16.初めての狩り
ギルドマスターからライセンスをもらった。
ギルドに所属している証で、俺の名前と今のランクが書かれている。
それをしまって、さて次はどうするか、と思っていると。
「ねえ、ハミルトンの人って本当?」
背後から声をかけられた。
振り向くと、活発そうな少女が見えた。
年は十五~六くらいかな、身長は150センチとそこそこ、高い位置に結ったポニーテールがとても似合う美少女だ。
「えっと、うん。リアム・ハミルトンっていう」
「そっか、あたしはアスナ、アスナ・アクアエイジ。名字格好いいでしょう、こう見えて十代前まではうちも貴族だったんだよ」
「そうなんだ――って、十代前?」
納得しかけて、「あれ?」って思った。
十代前って、言葉通りの意味?
いやでも、ものすごく自信たっぷりに言ってるし、自慢してる風にも聞こえるし。
なにか別の意味があるのか?
なんて、戸惑っていると。
「あは、ごめんごめん。ちょっとした小ネタだから。覚えやすくていいでしょ」
「あ、ああ。そういうことか」
「ちなみに十代前まで貴族なのは本当だから」
「そうか。よろしく」
なんとなく手を差し出して、アスナと握手した。
明るくて、結構好きなタイプの子だ。
まあ「子」っていっても、俺が十二歳のリアムに乗り移っちゃったから、今は俺が年下になっちゃったけど。
「ねえ、一緒に狩りにいかない?」
「一緒に?」
「そ、協力してさ。狩りって危険だし、パーティー組んだ方が色々安心じゃん?」
「なるほど……分かった」
「そうこなくっちゃ」
アスナはパチン、と笑顔で指を鳴らした。
☆
俺はアスナと一緒にギルド、そして街を出た。
街道に沿って、一直線に郊外に向かっていく。
「そういえば」
「なに?」
「依頼とか受けなくてよかったの? それとももう受けていたとか?」
ハンターギルドといえば、依頼をうけて、モンスターや凶暴な野獣を討伐していくってイメージだ。
そういう話を、昔酒場で聞いた事がある。
「依頼を受けてやるのはAランク以上の案件だからね」
「え? どういう事?」
「Aランク以上のは、いるだけで危険だったり、すでに悪さをしてたりっていう相手だから、依頼をうけてピンポイントに倒しに行くのね。でも普通はこんな風に――」
アスナはメモを差し出した、びっしりとモンスターや獣の名前が書かれてある。
「近くにいて、もしかしたらこの先危険になるかもしれないのを、見つけて倒して、それで報告して報酬をもらうんだ。例えばこれ」
「うん?」
メモをのぞき込む、アスナが指しているブスボアって文字がみえた。
「このブスボアってヤツ、渡り鳥みたいな習性で、この辺は通り道なんだ。いるかどうかわからないけど、渡ってくるときは間違いなく危ないからさ」
「なるほど……なんか掃除みたいだ」
「うまい! うん、まさにそれ。リアムって頭の回転はやいね」
「そうかな」
アスナと歩きながら世間話をする。
ここ最近一人で魔法の練習とかばかりやってたから、フレンドリーで、壁をまったく感じさせない美少女との会話はとても楽しい。
「ああっ!?」
「どうしたの?」
「あれ!」
アスナは立ち止まって、前方を指さした。
彼女が指す先を目で追いかけていくと、ちょっと大きめの、一匹のハチが飛んでいるのが見えた。
ミツバチの倍くらいはあるそれだが。
「そのハチ? がどうしたの」
「あれキンバチだよ」
「キンバチ?」
「うん! 金属のかけらを集めて巣に持ち帰る習性があってさ、その巣はちょっとした宝箱なんだ」
「へえ、そういうのがいるんだ」
「ああいっちゃう! どうしよう、キンバチの巣はすごく見つけづらいので有名なんだよな。どうやって追いかけよう」
「それなら任せて」
「え?」
「ペイント」
俺は、人の気配を感じて逃げていくキンバチに魔法をかけた。
すると、キンバチの体から、ピンク色の煙みたいなのが出てきた。
まるで夜の花火のように、キンバチは長い長い、ピンク色の煙を引いていく。
「何かしたの?」
「そうだった」
俺はパチン、と指を鳴らす。
ピンク色の煙は普通は術者にしか見えない、他の者が見えるようにするにはちょっとした工夫がいる。
俺は、アスナにも魔法をかけてやった。
「あっ! ピンクいのが」
「ペイントって言う名前の魔法だ。狩りで追跡の為によく使われるらしい」
「なんかすごいっぽい!」
「基本だよ、狩りの。必須魔法とも言えるけど」
俺はキンバチを見た。
既にキンバチ本体はどこかにいってしまって見えなくなっているが、ピンクの煙がずっと残っている。
アスナと一緒に、その煙を追っていく。
街道から離れて、森の中に入った。
獣道ですらないところを、どんどんピンクの煙だけを目印に追いかけていく。
やがて、何でも無い地面に蜂の巣があった。
「あった! こんなところにあるのかあ、こりゃリアムの魔法がなかったら見つけられなかったね」
「あの巣の中にお宝があるんだよね。ハチはどうするの?」
「えっと、金属で誘き出して、それごと焼くのが一番だけど。まずったな、何も持ってきてないや」
「任せて、黄金でいいんだよね」
「むしろそれが一番食いつきいい」
「なら――アイテムボックス」
「な、何それ。それも魔法?」
「うん」
箱の中に手を入れて、一キロ分の砂金を取り出した。
「すごい! 袋を自由自在に出し入れできるってことだね」
「まあそういうことだ」
俺は頷きつつ、砂金を地面にばらまく。
すると、巣の中からあっという間に大勢のハチが飛び出してきた。
ハチは黄金に群がった。
「そもそもだけど」
「なに?」
「巣ごと焼き払えばいいんじゃないのか?」
「それはだめ。キンバチが分泌する体液ってね、金属同士をなんか結合させるから。たまに珍しい金属が出来てたりするから、巣は壊さないで持ってった方が高値がつくの」
「なるほど」
そうこうしている間に、ハチがほぼ総出で砂金に群がったから。
「サラマンダー!」
炎の精霊を呼び出して、出てきたハチをまとめて焼いた。
「これでよし、かな。どうしたの変な顔をして」
「リアム……あんた一体いくつ魔法を覚えてるの?」
立て続けに魔法を使う俺に、アスナは思いっきり驚いていた。
俺はにこりと微笑みながら、エサに使った砂金を回収してアイテムボックスに入れて、キンバチの巣も回収した。
その巣を街に持ち帰って、鑑定してもらうと。
結構品質がよくて、中身もたっぷりで。
ジャミール銀貨300枚という値がついたので、キンバチを見つけてくれたアスナと山分けした。