18.モンスター発見
「こんなに!?」
ハンターギルドに戻って、アイテムボックスから出した野犬の死体を積み上げると、ギルドマスターが盛大にびっくりして、カウンターの向こうから飛びだしてきた。
野犬の死体を触ったりつっついたり、ひっくり返したりと、本物かどうかを確かめた。
もちろんそれは本物で、ギルドマスターはますます俺達を驚きの目で見た。
「全部で42体――なんだっけ、リアム」
「ああ、42体だ」
記憶に頼るアスナとちがって、俺は直前にアイテムボックスで全部が42体あると確認しているから、断言した。
「すごいな……ここにあるだけで、今日狩られた分の九割になるぞ」
「ふふ。ねえマスター、報酬をちょうだいよ」
「ああ……分かった。1頭あたりジャミール銀貨3枚だ。半分ずつでいいな?」
「ああ、それで頼む」
アスナが答える前に、俺が頷いた。
ギルドマスターが部下に合図した。
その部下は野犬の数を数えようとしたが。
「後で良い。21頭ずつの報酬を二つにして持ってこい」
部下は慌てて奥に駆け込んでいった。
そのやりとりを見ていたアスナがなぜか嬉しそうだった。
「どうした」
「今みたいのって嬉しいじゃない。信用してくれたのと、目の前で数えるのは気分を害するからやめろ、っていう気配り」
「ああ、なるほど」
このリアムの体に乗り移る前でも、商取引でたまに見かけた。
商品も代金も、その場では数えないで取引するの。
確かに、信用してくれたからこういう話になるよな。
アスナが嬉しそうで、微妙に誇らしげなのも分かる。
「すごいなお前達。その力を見込んで、依頼したい事があるんだが」
「ええっ!? 本当に?」
アスナが盛大に驚いた。
嬉しそうなのがより強くなった。
「嬉しそうだな」
「だってそうだよ。ギルドの方から依頼を持ちかけてくるのは珍しいよ。普通は貢献度と力を認めてもらった人にだけだもん」
「なるほど」
言われてみればそうなるよな。
ということはギルドマスターは俺達を認めたってことか――いや。
ギルドマスターは俺を見つめている。
アスナじゃなくて、俺をじっと見つめている。
どうやら、認めたのは俺の力の方のようだ。
「何をすればいいんだ?」
「あの街道に、モンスターが1体いる。それを退治してもらいたい」
「モンスター!?」
アスナが声を上げた。
同時にギルドの中がざわざわした。
「おいおい……あんな子供にモンスター討伐、大丈夫なのか?」
「だったらお前が1日で野犬40頭を狩って来いよ」
「……ちっ」
一部ではまだ疑問視する声もあるが、それに反論――俺の力を認める側に立つ声も増えてきた。
モンスターと獣の違いは、モンスターが体内に魔晶石を持っている点が一番大きい。
それのせいなのか、本能で動く野獣とは違って、モンスターは時には魔法を使ったり、人間のように高度な戦闘術を駆使したりする。
同じような見た目のモンスターと獣でも、モンスターのほうは危険度が5~10倍は上だと言われている。
「どうだろうか」
「わかった、引き受けよう」
☆
次の日、俺はアスナと合流して、再び西の街道にやってきた。
1日空けた理由は二つある。
一つは、西の街道の「お掃除」はお偉いさんが通るためのものだから、昨日すぐにやらなきゃいけないわけじゃない。
もう一つは大事をとって、一晩休んで魔力を回復させるためだ。
俺は常に魔力を使い込んでいる。
一般的に、魔力は使えば使うほどその上限が増えていく。
俺の場合それに加えて、魔法の同時発動上限数も上がっていく。
普通の獣相手なら多少魔力が減ってる状態でもどうにかなるけど、相手はモンスターだ、万全を期したい。
何しろ、死んだらそこでおしまいだからだ。
「うーん、この魔物って、あたしは苦手かも」
アスナは歩きながら、ギルドマスターからもらったメモをながめて難しい顔をしていた。
「カーネバキャタピラー、でっかい芋虫って事しか書かれてないけど」
「人間と同じくらいでっかい芋虫だってさ」
「それはいやだ。芋虫でそうなら、蝶々になったらもっとでっかくなるだろうな」
「あっ、それは大丈夫。普通の生き物じゃなくてモンスターだから、芋虫の見た目だけどそれでもう大人だって」
「なるほど」
モンスターの事はあまり常識で考えない方がいいかもな。
「しょうがない、わりきっちゃう!」
アスナはパチン、と自分の頬を両手で挟むように張った。
気合を入れて、こっちを見る。
「長引くのもヤだから、さっさと見つけて今日中にかたづけちゃお」
「そうだな、だったら」
俺は立ち止まった。
アスナも立ち止まって、不思議そうにこっちを見た。
「実戦で使うのは初めてだからどうなるかだ……エネミーサーチ」
初級の探索魔法、エネミーサーチを使った。
モンスターの場所を一瞬だけ探索する、それだけの魔法だ。
これとペイントを組み合わせて使うのが、初級魔法の定番コンボらしい。
中級以上だと一つで両方の効果が出る魔法もある、いつか覚えたい。
「なに? 何をやったの」
「モンスターを見つける魔法だ」
「そんなのも出来るの!? ねえ、一体どれくらいの魔法を覚えてるわけ?」
「ざっくり100」
「100!?」
アスナはポカーンと口を開けはなってしまう。
信じられない事を聞いたって顔をした。
「100なんてあったらあのハンターギルドで一番強いじゃん……貴族ってみんなそんなにすごいの?」
「どうだろうな」
俺は曖昧に笑って、魔法の方に意識を向けた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「モンスターが2体いる」
「なんですって?」
眉をひそめるアスナ。
「そんなの聞いてない」
「どうする?」
「ちょっと待って、ギルドに戻って聞いてくる」
「え? あっちょっと――」
止める暇もなく、アスナは風のように町の方に向かって駆け出していった。
手持ち無沙汰のおれ、もう一度エネミーサーチをかける。
うん、やっぱり2体いる。
距離はちょっぴり離れてる。
しばらく待つと、アスナが戻ってきた。
全力で駆け抜けたのか、肩で息をしている――が。
顔は、ちょっと嬉しそうで、自慢げだった。
「どうだった?」
「把握してなかったって。もし本当に2体いて、両方とも狩ってきたら5倍の報酬払うって」
「2体で5倍か」
ちょっと驚いた。
「見つからないまま、お偉いさんを通しちゃうと大変だって」
「そりゃそうだ」
俺は頷いた。
「すごいよリアム、それ超大発見だよ」
アスナは、ものすごく興奮していた。