼女は寝ているときに体から眠りを誘う霧を放出する。

 その霧はあらゆる生物を眠りに誘い、抵抗できるのはラードーンやデュポーンといった同格の存在だけだった。

 そこに現われた、俺という人間。

 俺は魔法と高い魔力によって、彼女の眠りの霧に抵抗できた。

 その事があって、今、ピュトーンに懐かれている状態だ。

 俺はすこし考えて、答えた。

「すこし時間をくれ。もっといい方法を考えるから」

「もっといい方法?」

「子供っていう少ない数じゃなくて、みんながピュトーンの寝てるときでも普通にそばにいられるような方法――できる限り抜本的な方法を」

「……わかった、待ってる」

「ああ」

「お返し」

「ん?」

「お願いを聞いてくれた、お返し」

「まだ何もしてない」

「先払いの方が、真剣にやってくれる――人間は」

「あはは」

 そういうのはあるかも知れないな。

 俺は納得した。

 お返しに何か古代魔法とかそういうのを教えてもらおうかな、と。

 なんとなくそんなのんきな事を考えていた。


     ☆


 夕方の執務室。

 俺は尋ねてきたスカーレットと向き合っていた。

 スカーレットはいつものようにピンと背筋を伸ばした綺麗な姿勢で立っていた。

「主様にご報告致します。パルタ公国から使節団の申し出がありました」

「使節団?」

「主様にすり寄るための使節団かと。今回の事で、パルタの王侯貴族が一人残らず、妻たちに責められているのだとか」

「ああ、【アンチエイジング】の効果が出たのか」

「おそらくその通りかと」

 スカーレットははっきりと頷いた。

 俺は感心した。

 スカーレットの言うとおりにしたら、本当にパルタから詫びの使者が来ることになった。

 ラードーンもすごいけど、貴族の事に関してはスカーレットの方が詳しいって感じだ。

『……』

「如何なさいますか?」

「如何なさいますか――って、なにが?」

「私見を申し上げますと、虫が良すぎます。もっと屈辱を与えるべきか、恐怖を与えるべきかのどっちかにしないと、相手は心のどこかで主様を見下し、また同じような事が繰り返されるでしょう」

「繰り返すのか?」

「熱さのど元過ぎれば」

 スカーレットがはっきりと頷いた。

 貴族の生態に詳しいスカーレットがそこまで言うのなら、間違いないだろうと思った。

「それは困るな」

 何回も同じことを繰り返されると面倒臭い。

 俺は少し考えた――が。

 下手の考え休むに似たりだ。

 魔法以外の事だと、俺が考えるよりも周りが考えた方が絶対に良い。

 そう思って、スカーレットをまっすぐ見つめた。

「どうすればいい?」

『我に良い案がある』

「ラードーン?」

 スカーレットに聞いたのに、ラードーンが名乗り出てきた。

 ラードーンが言うことにちょっと驚いたが、まったく問題はなかった。

 貴族の事はスカーレットの方が詳しいかもしれないが、ラードーンはラードーンで、人間の本質を分かっているから、こういう時のアドバイスはものすごく役に立つ。

 驚いたため一呼吸間が空いたが、冷静なまま聞き返した。

「良い案って?」

『恐怖を与えれば良いのだろ?』

 その言葉はスカーレットに向けたものだったから、俺は言葉そのままを伝えた。

「はい、主様に二度と変な気を起こさないように、絶対的な恐怖がベストです」

『であれば我に任せてもらおう』

「――って、言ってるけど」

「神竜様にそうおっしゃっていただけるのなら否があろうはずもございません」

 スカーレットは恭しく腰を折った。

 スカーレットが同意してくれるのなら話は早いと思った。

 思った、が。

 ラードーンは何をするつもりなんだろう。

『当日になれば分かる』

「へえ」

『下準備もいらぬ』

「いらないのか?」

『うむ、お前はどーんと構えていればよい』

「はあ……」

 どういうことなんだろうと不思議がったが――まあ。

 ラードーンの言うことだ、まあ従ってれば良いと、魔法以外の事だから俺は深く考えないようにしたのだった。


     ☆


 数日後、街の外。

 パルタ公国の使節団を迎えるにあたって、街道を再整備させた。

 こっちはスカーレットの提案で、「王都の玄関だから華やかに」といわれたので、実用性のない華美な装飾とかそういうのを付けた。

 そんな街の出入り口と街道の境目で俺は待っていた。

 そして、街道の向こう――地平線の果てからパルタ公国の使節団が現われた。

 使節団はゆっくりと近づいてくる。

 こっちは俺と、背後にガイら三幹部、そしてスカーレットら主立ったメンツでの出迎えだ。

 なんだが――総出での出迎え以外、特に何もしていない。

 さすがにもう――って感じで俺はラードーンに聞いた。

「まだいいのか?」

『うむ、そろそろよかろう』

「おっ。俺は何をすればいい」

『何もしなくて良い』

「え?」

 ここに至ってもまだ何もしなくていいのか? とちょっと驚いた。

 ラードーンの事だから、なんだかんだで俺に無茶振りして、魔法の即興的な何かを求めてくるのだと思っていた。

 そういうのならできるし、頑張れるから心構えだけしていたんだが……それすらもいらないようだ。

 だったら? って事で首をかしげた。

『これから何が起ころうと、お前はふんぞり返っていればいい』

「ふんぞり返る?」

『うむ、何が起ころうとも、だ。それが一番重要なことだ』

「わかった、そうする」

 何もかもわからないが、ラードーンからの指示はあった。

 何があってもふんぞり返ってろ。

 魔法じゃないけど、なんとかできるかもしれなかった(、、、、、、、、)

 俺は深呼吸した。

 そして、ふんぞり反った瞬間――。


 周りがざわついた。

 まず、俺の体の中から光とともにラードーンが顕現した。

 ラードーンがドラゴンの姿で顕現して、俺の背後に鎮座するように現われた。

 そしてどこからともなく、デュポーン、さらにはピュトーンも現われた。

 二人ともドラゴンの姿だった。

 ラードーン、デュポーン、ピュトーン。

 かつて「三竜戦争」を引き起こした三頭の竜が、俺の側に集まった。

 それを見てこっち側の魔物達はざわつくだけで済んだ――が。

 向こう側、人間側はそれだけでは済まなかった。

 パルタ公国の使節団は三竜を見た瞬間完全に動きが止まった。

 そして――一斉に青ざめた。

 青ざめた? なんで。

 と思っていたら、ただの感想が的確な解説になった言葉が聞こえてきた。

 三竜に最も詳しいであろうこっち側の人間、スカーレットの感極まったような感想。

「さすが主様……伝説の三竜をまるで従えているようですわ……」

 その言葉を聞いて、俺はラードーンの意図を理解した。

 三竜を従える魔物の国の王、魔王。

 それで、恐怖を植え付けようと言うことだ。

 理解した俺は言われた通りふんぞり返った。

 それが、ますますパルタ側に恐怖を与えることになったのだと、後から聞かされたのだった。

ここまで如何でしたか。


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[気になる点] じゅうようなことだ
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