101.賞金首
街の中心に建てた、迎賓館とは違う意味で豪華な建物がある。
その中の大広間に円卓があって、俺を中心にこの街の中心人物が囲っていた。
エルフのレイナ。
ギガースのガイ。
人狼のクリス。
ノーブル・バンパイアのアルカード。
そして数少ない人間であるジョディさん。
このメンツに、今しがた部屋に入ってきたアスナを加えて、総勢七人の集まりだ。
メンツからも分かるように、主立った種族のリーダーを集めた、いわゆる幹部会的なものだ。
「ただいまー、いやあ、予想以上にすごかった」
戻ってきたアスナがニコニコしながらそう言った。
ものすごく上機嫌で、円卓の空いてるところに座る。
彼女には、いろんな所のハンターギルドにいってもらって、現状を確認してもらっていた。
その帰りだ。
「あの三人の報告で、ちゃんとこの国が、危険度SSSを超えるアンタッチャブルになってた。あたし達がいたギルドでもそうだった」
「当然でござる」
「ご主人様の国だもんね」
普段はいがみ合っているガイとクリスだが、俺を称える時だけは意見が一致する。
「しかし、SSSを超えるってのはわかるけど、なんでアンタッチャブルって呼び名なんだ?」
「討伐するどころか、触ることすらできない危険な存在って意味なのよ、リアムくん」
「触ることすら出来ない」
「ラードーンがまさにそうだったわね」
「あぁ……言われてみれば、あの時もラードーンジュニアに阻まれて、冒険者達はラードーンに手出しすらできてなかったっけ」
『我の仔は優秀だからな』
ラードーンが俺だけに聞こえる様に言った。
人間には興味が無い彼女だが、自分の仔はやっぱり別なんだろうな。
「それくらい危険な相手だから、絶対に手を出すな、という意味なのだけれどね」
そう話すジョディは微苦笑した。
どういう事なんだ……ああ、アルブレビトか。
アンタッチャブルにも拘らず手を出そうとしたアルブレビトの暴走の事を思い出した。
「ということは、この国が狙われることはもうないのね」
それを聞いたのはレイナだった。
「うん、まあハンター限定だけどね」
「ええ、ギルドレベルでは手が出せなくても、必要なら国がなんとかする、ということもあるもの」
「結局はそれなのね」
レイナはなるほどと頷いた。
延々と、未だに完全に解決したとは言い切れない、まわりの三カ国との関係。
「まあ、ハンターギルドが討伐のハンターを送って来なくなるだけでもいいじゃないか。正直、国が戦争をしかけてくるよりは、ギルドが討伐のハンターを送ってくる事の方が、よっぽどやっかいだと思うぞ」
「だね! ハンターレベルだとフットワーク軽いし、下手すれば延々と襲ってくるもんね」
「ホーク達のようにね」
俺よりも長くハンターギルドに身を置いていたアスナとジョディがそう言った。
「なるほど。だったらよかった」
「あっ、それとも一つ」
アスナは思い出したように言った。
「クリスちゃんなんだけどね」
「私?」
「うん、クリスちゃん、Sランクの討伐対象になってた」
「Sランク?」
驚くクリス、その横で「あらあら」と頬に手をあてて微笑むジョディ。
「うん。あの三人をボコったじゃん? Aランクのハンターを一人でボコっちゃったからね、それでSランクに認定されちゃったんだよ」
「それって、すごいの?」
ハンターどころか、人間ですらないクリスには、アスナが持って帰ってきた話はピンとこなかった。
「すごいよ! Sランクって、普通は村一つ、街一つを滅ぼせる災害級のモンスターに認定するランクなんだから。クリスちゃんが行って正体を現せば、普通の農村ならそれだけで全面降伏か全員逃げ出すよ」
「そうね。Sランクまで行くと、討伐の報酬は……ジャミール金貨クラスなら100枚が相場ね」
「ちなみにクリスちゃんの懸賞金、金貨200枚だった」
「へえ、そうなんだ」
分かってるのか分かってないのか、そんな微妙に薄い反応をしてしまうクリス。
アスナは更に続ける。
「で、クリスちゃんがそうだから、リアムの事がすっごい噂になってる」
「ご主人様が?」
「そっ。Sランクを従えるのっていったいどんなやつなんだ、って」
「……あっ、今分かった」
「うん?」
「私のランクが上がれば上がるほど、ご主人様のランクも上がるんだ」
「えっと……そうなる、のか?」
俺はアスナとジョディに目を向けて、視線で尋ねる。
「当然じゃん」
「ええ、当たり前の流れね」
「そっか、よし、じゃあ私もっとランク上げる」
「あ、アスナどの。それがしは、それがしのランクと懸賞金は?」
「ガイさんは銀貨5枚、ランクはDだった」
「えっ……」
愕然として、言葉を失うガイ。
「ガイさん、あの三人にボコられてたからね」
「そ、それは主殿の命令で」
「それを向こうは分かってないから」
アスナは微苦笑する。
目を見開き、ますます愕然とするガイ。
そのガイの後ろに、わざわざクリスは立ち上がって、背後にたってポンと肩を叩く。
「クスクス……ドンマイ」
「――っ! 勝ち誇ったでござるなイノシシ娘!」
「あははは、脳筋なのに危険度でも懸賞金でも負けちゃダメダメだよね」
「うがーーー!」
ガイはクリスに襲いかかった。
二人はその場でケンカをし始めた。
もはや見慣れた光景なので、俺達全員はそれをスルーした。
「アスナちゃん、リアムくんにも懸賞金かかってるんじゃないの?」
「さすがジョディさん、その通り」
「え? 俺人間だぜ?」
「でも魔物の王だからね」
「むっ……」
そういうカテゴリー分けをされると、懸賞金が付くことを納得せざるを得なくなってしまう。
「リアムはジャミール金貨500枚。普通の人の給料10年分ってところだね。ちなみにデッドオアアライブだった」
「おぉ……」
大分高値がついたことに、俺は苦笑いするしかなかった。