123.同じ事ができる
ジャミールの都から帰ってきた翌朝、俺は街の外を散歩するように、ぐるっと廻っていた。
朝日とともに起き出した街のみんなはそれぞれの生業を始めて、早くも街が活気づき始めた。
「りあむさまだー」
「りあむさますきー」
街からぴょんぴょんとゴムボールの様に跳びながらやってきたのはスライムのスラルンとスラポン。
いつでもペアで行動している二人は俺の所まで一直線で来て、子犬の様にじゃれてきた。
「今日もスラルンとスラポンは元気だな」
「りあむさまにあえたから」
「りあむさまもげんき?」
「ああ、元気だよ」
スラルンとスラポンを引き連れながら、更に街の外をぐるっと廻っていく。
二人は俺に体を擦り付けてきたと思ったら、あっちこっちに跳ねていって、また戻ってきてスリスリしてくる。
本当に子犬と散歩してるみたいだ、って気分になってきた。
「おはようございます、主」
「スカーレットか、おはよう」
今度はスカーレットが現われた。
早朝でも彼女はビシッとしていて、いつものように凜々しくて美しかった。
そんな凜然とした彼女は歩く俺の横について来て、うかがうように聞いてきた。
「昨晩、王都へお出になったと聞き及びました」
「ああ、ちょっと行ってきた。そうだ、スカーレットの意見を聞かせて欲しいな」
俺は昨日王都でやったことをスカーレットに話した。
テレポートで潜入して、金持ちや貴族の屋敷らしき所に、片っ端からライトの魔法を点けてきた事を話した。
「それで害はない、ただ、いつでもやれるぞ、っていう脅しだ」
「さすがでございます。理解の早い者達は早速震えて眠れなかったことでしょう」
「そう思うか?」
「はい。おそらく主にしか出来ない事で、向こうは主の力にますます震え上がることでしょう」
スカーレットに太鼓判を押してもらえた感じで、俺はちょっとだけほっとした。
「それで、スカーレットはどう思う? この先、向こうがどうでるか?」
「この先でございますか?」
「ああ、正直俺にはもう分からない。スカーレットを輿入れさせようとしたり、その後話を引き延ばしたり、万を超える兵で襲ってきたり。向こうがどう思ってて、この先どうしてくるのか予想出来ない」
『魔法ならば予測がつくのにな』
ラードーンは俺の中で、楽しげに、若干のからかいも含めた感じで言ってきた。
それにちょっと苦笑いしてる間に、スカーレットは真顔で考えて、答えた。
「おそらく、意趣返しをしてくるかと」
「意趣返し?」
「ジャミール王国の重臣の中にはメンツを何よりも重んじるものが多く、主の行動は恐怖を与えた一方で、被害がないと分かって落ち着いたら、プライドを膨張させた強い反発が来ると考えます」
「メンツかぁ」
ますますよく分からない話だ。
「ってことは、何かを仕掛けてくる?」
「おそらくは」
スカーレットは静かにうなずいた。
「そっか……」
「……主はあまり動じていないようですが」
「まあな」
俺は頷き、真顔で答える。
「昨日あれをやった後に思ったんだけど、俺に出来る事は、誰かが同じことが出来るって思うんだよ」
「そんなことはありません! 主の神聖魔法や数々のオリジナル魔法は誰にも真似できない超越したものです」
スカーレットは思いっきり俺を持ち上げてきた。
「魔法の内容じゃなくて、やったことな」
「それはどういう――」
首をかしげて聞き返すスカーレット。
彼女がそう言った瞬間、街の反対側から「パリーン!」という音が聞こえてきた。
顔を上げると、向こうの空に何かが割れるのが見えた。
「あ、あれは?」
「行くぞ」
俺はスカーレット、そして未だに懐いたままのスラルンとスラポンを連れて、テレポートで跳んだ。
一瞬で一万を超す魔物が住んでいる大きな街の反対側に跳んだ俺達。
そこで見たのは、驚愕している中年男の姿だった。
「くっ! い、インビジブル!」
男は魔法を使った。
魔力光が魔法陣と共に拡散した後、男の姿がすぅと消えた。
「そう来たか――なら、『スプラッシュ』!」
俺は無詠唱で魔法を使う。
同時に11連での発動で、百メートル四方に土砂降りの雨が降った。
スプラッシュ。
水をばらまくだけの魔法。
それを空で、かつ11連で発動したら広範囲で土砂降りの雨と同じ状況を作り出した。
雨は俺達と、そして男をうった。
透明になった男は、大雨のなかで丸見えだった。
「そこか、パワーミサイル!」
居場所を完全に把握出来る状態でパワーミサイルを放った。
いきなりの大雨に戸惑っていた男に、パワーミサイルが直撃する。
男は数メートル吹っ飛んで、そのまま気絶した。
「これは……一体」
「アブソリュート・マジック・シールドを改良したものだ」
「改良?」
「魔法を発動させたまま街に入って来ようとすると、マジックシールドがそれに反応して解除する。さっきからぐるっと街を回って張ってたんだよ」
「なるほど! 主が言っていた誰か同じ事ができると言うのはこういうことだったのですね」
「ああ、俺と同じで、侵入してくる人がいると思った。こんなに早いとは思わなかったけどな」
「さすが主です!」
スカーレットはますます心酔した目で俺を称えた。
スプラッシュの土砂降りはすぐに止んだが、パワーミサイルで気絶した男は伸びたままだ。
「これでどうなる? またプライドで何か送り込んでくるかな」
「もう何度かは続くと思います。現場にいなければ、主の圧倒的な対応も分からず悪あがきしますので」
「なるほど、じゃあもうしばらく付き合うか」
スカーレットのアドバイスで、俺はここのアブソリュート・マジック・シールドを補修して、捕縛した男を連れて街の中に戻っていった。