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あいしてる  作者: 粥
9/28

9話

「........」


秋乃は今店にて働いている最中なのだが、一緒にいるはずの久子がいない。

久子は今、工房まで消耗した商品を取りに行っているので、一人で店番を任されたのだ。


「........」


シチュエーションとしては、この久子不在中に一言も喋れない秋乃とお客の一対一になるのが一等最悪と言える。


店のベルが鳴って店内に誰かが来た事を知らせた。

来たのはお客さんだった。

はい、意外に早く最悪のシチュエーションとなりました。


来客したのは男女二名で、恐らくカップル客だろう。

一応秋乃は久子に言われた通り、客が来たらしとけと言われた会釈だけしておいた。


「すごぉーいキレ〜」

「ホントだ。こんなんよぉ作れんな...」

「ね〜?」


秋乃は二人の客をジッと見ていた。

すると、二人が秋乃の視線に気付いた。


「あ、ごめんなさい。静かにしますね」

「........!(ブンブン)」


秋乃は誤解されたので、すごい勢いで首を振り否定した。お客は若干引きながら、了解して引き続き商品を見始めた。


「これ良いね。お揃いで買おうよ」

「そだね。俺青がいい」

「じゃあ私赤にしよっ」


二人は色違いのグラスを持って秋乃がいるレジの方まで歩いてくる。


秋乃はレジ、包装などが出来るが、愛想笑いと最後の挨拶が出来ない。

だがお客はそんな事御構い無しに秋乃の前に立ってお会計を済まそうとする。


「お願いしま〜す」

「........(ペコリ)」


秋乃は一応会釈をして商品を通して行く。

お会計を言わなきゃいけないのだが、緊張と不安で声が出ずに、お客に気付いてもらう形になった。


「あ、2400円ね、じゃあ2500で」

「........(ペコリ)」


100円のお釣りを渡して、包装して商品を渡す。

秋乃は申し訳ない気持ちでいっぱいでお客を見送る。

お客は最後までよく分からないといった顔をして帰っていった。


その入れ替わりで久子が帰って来て、秋乃は久子に泣きそうになりながら抱き着いた。


「........!」

「わぁ!どしたのぉ〜?秋乃ちゃん。...ああ〜お客さん来たのね」


久子は状況を理解して秋乃の頭を撫でる。


「すごいじゃない、ちゃんと一人で出来たのね〜」

「........(フリフリ)」

「お客さんから何か言われちゃった?」

「........(フリフリ)」

「じゃあ大丈夫よ。偉い偉いよく頑張ったわ」

「........(コクリ)」


秋乃はまた久子の胸に顔を埋めた。久子もそれを受け入れて秋乃の頭を優しく撫でた。


今日の分の仕事が終わると、大抵秋乃、久子の二人の方が由良たちより先に家に着く。

その間に秋乃はお風呂を、久子は夕飯の準備を始める。


「........」

「あ、お風呂洗えた?」

「........(コクリ)」

「あ、じゃあさ。朝干してた洗濯物取り込んでくれる?もう乾いてると思うから」

「........(コクリ)」


秋乃はベランダに干してある洗濯物を取り込んだ。

最後に厚くて重い布団を取り込もうとしたところで、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。


「........!」

「よっ」


すると後ろで仕事を終えた由良が支えてくれた。由良の暖かく大きい手は、秋乃をしっかりと支えた。


「........(ペコリ)」

「おう、どーいたしまして。布団は俺が取り込んどく」

「........(コクリ)」


秋乃は布団を取り込むのを由良に任せて、家の中へ入った。

雅彦が服を畳んでいるのを見て、自分もやる事にした。ついでに服を畳んだ事は一度も無いので、雅彦のを見て真似してやる。


「........?...?」

「秋乃、こうやるんだ」

「........」

「袖を畳んで」

「........」

「二つ折りで畳む」

「........!!」

「ああ、よく出来ている。凄いぞ」


秋乃はとても嬉しそうに自分の畳んだ服を見る。

すると、布団を取り込み終えた由良も頭を撫でて褒めてくれた。


「畳めたのか?初めてなのにうまく畳めてるな」

「........(コクリ)」


秋乃はまた嬉しそうにする。

表情はほとんど変わらないが、体から出る嬉しいの気持ちが分かりやすい。


由良は着替えに部屋へ帰った。


「ふぅ...」


今日作ったガラス細工は少し上手くいったので、明日が楽しみだった。

由良は基本ガラスの事しか頭になかったが、秋乃が来てからは頭の中9割ガラスの事だったのが、今は8割になった。


ただ今日は少し疲れたので、夕飯前に少し眠っていこうとベッドに横になると、あっという間に眠りについた。



由良は珍しく夢を見た。


快晴の空に太陽が昇って、草原に寝転がる由良に優しい風が吹いている。

すると、小さな白猫が由良の顔に匂い付けをしてきた。

由良も顔を擦り付けて来る白猫の頭をワシャワシャと撫でると、猫も嬉しそうにその手にも顔を擦り付けて来る。


するとそこで由良の目が覚めて、目を開けた。

すると、由良の手は秋乃の顔にあった。


「........。...はっ!ごめっ...!」

「........?」


由良はずっと夢の中で白猫にしていたことを、現実で秋乃にしていたのだ。

秋乃は取り乱す由良を不思議そうに見ている。


「飯だよな...ごめん、今行くわ」

「........(コクリ)」


秋乃は先に由良の部屋を出て家へと帰った。

由良はもし目覚めなかったら、あの白猫にキスをしようとしていた。もしそれを現実で秋乃にしていたとしたら、そう思うと少し危ないと思った。

普段あんな事がないから尚更。


その後は特に何もなく秋乃とも接していたので、大した行動は取っていない事が分かり、安堵した由良だった。

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