124.リアムの采配
『こちらアルカード。街の外、南西方向に人間の集団を発見』
街の中心、まだ名前をつけていないこの街の心臓部。
人間の街で例えるのなら領主の舘とか、王族の宮殿とかそういう役割の建物。
前にみんなを集めた円卓の部屋――とは違う執務室の中で、俺はアルカードとテレフォンで通話をしていた。
「どういう感じの人達なんだ?」
『街に潜入しようとしていた一団らしい。別働隊が捕まったから、ひとまず引き上げると言っている――あっ』
「どうした?」
『引き上げると見せかけて、地下道を掘って潜入すると言っている』
「よくそんな詳しい事まで聞けたな」
俺はちょっと感心した。
一人侵入者をとらえた後、俺は配下の魔物達をパトロールに出した。
そんな中、ガイが見つからずうろうろしてて、クリスが別の人間を追い払った。
二人に比べて、アルカードが詳細な情報をつかんでくれている。
『人間のうち一人の影に潜んでいる』
「影に? どういうこと?」
『影に同化してともに行動をしている』
「へえ……」
俺はそれを想像した。
自分の影の中に、いつの間にか魔物が潜り込んでいるという光景を想像してみた。
影なんか普段は見もしないから、最強の尾行術だなそれは。
「いつの間にそんな技を編み出したんだ?」
『進化させて頂いた時に目覚めました』
「すごいな」
ファミリアとハイ・ファミリア、使い魔契約の魔法をかけたモンスター達は皆上位種族に進化してきた。
そしてその際に、文字通りの進化したスキルに覚醒するものも多い。
大抵がガイとか、クリスとかレイナとか。
その種族のリーダー格の魔物がそうなることが多い。
ヴァンパイアから進化したノーブルヴァンパイア。
アルカードは、面白い能力に目覚めているみたいだ。
『待ってください…………いま一人が怯えながら話している。「このままじゃウェルス様にぶっ殺されちまう」――と』
「わかった。そのままくっついててくれ――その人達を制圧する事ってできるか?」
『容易なことだ』
「わかった。また連絡をいれる」
アルカードとのテレフォンを切って、今度はスカーレットにテレフォンをかけた。
使い魔との間に距離が離れていても会話が出来る魔法、テレフォン。
我ながら便利な魔法を開発したもんだとつくづく思った。
「あっ、スカーレットか?」
『なんでしょうか。主』
「ウェルスっていう人を知らないか? 潜入部隊に指示を出せる程度に上の人間だと思うけど」
『ウェルス・ウェアの事だと思います。国王親衛隊の総大将、同時に陛下にとってのいとこにあたるお方です』
「今回のことで、彼が仕返しに人員を送ってくる指示をしたって可能性は?」
『ほぼ間違いなく』
スカーレットは断言した。
『ある意味乱暴な方で、「一度やり合ってみねえと分からねえ」が口癖でした』
「ああ、なるほど」
俺は納得した。
アルカードの報告でも、派遣されて来た者が「このままじゃぶっ殺される」とか言ってたっけな。
多分間違いなく、そのウェルス・ウェアが指示を出したんだろう。
「仕返しの潜入を指示してきたのはウェルスらしい。どう対処すれば良いと思う?」
『主の防御が完璧である前提で申し上げます』
むず痒くなる前提を持ち出してきたスカーレット。
『一通り好き勝手にやらせた上で追い返した方がよろしいかと。ウェルス様は「一度やり合った結果」で賢明な判断が出来る方です』
「ただの脳筋、乱暴者じゃないってことか」
『はい』
「わかった。ありがとう」
俺はお礼を言って、テレフォンをきった。
そして再びアルカードにテレフォンをつなぐ。
「聞こえるかアルカード」
『はい』
「いま後をつけている連中、邪魔をすることはできるか?」
『どのように?』
「全てお見通しだ、って思われる様に」
『造作も無いことだ』
「じゃあ頼む。そう思わせた上で逃げ出すようにしたい。実際の方法は全部任せる」
『わかった』
アルカードとのテレフォンを切った。
その後もガイとクリスにテレフォンした。
相手を見つけ次第「生かして」「完勝して追い返す」と命令を出した。
『い、生かすのでござるか』
『あれれー、脳筋ってばそんな事もできないわけ? あたしは余裕でやっちゃうよ』
『ムッキー! それがしこそ、そんなの朝飯前でござる!』
ガイとクリスは相変わらずの仲の良さで、二人ともめちゃくちゃやる気を出した。
こっちはこっちで安心だ。
ギガースのガイは、その体つきから完全なパワータイプ、クリスが言うような「脳筋」に見えるけど、実際にクリスと張り合うときは必要なら繊細さも出すことが出来る。
ウマは合わないが、いい感じで互いを刺激し合って、高め合っている。
「これで、向こうが諦めて講和、停戦してくれるといいんだけどな」
一人っきりの執務室でつぶやく俺。
『もうしばらくかかるだろうな』
「なんでだ?」
だろうな、と言いつつ、妙に断言口調のラードーンに聞き返した。
『お前という人間の事を計りかねるからだ』
「俺を?」
『天才的な魔術師でありながら、魔物の王。それで国を守っていると思いきや、任せられるところは完全に魔物に任せている』
俺が今やってる事か。
『そのすごさに恐れを成して、信じられなくて判断が遅れるだろうさ』
「そういうものなのか?」
『そういうものだ、人間は』
そうなのか。
『次はそのウェルスか、同格以上の人間がお前を見定めに来るだろうさ』
「へえ……」
ラードーンの言った通りだった。
それから二週間位して。
ウェルス・ウェアが直に訪ねて来た。