181.ティエーレ
「主! ただいまでござる」
いつものように街中をぶらついていると、街の外から戻ってきたガイらギガース一行と遭遇した。
「ガイ! どうしたんだ、血まみれじゃないか」
俺は小走りでガイたちに駆け寄った。
ギガースのたくましく力強い体のいたるところに返り血がついている。
が、本人達は至って元気だ。
ちなみに返り血をたっぷり浴びている姿をまわりが驚く様子はほとんど無い。
ここは魔物の国、住民は99%が魔物だ。
多少の返り血を浴びたところで驚く魔物はほとんどいない。
人間の街ではまず見られない、返り血を浴びた大男達と平然と街中で立ち話をする光景になった。
「おっと、これでござるか。なかなかに手ごわい連中だったから手を焼いたでござるよ」
「ケガはないのか?」
「なあに、かすり傷程度でござる。酒を飲めば治る程度の物でござるよ」
「そっか」
俺はちょっとホッとした。
ガイのそれは強がりとかそういった物じゃなくて、本気で「酒を飲めば治るぜヒャッハー」的な感じだった。
ギガース達(一部の人狼もそうだけど)は、闘争心がめちゃくちゃ高い。
戦闘中に負った多少なケガならむしろそれでテンションが上がることがよくある。
今もそうみたいだ。
「それにしても、ガイにケガを負わせるなんて、相手はよっぽど強かったのかな」
「個々の力は大したことないでござるが、戦術が素晴らしかった」
「そうそう、気がついたらいつも3対1とか5対1になってた」
「俺は気づいたら常に囲まれてたぜ」
「面倒臭いけどその分歯ごたえ有ったな」
他のギガース達が口々に感想を言い合った。
総じて、戦うこと大好きなギガース達が満足する相手だったみたいだ。
それは逆に言えば、結構な強敵だったということだ。
「……わかった――【ダストボックス】」
俺は少し考えた後、魔法で異次元空間を開いた。
そこから熟成させた酒を取りだし、ガイに渡す。
「ご褒美、みんなで飲んで」
「おお! かたじけないでござる」
ガイがそう言い、まわりのギガースたちが一斉に歓呼を始めた。
そんなギガース達が酒場のある方角へ消えていくのを見送った。
☆
「調べてみましたところ、ガイたちが撃退した相手は『ティエーレ』である事が判明しました」
その日の夜、宮殿の執務室。
俺の前でメイド姿のレイナが書類に目を落としつつ、報告をしてくれた。
ガイたちの話が気になって、レイナに調査をさせたのだ。
「ティエーレ?」
「国家の名前です。傭兵国家ティエーレ。我が国からすこし距離がありますので、今まで関わり合いがありませんでしたが」
「傭兵国家? それって、傭兵が多いからって事?」
「国民の半数近くが傭兵との事です」
「そんなに!?」
俺はびっくりした。
「傭兵国家」という言葉から想像した物よりもワンランク上のものだ。
「どうしてそんなに傭兵ばかりなの?」
「すみません、そこまでは……」
レイナが申し訳なさそうに答える。
『痩せた土地だからだろう』
「ラードーン? 痩せた土地ってどういう事?」
俺の心の中から語りかけてくるラードーン。
俺が驚きつつ聞き返し、レイナも驚きながら(聞こえてないけど)聞く体勢に入った。
『人間どもの最古の職業が何か知っているか?』
「最古の職業……娼婦ってこと?」
なんか聞いたことのある知識で答えた。
『うむ、それは女の方だな。男は何になっていたと思う?』
「えっと……ごめん、わからない」
すこし考えたが、まったくわからないから素直にわからないと答えた。
『傭兵だ。女の娼婦と同じでな、体一つでやれる仕事。最悪弾避けとしてやれるものだ』
「へえ、そうなのか」
俺は素直に感心した。
傭兵が最古の職業だなんてちょっと面白いな。
「……それってつまり、昔から人間は戦い続けてきたって事なのか」
