108.王と王の王
「これで全部か?」
目の前にわらわらと集まっているピリングス達。
あれから再びシームの森に戻って、テレポートでピリングス達を全員連れて来た。
スポーンホールが丸々移植された以上、ピリングス達がシームの森に固執する理由はない。
移植を目の当たりにした同族ピリングス達の説明で、連れてくるのはスムーズに進んだ。
「これで全員だと思う」
「そうか。じゃあ次はファミリアの契約と、名付けだな」
俺はピリングス達をぐるっと見回した。
全部で百体とちょっと。
ファミリアで契約するだけなら魔力全開で三巡するだけだが、せっかくだから名前をつけてやりたい。
ごく一部の例外を除いて、モンスターは基本名前を持たない。
そういう習慣がないのだ。
まあ、それは人間も似たようなものだ。
国や地方によってミドルネームがあったりなかったり、そもそも名字もなかったり。
ちょっと違うけど村くらいの規模だと名前がなくて、「山の向こうのあの村」「川の西岸のあの村」とか言う感じの所もある。
名前ってのは必ずしもある物じゃないが……それにしたって名前すらないんじゃ俺が困る。
だから名前をつけてあげようと思った。
「名前?」
「ああ、契約と一緒に名前をつけたら――ほら、あんな感じでこの街の中では明かりと火、それと水、これらの生活に便利な魔法が使えるようになる」
「そんな事が?」
ピリングスは信じられないって顔をした。
最初に出会ってからずっと俺との交渉をしてきた「長」っぽいピリングス。
見た目はただの毛玉っぽいけど、大分その表情の違いが分かるようになってきた。
「試してみれば分かる」
「……わかった」
ピリングスは小さく頷いた。
俺は彼(?)にファミリアの魔法をかけつつ――
「じゃあお前は……モフリン」
俺は直感に従って名前をつけた。
契約の魔法の光がピリングスを包んで、一際強い輝きを放ってから落ち着いた。
「これは……」
「どうだ? ライトとか使って見ろ」
ピリングス・モフリンは俺に言われたとおり、魔法を使おうと試みた。
数分して、魔法が発動して光り出した。
「こ、これは……本当に魔法が」
「そういうことだ。使える『生活魔法』は街の中にいれば分かる。とくにデメリットもないから、好きに使うと良い」
「は、はあ……」
モフリンは半分驚き、半分信じられないって感じで俺を見ていた。
俺は他のピリングス達にファミリアの魔法をかけつつ、名前をつけていった。
全員がもふもふしてて、フワフワしてて可愛くて、名付けもついつい、そういうのが中心になってしまう。
スラルンとスラポンたち、スライムと同じパターンだ。
そうやって名前をつけていくが、ふと、俺はある事に気づいた。
「進化……してない?」
今までのモンスター達と違って、ピリングス達は進化しなかった。
契約を済ませても、ピリングス達は今までのピリングス達のままで何も変わらない。
「……ふぅむ」
絶対に進化しなきゃいけないって事はないが、どうせならしてもらいたいって思う。
ハイ・ファミリアでイメージ指定して進化を促そう――と思ったのだが。
イメージが湧かなかった。
ハイ・ファミリアを編み出したときは、ドラキュラというバンパイアの上位種を既に見ているから、そっち方向にイメージしやすかった。
ピリングス達にはそういうのは出来なかった。
今のふわふわ毛玉な見た目で、俺は何も悪いとは思っていない。
だから進化――つまりほぼ「改善」となるイメージが湧かなかった。
しかたない、今はいっか。
そうやって進化をひとまず諦めて、ファミリアと名つけを続ける。
その間、契約済みのピリングス達は魔法を使い続けた。
光をともして、火をつけて、テレフォンで仲間同士通話しあったりして。
街の生活魔法を使っては、感心したり興奮したりしてた。
そして、全員の名付けが終わったのとほぼ同時に、異変が起きた。
地面が光り出した。
まるで脈打つかのように、光がドクンドクンと明滅する。
「な、なんだ」
「これってなに?」
「これは……魔力?」
ピリングス達が怯えを見せる中、俺はその魔力を「読み取った」。
魔力の感知力が高い俺は、すぐにそれがピリングス達の魔力だと分かった。
魔力はまるで水が高きから低きに流れるかの如く、一点に向かって行った。
それは、ピリングス達のスポーンホール。
ピリングス達の魔力はそこに向かって流れ込んだ。
『ふふっ』
「なんか知ってるのか?」
『魔力をもっとよく読み取ってみるといい』
ラードーンに言われて、俺は更に集中して、スポーンホールの中に流れ込んだ魔力を読み取ろうとした。
すると、スポーンホールの中には大量の魔力が既に流れ込んでいた。
それはピリングスではない、他の者達の魔力。
エルフ、人狼、ギガース、ノーブルヴァンパイア……etc。
この街の住人達の魔力だ。
その魔力に、ピリングスたちの魔力が混ざって、一つになっていき。
やがて、スポーンホールから一体のピリングスが産まれた。
見た目は、他のピリングス達と大差は無い。
やはりふわふわして、もふもふしてて可愛い。
だが、存在感が圧倒的だった。
そのピリングスが生まれた瞬間、
「われ、王なり」
と、可愛らしい声で言った。
その新しいピリングスに、他のピリングスが群がった。
「王だ」
「王様だ」
「やっと生まれた」
群がりつつ、テンションが上がっていた。
「これは……」
『スポーンホールで産まれる魔物は、数十・数百年周期で、大地に流れる力を源に種族の王が生まれてくる』
「そうなのか」
『お前がその誕生を後押ししたのだ』
「あっ、この街の魔力」
『そういうことだ』
ラードーンの言葉に俺は納得した――のもつかの間。
ピリングス・キングのまわりに群がったピリングス達の体が光に包まれた。
一体残らず光に包まれたあと……皆が少しだけ姿を変えた。
『フェアリーフロス』
「え?」
『ピリングスの上位種だ。王が現われたとき、まわりを進化させるのだ』
「なるほど」
これからもスポーンホール系はこういう進化をしていくのかな――と思っていたら。
ピリングスキングが俺に近づいてきた。
「父王よ、お目にかかれて光栄である」
そういって、俺に跪くと。
他のピリングス――フェアリーフロス達も、一斉に俺に跪いたのだった。




