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155/439

155.実質婚約

 迎賓館の中、応接の広間。


「主様!」


 普段の冷静沈着さなどどこへやら――な感じで、スカーレットが広間の中に飛び込んできた。


 そして座っている俺に詰め寄るような形で。


「別の神竜様が現われたって本当なのですか!?」


 至近距離に迫ったスカーレットの目は真剣そのものだった。


 鼻息がかかるほどの距離に見える血走った目。


「と、とりあえずちょっと離れてくれ」


 俺は気圧されて、そういうしかなかった。


「あっ、す、すみません……」


 ハッとして、若干テンションダウンして、少し距離を取るスカーレット。

 それでも、「神竜」に向ける熱意はそのままだった。


「そ、それで主様。神竜様が現われたのは本当なのでしょうか」

「まあ、そうだな」

「おおっ! そ、それで、神竜様はいまどこに?」

「ここ」

「え?」

「ここ」


 俺は同じ言葉を繰り返して、自分の横を指さした。


 上質なソファーに座る俺、その横で腕組みして、体をくっつけてくるデュポーン。

 こっちはスカーレットとは対照的に、全身から「好き好き」光線を出してて、しきりに体を俺に押しつけてくる。


「そ、その子は……?」

「だから、神竜」

「え?」

「デュポーンって名前は言い伝えにあった?」

「しゃ、灼眼竜デュポーン様……?」

「ああ、そういう異名があるんだ。デュポーンはそれを知ってる?」

「人間がつけた名前なんて興味なーい」

「はは」


 俺は思わず笑った。

 状況が状況で、ちょっと困っていたところだが、これにはちょっとクスッときた。

 その言いようが、ラードーンとまったく同じだったからだ。


 ラードーンも出会った頃は……いまでもそうだけど。


 人間のことになんか興味が無い、なんて言ってたもんな。

 単純だけど、このやりとりで俺はますます、デュポーンとラードーンが同じ存在であることを確信した。


 だから、微笑みながらスカーレットを見て。


「彼女はそのデュポーンだ、俺が保証する」

「あ、え……はい……」


 スカーレットは盛大に戸惑った。

 デュポーンが本物なんだと受け入れられずにいる様子だ。


「どうした、そんな変な顔をして。見た目か? ラードーンも女の子の姿で現われることがしょっちゅうあるだろ?」


 俺の中に入ってからは、むしろ竜の姿で現われることの方が珍しいラードーン。

 その姿をこの国の魔物はみんな知っていて、スカーレットくらいの幹部になると普通に会っているはずだ。


 なのに……なんで?


「そ、その子……どう見てもただの女の子にしか見えません」

「ラードーンは違うのか?」

「神竜様は少女の見た目であっても、威厳がございましたから」

「ああ……」


 俺はなるほどと頷いた。

 俺が感じていたただの少女と幼げな老女、そのイメージをスカーレットも持っていたと言うことだ。


「ほ、本当なのですか?」

「本当だ」

「……そ、そうですか」


 まだ受け入れがたいって感じのスカーレットだが、それでも俺の言うことなら――って感じで頑張って受け入れようとしていた。


 一方で、今まで黙っていたデュポーンは。


「ねえねえ、ベッドはどこ?」

「ベッド?」

「うん! 人間って、子作りはベッドでするものなんだよね。早くベッドに行こうよ」

「こ、子作り!?」


 デュポーンのあけすけな誘いを聞いて、スカーレットは改めて驚愕した。


「子作りはしないよ」

「えー、なんで?」

「……俺、まだ子供だし」


 リアム・ハミルトン、十二歳。

 俺は肉体がまだ子供である事を盾にかわそうとしたが。


「大丈夫! 魂がすっごく大人だから」

「むっ」


 一瞬で切り返されて、答えに困った。

 それは、ラードーンが俺に興味をもって、俺の中に入ってきた時に言ってたのと似たような事だったからだ。


 デュポーンもラードーンと同じように、「魂」を何か感じ取れるのかな。

 ……同じなのは当たり前か。


「早くしよう、ねっ」

『ふふっ、難儀しているようだ』

「助けてくれよラードーン」

『無理だな』


 ラードーンはきっぱりと言い切った。


「えええ!?」

『我らは惚れたら一直線。この者の子を産もうと一度思ったら、そうなるまで気持ちは決して冷めない。そういう生き物なのだ』

「うそ!?」


 それは……大分困る。


「えっと……デュポーン」

「うん! なあにダーリン?」

「だ、ダーリン……ごほん。どうしても子作りしたい?」

「うん! ダーリンの子、絶対欲しい」

「今すぐに?」

「今すぐがいいけど……ダメ?」


 ちょっと泣きそうな目で、上目遣いで俺を見るデュポーン。

 そんな姿を見ると、ちょっとだけ罪悪感が湧いてくる。


『ふふっ、助けがいるか?』


 ラードーン!!


 俺はこくこくと頷いた。

 魔法以外のことはてんでダメだ。

 こういう時はラードーンのアドバイスにしたがった方が良いと、今までの経験がそう言っている。


『ならばこう言うといい――』


 ラードーンはそう言って、俺の頭の中に直接台詞を伝えてきた。


 内容に一瞬引っかかったが、俺は考えないでそのままいった。


「手を出して、デュポーン」

「こう?」


 手を合わせて、魔力を送った。

 デュポーンは半ば反射のように、魔力で俺を押し返した。


 俺は軽く吹っ飛ばされた。

 空中で態勢を立て直して、上手く着地する。


「ああっ! 大丈夫ダーリン!?」

「見ての通りだ、今の俺はまだまだ魔力が弱い」

「そ、それは――」

「いいんだ。デュポーンともし子供をつくったら、その子は俺達の魔力を引き継ぐ」

「うん! それがすごく楽しみ!」

「だから、今の弱い俺じゃなくて。強くなった俺とデュポーンの子供が欲しい」

「強くなったダーリンとあたし……」

再誕(、、)したデュポーンだって、これから成長するだろう?」

「うん!」

「だから、もうちょっと待とう。なっ」

「……」


 デュポーンは俺をじっと見つめた。

 俺はドキドキした。

 これでいけるのか? と思った。


『安心しろ、ヤツは乗ってくる』


 ラードーンは俺の頭の中で太鼓判を押した。

 その、直後に。


「うん! あたし待つ! ダーリンの側でずっと待ってるね!」


 デュポーンはこっちの提案を聞き入れてくれた。

 そのまま飛びついて腕を組んできたが、それは喜ぶ子供のスキンシップ、位のものに落ち着いてくれた。


 とりあえず……俺はほっとした。

 これで一件落着――と思いきや。


「主様すごい……神竜様を口説いてメロメロにさせた……」


 スカーレットが、ものすごく感動していた。

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2025年1月6日アニメ放送開始しました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ていうかラードーンって人妻なん?あのなんちゃら国王と⁇
[良い点] あるじさますごーい!(棒) もはや神竜と一心同体(違) 世界を滅ぼせる別神竜さままでメロメロきゅーなのですご主人さまー。 [一言] ご主人さまは狙われている! (だが子供だった!)
[良い点] リアムの中、あったかいナリー。 てこ入れだな! なんかジャンル変わってきた気もしなくもないけど普段から読んでるからいいや。 [一言] ラードーンの入れ知恵で喋ってるんですがお気づきでしょ…
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