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最悪の金曜日

髪形、うん、どこも跳ねてない。

制服のリボンずれてないよね?

うん、今日のリップグロスもちゃんとキラキラしてる。


「美咲、どうしたの?さっきから」


放課後のトイレの鏡の前でちっとも動かない私を心配した優美が、私の肩を叩いた。


「あ、ごめん。実はね、昨日十文字にクッキー焼いてきたの、それを今日渡すから、身なりの最終確認」


なるほどー。と言うように大きく頷いている。


十文字くんにはいつも勉強教わってるし、この間借りたマフラーのお礼も兼ねて昨日帰ってから作ってみた。

十文字くんのようなお坊っちゃまにこんなの渡すの恥ずかしいけど…。

それよりも…。


「それに、今日金曜日なんだよね」


「金曜日がどうした?」


「金曜日と言えば、明日明後日は学校お休みなんだよ!二日間も十文字くんに会えないんだよ!」


私が一番嫌いな曜日の金曜日。

平日いつも十文字くんの席隣にいられるのに、土日と言う二日間は私には辛すぎた。

それが、今。

こんなにも十文字くんと話すようになり、この土日の二日間がいつもより余計に辛さを感じてしまう。



「はいはい」

呆れたようにクスっと笑うと、私の背中をグイと押して。


「分かったから早く図書室行っておいで」


頑張ってね、ってウィンクして見送ってくれた。


ありがとう、私、頑張る‼



******************


図書室には何人かの生徒が勉強していて、その中に…いた!


一番奥の窓際の席で、脇目も振らず勉強している十文字くんはやっぱりカッコいい。


「遅いぞ」


私に気付き、無愛想に見上げた。


「ボクを待たせるとはいい度胸だな。お前は人一倍勉強しないとテストで平均点すら取れないこと分かっていないのか?」


「…ごめんなさい」


久々にドSスイッチが入ってしまったらしい。


「…えっと、あの、これ」


十文字くんに気付かれないように、軽く深呼吸して、鞄の中からラッピングしたクッキーを取り出した。


「これは?」


「き、き、昨日作ってきたんです。いつも、ありがとうの気持ちを込めて…」


目を閉じて差し出した。


きっと…。


『こんなの作る暇があったら少しでも勉強しろ』


とか言われるのだろうな、と思うと怖くてなかなか目が開けられなかったけど、沈黙に耐えきれなくなり、恐る恐る瞼を開いてみると。


はれ?

目を開けた私に写ったのは。

頬を赤く染めた十文字くんだった。


「あの…」


「あ、いや、えーと、ありがとう」


鼻の頭を掻きながら十文字くんが手を差し出した時。


「美咲、また勉強してるのか?感心感心」


爽やかな笑顔を浮かべた千尋くんが私の頭をくしゃっと触ってきた。


「千尋くん…?」


「お、これは美咲のお手製クッキーじゃん、一つもーらい」


あろうことが千尋くんはラッピングを開けてクッキーを口に入れたのだ。


「えええええーーーーー」


またしても、ここが図書室だと言うのを忘れて大きな声を上げてしまった。


「美咲?」


「信じられない、千尋くん、ひどい、ひどすぎるよ」


立ち上がった私は両手で千尋くんを激しく叩いた。


「ちょ、どうしたんだよ、美咲?」


「千尋くんのバカバカバカバカ」


その様子を見ていた十文字くんが急に立ち上がり、


「場所をわきまえろ、鈴ノ瀬。今日は勉強する気が無くなった」


冷静な言い方だったけど、その目の奥に見える憤りは相当のものだった。

こんなに怒った十文字くん初めて見る。


「ご、ごめんなさい」

慌てて謝ったものの、十文字くんは私の方など見向きもせずに静かに帰り支度を始め、帰り際、千尋くんには。


「すみません、先輩、今日は先に帰らせていただきます。先輩もテスト、そして受験頑張ってください」


そう言ったのに、私には何も言ってくれなかった。

私には一瞥もしなかった。


殴られた訳じゃないのに胸が痛い。

鋭い苦しみが胸いっぱいになる。

いつもの幸せな苦しみとは全く違って、ただただ哀しかった。

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