7話
今日は由良だけ工房の仕事を休んで、久子と秋乃の買い物に付き合う事になった。
「秋乃ちゃん、準備できた〜?」
「........(コクリ)」
「じゃ、行こっか」
由良は車を出しに先に外に出ていたので、二人を車に寄りかかりながら待っていた。
「おっまたせ〜」
「ん」
「........」
秋乃は今まで久子の服を着ていたのだが、そろそろ自分の服を買いましょうと久子の気遣いで買う事になった。
「んじゃ行くぞ〜」
「Go!!」
初めての秋乃とのお出かけのせいか、久子はテンションが高い。そんな久子を助手席に乗せて、由良は車を発進させた。
由良は車を走らせながら、どこまで行くのかを久子に尋ねた。
「で、どこ向かえばいいの?」
「街に出たいかな〜」
「じゃあいつも行ってるとこでいいか?」
「そうしましょ」
戸塚家がよく行ってる街は、小物や衣類、家電用品など色々揃う便利な街で、車で30分と少々遠いが田舎にしては結構栄えている。
「秋乃ちゃんは街とか人が多いとことか苦手?」
「........(コクリ)」
「あらぁ〜じゃあ由良の側にいてね。私すぐどっか行っちゃうから」
「自覚してんなら直せって感じだけどな」
迷子対策を最初に注意して、由良たちは街に着いた。
「........」
「上ばっか見てっと転ぶぞ秋乃」
「さぁ行きましょ〜」
久子を先頭に、由良と秋乃は並んでその後ろを歩く。
秋乃がキョロキョロして街中を歩くものだから、人にぶつかったりしない様に気を付けておきつつ、久子を見失わない様にする。恐らく街を歩いている誰よりも忙しく歩いている由良だった。
目的の店に来て、早速服を選んで行く秋乃と久子。
由良はそんな二人を見ながら、最近の女の子はこんなん着るんかいと暇を潰しながら待った。
すると、店内の女性店員が声をかけてきた。
「彼女さんにですかぁ?」
「は?いや、別に...」
由良は急に話しかけられてびっくりして、少し挙動不審になった。
「これ結構女の子に人気なんですよぉ〜?」
「そっすか...」
「お連れの彼女さんも、買ってあげたら喜ぶと思いますよ?」
「彼女じゃないんで、大丈夫です...」
秋乃が好きそうでない露出度の高い服だったので、由良はその場を逃げる様に久子たちの元へ向かった。
服に関しては、どっちかと言うとあの服を着ている秋乃が好きじゃないということで、秋乃が嫌いかどうかは知らない。
由良が二人のいる場所に戻ると、久子が試着室の前で秋乃を待っているところだった。
「試着してんの?」
「うん、...何でそんな疲れた顔してんの?」
「人の愚かさを知った」
「服屋で知る事?」
二人でそんな話をしていると、試着室のカーテンが開き、秋乃が出てきた。
マキシ丈のロングスカートに、薄手のパーカーというシンプルな格好だが、秋乃の素がいいのでよく似合っている。
「うん!良いんじゃな〜い?」
「シンプルだな」
「秋乃ちゃんにはこれくらいシンプルの方が良いわよ。変な男が寄ってくるから...!」
「必死か」
由良はやっぱり素が良いと何着ても似合うんだなぁ〜と感心して見ていると、秋乃が首を傾けて見てきた。
「なに?」
「........」
「似合ってるかって」
「ああ...。まぁいんじゃね?」
「あんた...もっと気の利いた言葉無いの?」
「俺に褒められても何の自信にもなんねぇよ。喉乾いたから飲みモン飲んでくる」
「すぐ戻ってきなさいよ〜」
由良は少し遠いが、外の自販機まで行って缶コーヒーを買った。
その場で飲んでいると、二人の若い女性が話しかけてきた。
「あのぉ、すみません」
「はい?」
由良は今日はよく話しかけられる日だなと感じつつ、その二人の話を聞いた。
「私たちここに行きたいんですけど、ここどこだか分かりますか?」
「あー、ここならあそこの交差点を右に曲がってずっと歩いてればその道沿いにありますよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「いえ」
由良は飲んでいたコーヒーを飲みながらその場を去ろうとした。だがその女性二人が由良を引き止めた。
「あの!お兄さん今一人なんですか?」
「良かったらなんですけど、私たちとココ行きませんか?」
「え...」
由良は速攻で面倒臭い空気を察知した。この二人、確実に由良をナンパしに来ていた。
何かやたら距離も近くなって来たし、香水の匂い強過ぎるし。由良はこういう女性が特に苦手だった。
(お袋と一緒にいりゃあ良かった...)
