150.予想を上回る
時間停止の効果で完全に状況の外に置いてけぼりにされたが、そこはさすがラードーン。
俺の反応で、一瞬にして状況を理解した。
「ふむ、どうやら成功したようだな」
「ああ、ちゃんと三秒戻った」
「そうか。ならばもう一度試して見ろ」
「わかった」
俺は頷き、もう一度ファイヤボールで熊の手を燃やし尽くした。
そして再び――タイムシフト!
「……あれ?」
今度は発動しなかった。
ウンともスンともしなかった。
「どうしたんだ? さっきは確かに成功したのに」
「うむ、しただろうな」
「え? それはどういう意味だ?」
「タイムシフトの効果は、巻き戻せる時間と消費魔力が正比例する」
「正比例」
「今のお前の魔力なら、巻き戻せて三秒ってところだ。そしてそれを使うと魔力を一気に全部使ってしまう」
「そういうことか」
俺はアイテムボックスを呼び出した。
ファイヤボールと同じようにアイテムボックスを呼び出せる程度の魔力はまだ残っていてよかった。
アイテムボックスの中から、レククロの結晶を取り出す。
時間があるときに大量に作っておいて、ストックしたレククロの結晶だ。
その効果は――魔力回復。
それを大量に使って、一気に魔力を回復させた。
そして――熊の手は燃やし尽くしたから、今度は耳をちぎって手に取った。
ファイヤボールで燃やす――タイムシフト。
「なるほど」
「そういうことだ」
タイムシフトを使ったことなんて分からないはずだが、やはり俺の反応で理解するラードーン。
「ということは、巻き戻す時間を長くしたければ、魔力をより高めていけばいいんだな?」
「そうだが、そう簡単な話でもない」
「どういうことだ?」
「巻き戻す時間が長ければ長いほど、必要とする魔力が飛躍的に増大する」
「飛躍的って……どれくらいだ?」
「お前が一ヶ月に一度使える魔法があるだろう?」
「あー……街に溜まってる魔力で使う、あれ?」
「うむ」
ラードーンは深く頷いた。
「あれで、およそ十秒」
「なっ!」
俺は驚愕した。
俺の魔力と、一ヶ月に一回使える――「都市魔法」の魔力。
その量は天と地ほどの差がある。
なのに、俺自身の魔力で三秒、都市魔法の魔力でたったの十秒。
「飛躍的にもほどがあるな……」
「そういうものだ、時空間魔法というのは。強力ではあろうが、万能というわけでもない」
「そうだな……このまま魔力を増やしていったとして、限界はざっと五秒あたりかな」
「人間の身ならそのあたりが妥当だろう」
「まあ、これを使わなきゃってタイミングはかなりの時だからな。例えば目の前で誰かが急に殺されたときとか。それなら三秒でも充分だ」
「うむ、その通りだ」
そう思うと、別にしゃかりきになって、今すぐ魔力を鍛えて秒数を増やさなくてもいいと思った。
それよりも、三秒以内でパッと使えてすぐにやり直せるように、反射神経というか反応速度というか、そのあたりを鍛えていった方が正解なんだろうな、と思った。
「ありがとうラードーン、この魔法を教えてくれて」
「いや、むしろよくやった。お前がこの魔法を覚えられるかどうか、半々ってところだったからな」
「そうなのか」
「うむ。それが成功して、我は嬉しいぞ」
ラードーンは言葉通り、嬉しそうに笑った。
まるで出来のいい生徒を見るような目で俺を見た。
彼女にそう言ってもらえて、そういう目で見てもらえて。
俺も、ちょっとだけ嬉しかった。
「さて、帰るか」
「うん」
俺は頷き、ラードーンが俺の中に戻って来るのを待った。
その時だった。
「え?」
「うむ? どうした」
「……」
俺は答えなかった。
頭の中に浮かび上がったものを必死でつなぎ止めようとした。
一瞬のひらめき、それは今までのと同じ、新たな魔法のひらめき。
しかし今までのと違う、途轍もない難易度でのひらめきだった。
「待て、お前、今何を考えている」
ラードーンは顔色を変えた。
俺はそれを気にせず、更に続けた。
指先からこぼれ落ちる水を必死に食い止めようとする。
そして、まとまった。
「よし」
俺はアイテムボックスをもう一度呼び出し、レククロの結晶でもう一度魔力を全回復させた。
「……これなら」
「まさかとは思うが、お前」
「……」
「それは無理だ、複雑過ぎて我でも――」
「タイムストップ」
全回復した魔力で今編み出した魔法を使う。
瞬間、世界の全てが止まった。
草木も、鳥も獣も。
風も空気も――はては光までも。
全てが、止まってしまった。
ラードーンも止まった。
俺を制止しようとする表情と、口を開いた状態で止まった。
タイムストップ――時間を止める魔法だ。
タイムシフトから編み出したそれは、世界の時間を止めた。
「おっと、時間がない」
多分俺の魔力だと、タイムシフトと同じ三秒だろう。
俺は急いでラードーンの背中に回った。
そして――時が動き出す。
「――成功しなかったのだ……ぞ?」
動き出したラードーンは、俺が目の前から消えた事に驚いた。
そして、おそるおそると振り向く。
振り向いた先に俺がいるのを見て。俺が笑顔でいるのを見て。
「まさか……本当に成功したのか?」
「うん」
俺が頷くと、ラードーンはますます驚愕した。
ほんの一瞬の出来事だけど
初めて――ラードーンの上を行った。
そんな気がした。
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