11.アイテムボックス
即席麺を発明して一ヶ月が過ぎた。
今日も俺は林にやってきた。
もはや拠点じみてきたいつもの場所に、山ほどの白炭と即席麺が積み上がっていた。
メイドを驚かせた即席麺は、麺食ギルドのギルドマスターをもっと驚かせた。
お湯を入れただけで普通に美味しく食べられる即席麺、更にどんな味にも対応出来る、いろんな味を作れる。(現物からウンディーネで水分を抜けばいいだけ)
それを話すと、ギルドマスターは一万食分の代金を前払いする勢いで発注してきた。
だけど、取引が成立する事はなかった。
俺がハミルトンの五男、リアム・ハミルトンだと知ったら、ギルドマスターが難色をしめした。
そこで初めて、嫡男――つまり世継ぎじゃない貴族の息子は、家の許可無しに勝手に商売をしてはいけない事を知った。
どうしてもしたければ、方法は二つある。
一つは、成人して家から独立する事。
もうひとつは、ハミルトンの領地ではない土地、つまり遠くへ持っていって取引すること。
そのどっちかしかない。
両方ともすぐに出来ないから、毎日作った分がたまっていく。
たまっていった理由は、解決策がみえているから。
師匠からもらった指輪、マジックペディア。
その中で一つだけ、等級――上中下の級が明記されてない魔法があった。
アイテムボックス、という名前の魔法だ。
「アイテムボックス」
マジックペディアを介して魔法を使うと、目の前に一メートル四方の箱が現われた。
箱のふたをパカッと開けると、そこは虹色のまだら模様になっていた。
俺は積み上げた白炭の山から一つ、即席麺の山からも一つ取って、箱の中に入れる。
白炭と即席麺は箱の中に飲み込まれていった。
ものはまったく見えない。
だが、頭の中にリストが浮かび上がる。
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純白炭 84グラム
即席麺 1食
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アイテムボックスの中に入っている詳細のリストだ。
更にそれぞれもうひとつ入れると、白炭は152グラムに、即席麺は二食にふえた。
手を入れて即席麺を一つ取りだした。白炭は152グラムのまま、即席麺は一食に減った。
魔法のアイテムボックスを消した、もう一回アイテムボックスを使った。
そして、また一つずつ入れる。
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純白炭 61グラム
即席麺 1食
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さっきのはなかったことにされて、今はいったものだけがあった。
アイテムボックス、本来は、いくらでもはいって、どこでも取り出せる便利な魔法だ。
しかし、完全習得をしていない――つまり、媒体であるマテリアルコーティングされているマジックペディア(本来は魔導書だろう)を介してでしか使えない状態だと、毎回中身が消滅して、リセットされる。
最高に便利な魔法だけど、完全に習得しないとまったく使い物にならない、特殊な魔法だった。
これはかなりの極論だが、戦争になったとき、街の住民が一万人いたとして。
全員に初級火炎魔法の魔導書を配れば、確率的に百人の魔導師隊のできあがりだ。
ファイヤボールなんかは、完全習得していなくてもとりあえず炎の玉という効果は出る。
他の魔法も大抵はそうだ。
魔導書から手を離せない。
発動まで時間がかかる。
この二点が問題だが、効果はとりあえずでる。
アイテムボックスだけは、毎回中身が消滅するから意味がなかった。
俺はこの一ヶ月間も、魔法の練習を続けていた。
ウンディーネ二体で即席麺作りを2ライン。
ノームとファイヤボール三発での白炭作りを1ライン。
そして、アイテムボックスを――。
そう、同時魔法の行使が、5から7にあがっていた。
白炭は作る、即席麺も作る、アイテムボックスを練習する。
そして――
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純白炭 101グラム
即席麺 1食
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「おっ?」
一度消しても、アイテムボックスの中身は消えなかった。
もう一度消して、出す。
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純白炭 101グラム
即席麺 1食
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内容はまったく一緒だ。
マジックペディア――指輪をはずして、使う。
アイテムボックスがちゃんと出た。
アイテムボックス――マスターだ!
俺は手を止めて、白炭も即席麺も、次々とアイテムボックスに放り込んだ。
山のように積み上げられた一ヶ月の生産分はかなり時間がかかったが。
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純白炭 318キログラム
即席麺 1045食
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全部が入って、アイテムボックスを使い直しても消えなかった。
頭の中にあるリストは、もはや所有物というより、「物資」というレベルだった。
これで、売りにいける。
どうしても取引をしたいのなら、方法は二つ。
成人して家から離れること。
あるいはハミルトンの領地ではないどこか別の街に持っていくこと。
俺は持っていくことにした。
成人はまだまだ先の事だからだ。
でも、持っていくには遠すぎるし、遠いならまとめて持っていきたい。
でも、まとめてもっていくには量が多すぎて子供の俺には運べない。
そこで、アイテムボックス。
俺は林からでて、屋敷に戻った。
自分の部屋に戻って、メイドを呼んでどんぶりと熱湯をもらった。
アイテムボックスを使った、即席麺を一食分取りだして、熱湯で戻して食べた。
うん、これならどこへでも持って行ける。
別の街に持っていって、換金する事ができるぞ。