終わり…?
「もうどうしたらいいか分からないの」
全てのテストが終わった帰り道、一緒に帰ってきたいる優美に全てを話した。
あまりにも興奮して話したせいで、途中途中言ってることがおかしくて伝わりにくいとこもかなりあったと思うけど、伝えたいことは全て伝えられた。
全てを聞き終えた優美が、むむむと腕を組みしばし何かを考えてから、口を開いた。
「だから、ここんとこの美咲毎日死んだようだったのね。てっきり、テストのせいでそうなっていたのかと思ってた」
確かにテストの時は毎日死んだようになっていたので、優美が気付かなかったのも無理はない。
「でも、どうして、そこまで十文字くんが怒ったのかが私には分からないんだよね…」
そこだよね、一番の問題は。
テスト勉強の真中であり、その上一度図書室で大声を上げてしまった時、怒られたのにも関わらず、また同じ事を繰返した私に怒りを現したのは分かるけど、あそこまで怒るなんて…。
「もう一度ちゃんと謝ってみれば?」
「謝れるかな?十文字くんはもう私のこと完全に無視なんだよ!」
近付くなオーラ全開の十文字くんに謝れる自信が無い。
ただでさえ近寄りがたい十文字くんなのに、ただでさえ、自分から十文字くんに話し掛けたことなんてないのに。
どうしたらいいか分からない。
「じゃあ、このままでいいの?」
首を横に振り、俯いた。
良くない。
偽者の彼女の振りだったけど、彼のこと見ているだけしかできなかった私にとってかけがえの無い日々だった。
あんな奇跡のような日々じゃなくていい。
ただ、『おはよう』ってその一言だけを言える関係に戻りたい。
「…、私、このままじゃイヤだ」
唇を噛み締め歩を止めた。
「十文字くんと話してくる」
十文字くんは今頃部活をしている最中のはず。
「うん、頑張れ、美咲」
「ありがとう」
ぎゅっと握った拳を優美が握って勇気づけてくれた。
その勇気に背中を押されて、私は今歩いて来た道を猛ダッシュで走った。
*************
バスケットボールの弾む音と、声援とかが入り交じった体育館。
空いている扉から、そっと顔を出すと、すぐに十文字くんの姿が目に入った。
誰よりも練習に打ち込んでいる十文字くんの姿が美しかった。
かいている汗さえも美しく見えた。
そんな中で、一瞬目が合う。
「あ」
十文字くんの口もとがそんな風に動き、しばし戸惑った表情を浮かべていたが、
後輩から受け取ったスポーツタオルを片手にこちらに来てくれた。
「何か用か?」
人目の少ない裏庭に場所を移してから、始めに口を開いたのは十文字くんだった。
「あ、の、えっと…」
本人をいざ前にすると何も言えなくなってしまう。
「今部活中なんだが…」
そうだ、十文字くんは何よりもバスケが好きだから、邪魔されている今のこの時間がすごく不快なはずだ。
早く言わなきゃ…。
「えっと…その…ごめんなさい」
一言だけ言い頭を下げた。
「何が?」
すぐに冷たい声で聞き返された。
「えっと、その…この間図書室であんな大声出してしまって、十文字くんの勉強を邪魔してしまってごめんなさい」
十文字くんを前にすると緊張していつも自分の言葉伝えきれないけど、今はっきりと言うことができた。
それなのに…。
結構長い沈黙の後…。
「そんなことをわざわざ?キミって暇人なの?…てか、別にボクはそのことについては怒ってない」
予想外の返答だった。
「え?」
「ボクの気持ちはもう伝えたはずだ。その答えがこれかい?」
「…」
何を言っているのか全く分からない。
でも、十文字くんの目は真剣そのもので。
私は自分の脳ミソをフル回転させて、十文字くんの言葉の意味を理解しようとしたけど、やっぱり答えは出てこなかった。
「用が終わったのなら行くぞ」
「あ…」
もう何も話すことはない、と言うように十文字くんは踵を返すと、体育館へ向かって行ってしまった。
無情にも取り残された私は呆然と離れていく十文字くんの後姿を見ることしかできなかった。