この歳になって親を頼る日が来ようとは...。由良はそんな後悔をしていると、由良の手をグッと引っ張る者がいた。
「うおっ!?」
「........」
由良は急に引っ張られてバランスを崩しそうになったがなんとか耐えて、引っ張った人を見た。
「秋乃...」
「........」
由良を引っ張ったのは秋乃だった。
秋乃は冷たい目で二人を睨むと、女性たちはそそくさと逃げていった。
秋乃は女性たちを追っ払った後、由良を見た。
「........?」
「さんきゅ、助かった」
「........(コクリ)」
「お袋は?」
「........(フリフリ)」
「なんで?一緒にいたんじゃねぇの?」
すると、由良の携帯が着信音を奏でながらポケットの中で鳴り出した。
かけてきたのは久子だった。
「もしもし?お袋?」
『秋乃ちゃんがいなくなっちゃった!ちょっと目を離した隙に!どうしよぉ!?』
「落ち着けぃ。秋乃は俺といるから、今そっち行くから店で待ってて」
『あら、そうなの?よかったわぁ」
「じゃあな」
由良は電話を切って秋乃を見た。
心なしか秋乃は少し息が切れていた。由良を助けるために、走って来てくれたのだ。
「お袋が待ってる。行こうぜ」
「........(コクリ)」
由良が先を歩いて、秋乃がその後ろを付いて歩いた。
少し活気のある。というか、キャバクラやホストなどの店が多い通りを歩いてしまい、由良は失敗したなぁと感じていると、後ろの方で案の定秋乃がキャッチにあった。
「お姉さん可愛いっすねぇ?うちの店来ない?」
「........(フリフリ)」
「え?てかマジで可愛いね!?お金いっぱいもらえるお仕事あるけど紹介するよ!君なら絶対...「秋乃ぉ!」
由良が少し大きい声で秋乃を呼ぶと、秋乃を勧誘していた男たちが黙った。
「おいで」
「........(コクコク)」
秋乃は小走りで由良の手にしがみつくと、怖かったのか震えていた。
由良はそんな秋乃の頭を撫でながら、キャッチの男たちを睨みつけた。
「俺の家族を、怖がらせないでくれ」
「す、すんません...」
キャッチの男たちはそそくさと由良たちから離れた。
未だ震えながら由良の腕にしがみついている秋乃に由良は優しく問いかけた。
「だいじょーぶか?」
「........(フリフリ)」
「怖かったな?もう大丈夫だから、お袋ん所行こう」
「........(コクコク)」
秋乃は由良の腕から離れそうにないので、秋乃の手を握ってあげた。
大丈夫だと、訴えかけるように。
ただ少しだけ、由良は後悔した事があった。
それは、
「めっちゃ美男美女なんですけど...」
「彼女さん可愛い...」
「彼氏さんもめっちゃかっこいいんだけど!」
「芸能人かなぁ?モデル?」
「良いなぁ...」
秋乃と二人で並んで歩くと、周りからの視線が一層増えるという事だ。
なんとか久子と合流して、買い物を続け、色々あって疲れつつ家に帰った。
「ただいまぁ...」
「何故そんな疲れた顔を...」
「連れ回されたわけじゃねぇけど、色々あって」
「そうか、お疲れ」
とりあえず、今日はすぐに寝ようと思った。