『そういうことだ。人間は三人集まれば派閥が出来る。部族まで出来てしまえば縄張り争いが生まれる。そこには軍事力がどうしても必要となり、傭兵のような商売が成り立つようになる』
「なるほど」
『傭兵国家。身一つで出来る商売に国民の大多数が身を投じるということは、国そのものが持っている土地が痩せているということなのだろう』
「ほかで喰っていくことが出来ないから、か」
『そういうことだ。ふふっ、この国も途中で一つ間違えればそうなっていたのかもしれんな』
「むむむ……」
ラードーンの言うそれを割と簡単に想像出来てしまった。
この国は魔物の国。
魔物は人間よりも個々の力――武力に長けている。
土地の豊かさ貧しさと関係なく、人間の国よりもそういうのになる可能性が高いのは言われるとすぐに納得した。
「それはいいけど……なんでそのティエーレがちょっかいを出してきたんだ?」
『それは知らぬ。我が知っているのは知識。情報は知らぬ』
「レイナ、何かわかる?」
水を向けると、それまでじっと話を聞く体勢をしていたレイナが答えた。
「申し訳ございません。そこまでは」
「うーん、じゃあ調べて。この国から離れてるのに襲ってくるのは気になる。傭兵だというのなら、どこかに雇われているだろうし」
「承知致しました、探ります」
レイナが深々と一礼して、執務室から出て行った。
『まあ、三カ国のどれかであろうな』
「そうなの?」
『常識的に考えればな』
「うーん」
俺は頭をひねった。
ラードーンの口ぶりはほとんど断定しているようなものだ。
彼女はよほどの事が無い限り断定口調でものをいわないし、言うときはほとんど隠している時だ。
つまり、ラードーンの言う通り、三カ国のどれかが裏についているんだろう。
……ん?
「待てよ」
『どうした』
「三カ国以外の可能性もあるってことか」
『……なぜそう思った』
「だって、ラードーンは『常識的に考えて』って言った」
『うむ、言ったな』
「『間違いなく』って言わなかった。だったら、そうじゃない可能性もあるって事だろ」
『それだけで判断したのか』
「今までの経験があるから。こういう言い方をする時は、俺に何か考えさせたい時なんだ」
俺の答えを聞いて、一呼吸置いた後、ラードーンが大笑いした。
声しか聞こえなくて、表情とかまるで分からない反応だが、それでもラードーンがものすごく楽しそうにしてるのが分かる様な大笑いだった。
「間違いだったか?」
『いいや、合っている。その通りだ。今回のはあくまで推測、確証はない』
「そうか」
『もっともほぼ間違いないがな』
「でも百パーセントじゃない」
『そういうことだ』
「だったら、そこらへん確定させちゃった方がいい」
『どうするのだ?』
「ガイとクリスに、次ティエーレの傭兵と戦ったときにリーダー格の人間を捕まえるように言っておく」
『そいつをどうするのだ? 拷問にでもかけるか』
「魔法を使う」
俺は頭の中でイメージした。
イメージしつつ、目の前で魔法陣を組み立てていく。
最近、魔法の作り方が少し変わった。
大まかな方向性で魔法陣にしてから、細かいところを調整していく。
粘土で何かを大まかな形で作って、整えていくやり方と似てる。
「聞かれた事をすべて正直に答える魔法をそれまでに作る」
『ふふ、その程度のものであれば、お前なら間違いなく作れるだろうな』
さっきとは違って、今度は言い切ってくれたラードーンに感謝して、俺は魔法をイメージし、組み立てて修正していく。
☆
数日後、ガイが捕獲してきたティエーレの傭兵隊長に自白の魔法をかけた結果、後ろにいるのがパルタ公国だと判明した。
結局三カ国のどれかだという結果だったが。
『お前の考え方がまた一つ成長したのが大きな収穫だ』
と、ラードーンは言ってくれたのだった。
ここまで如何でしたか。
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