180.鎖国と情報開示
あくる日の昼下がり。
俺は街をぶらついていた。
俺の日常は大きく分けて二つ。
家の中で魔法の修行をするか、街に出て散歩をするかのどっちかだ。
憧れの魔法の修行に没頭したいという気持ちは強いけど、街に出て魔物達の生活を自分の目で見ていると、ふとした事から魔法のインスピレーションを得ることがかなり多いから、ちょこちょここうして散歩している。
今日もそうやって、街中を歩いている。
「りあむさまりあむさま」
「さんぽ? さんぽならいっしょ」
歩き出してから一分足らずで、スライム・ドスのスラルンとスラポンが俺を見つけて、寄ってきた。
俺の側でぴょんぴょん跳ねつつ、からだを寄せてくる。
小型犬が跳びついてじゃれつくような感じで、「もっとかまえ」「もっと愛でろ」って言ってるような感じがして愛くるしいと感じる。
「いいぞ、一緒に行こうか」
「わーい」
「りあむさまだいすき」
スラルンとスラポンを加えて、散歩を続けた。
歩いていると、スラルンとスラポン以外にも、魔物達は俺の顔を見る度によってきて、話しかけてきた。
歩いて、止まって、話して、また歩き出して――。
それを繰り返していると、道の向こうからギガースがやってきた。
ガイだった、彼は気絶しているっぽい人間を肩に担いでいた。
「主! 散策中でござるか」
ガイは俺を見て、笑顔で駆け寄ってきた。
「ああ……その肩に担いでいるのは?」
「うむ、我が国に侵入してきた間者でござる。これから牢屋に放り込んでくるでござる」
「間者?」
「さよう」
ガイは大きく頷いた。
「何をどうやってか、少数で主の結界を越えてくるもの達がいるのでござる。連中は決まってこそこそしているので、こうして捕らえているのでござるよ」
「へえ……そうなんだ」
「最近は数も増えてきたでござるから、牢屋を増築しないとあふれてしまうでござる」
「増えてきたのか」
「さようでござる」
ガイがはっきりと頷いた。
「デュポーン殿が来た辺りで少し増えて、ピュトーン殿が現われてから更に増えたでござる」
「へえ」
「レイナが言ってたでござる、人間どもはよほど三竜の事が怖くて、どうにか情報を欲しがっている、と」
「そうなんだ」
それは初耳で、ちょっとびっくりしていた。
☆
「この国の最大の強みがそこなのでございます」
その日の夜、宮殿の中の大食堂。
広い食堂の中、エルフメイドの給仕を受けつつ、向き合う俺とブルーノ。
尋ねてきたブルーノと食事をしながら、ガイが間者――スパイを捕まえてそれで牢屋があふれそうになってる事を話すと、ブルーノは真顔でこんな事を言ってきた。
「最大の強みって……どういう事なんだブルーノ兄さん」
「この国の情報が外に漏れないのです」
「情報」
おうむ返しにその言葉をつぶやいた。
「陛下も、屋敷で暮らしていたころ、どこそこの国でなになにが起きた。という噂を耳にした事がおありかと思います」
「ああ、あるな」
俺ははっきりと頷いた。
ハミルトンの屋敷だけじゃなく、リアムになる前――つまり前世にもそういう事がよくあった。
「そういった者が、この国――リアム=ラードーンにはまったくないのです。この国の住民はみなが魔物、そして陛下に忠誠を誓っております。魔物達が情報を漏らすこともなければ、ガイ殿とクリス殿が片っ端からスパイを捕まえているので情報はまったく漏れません」
「へえ」
「余談ですが、今まで捕まったスパイが一人も解放されていませんので、この国へ潜入したものは生きて帰れない、と言われております」
「そんなこと言われてるのか!?」
ブルーノの言葉にびっくりした。
潜入した者は生きて帰れない……。
自分に関連することでそう言われてたなんて……なんか複雑な気分だ。
「ですので、わたくしの所にもよく、情報を売ってくれという人間がやってきます」
「そうか、兄さんは俺と取引をしてるもんな」
「はい。おそらくは、唯一自由にこの国への出入りが許されてる人間――だと思われています」
「そっか」
こっちの話は、なんだかちょっとだけ面白かった。
「でも情報って売れるんだ。なにか教えた方が良いことってある」
「え?」
「え?」
ブルーノがきょとんとなった。
なんだ、この反応は。
「どういう意味なのでしょうか、陛下」
「だって情報を売って欲しいんだろ、兄さんを訪ねた人たち。兄さんはそれを売ってお金に出来るんだろ?」
「め、滅相もございません。陛下を裏切るような事は致しません」
「ん?」
裏切る?
なんでそんなことになるんだ?
『あまり兄のことをいじめてやるな』
「え?」
ラードーンが会話に割り込んできて、俺は戸惑った。
「どういう事だラードーン」
『その男が他の人間にお前の情報を売るというのは、お前を裏切る事と同義なのだ。人間の世界ではな』
「そうなるのか」
俺は少し考えた。
「でも、別にいいんじゃないか?」
『ふむ?』
「情報っていわれても、別に知られて困るような事はあまりないし」
『さて、どうだろうな』
「兄さん、情報を売ってくれって言ってきてる人は、どういう情報をほしがってるんだ?」
「それは……殆どが陛下のお力の事を」
「なるほど」
「この国は陛下がお作りになった、陛下の魔法で発展した。そういうイメージだけは伝わっているため、陛下の魔法がどれほどのものか、というのを知りたがる者がほとんどです」
「そっか。じゃあそれ、兄さんがお金に換えていいぞ」
「え? 良いのですか?」
「ああ」
俺ははっきりと頷いた。
『いいのか?』
「ああ、だって知られても別に困らないし。というか俺の魔法のことだろ? 兄さん」
「はい」
「だったら、俺の魔法は日々変わったり新しくなったりしてるから、渡るのはどうせ古い情報だし、別に問題ないよ」
「……」
『……』
言った後、何故かブルーノとラードーンが同時に黙ってしまった。
「どうしたんだ?」
「い、いえ……さすが陛下だと思いました」
「え?」
『ふふっ、その男はお前の器の大きさに驚いているのだ』
「はあ……」
器の大きさ、か。
今の話でなんでそうなるのか分からないけど。
ブルーノがまだちょっと遠慮してる風だったから。
「遠慮しないで金に換えて良いぞ、兄さん」
と言ってやった。
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