6話
「落ち着いたか?」
「........(コクリ)」
秋乃が泣いてしまって、夕飯を作り始める時間が遅くなってしまった。
秋乃は泣き止んだが、急に泣き出し迷惑をかけてしまったと申し訳なく思っていた。
まだ鼻水をすすっている秋乃を見て、由良はティッシュを渡した。
「ったく、嬉しかったら笑ってくれや」
「........」
「まぁ、嬉しかったよ。お前が嬉しくて泣いたんなら」
「........」
「そんでさ、一つ聞いていいか?」
「........(コクリ)」
「手、いつ離してくれんの?」
秋乃は未だに由良の手をしっかり握ったまま離してくれない。
秋乃が戸塚家に来て数ヶ月が経った。
初めて甘えてきてくれて嬉しいのだが、かれこれ二時間は手を繋いだままだった。
(これトイレとかどうすんだ...?)
由良はまぁまぁ普通のことで悩んでいた。秋乃は全く由良の顔を見てこないが、手だけは一向に離そうとしない。
「なぁ、俺そろそろトイレ行きたいんだけど...」
「........?」
「いや、繋いでちゃ出来ねぇからさ...離して?」
「........(フリフリ)」
秋乃は首を横に振り由良の頼みを断った。するとキッチンの方から久子が由良に無茶を言ってきた。
「良いじゃない一緒にすれば」
「........(コクコク)」
「いやいやいや、いかんでしょ何言ってんだ」
「減るもんでもあるまいし」
「減るわぃ!主にメンタル的な部分が削られるわ」
由良は仕方なく秋乃の手を握ったままトイレに向かった。
トイレの前に来ると、由良は手を離すよう促した。
「出たらまた繋いでやっから、一旦離してくれ」
「........(コクリ)」
由良の提案に納得して秋乃は由良の手を離した。すると由良はすぐにトイレに入った。
割とマジで限界だったみたいだ。
由良は出て来ると、秋乃はすぐに由良の手を握ってきた。
手を握ると安心するのか、秋乃はとても安心した顔をした。
(つか別に俺の手じゃなくて良くね?)
由良はふとそう思ったが、いざそう言って秋乃が仮に悲しんだとすると、久子が黙っていない。そう考えるとすごく面倒だと思ったので、このままでいることにした。
少しするとご飯が出来て、みんなで食卓を囲む。
だが、秋乃は食事が机の上に並び、後は食べるだけくらいまでいっても手を離さずにいる。
「あの、そろそろ離して良いんじゃねぇかな?食べれねぇし」
「........」
「食い終わったらまた繋いでやっから、な?」
「........(コクリ)」
秋乃は由良の出した条件に納得すると、由良の手を離しご飯を食べ始めた。
目の前に久子が座っていたのだが、久子はニヤニヤして由良たちを見ていた。
「仲良くなってきたじゃな〜い」
「よぉ分からん」
「ふふふ!秋乃ちゃんもようやく私たちを信頼してきてくれたのね」
「未だ喋ってくれないんだけどな」
「........」
ご飯を食べ終わって、すぐに手を繋いでくれとねだってきたが、食器を洗ってからと言ってまた断った。
ようやく洗い終わると、秋乃は由良の手を取ってソファに座った。
由良も強制的に座らされる事になるので、秋乃の隣に座った。
「いいなぁ〜由良だけ...」
「........」
「え!?いいの!?」
秋乃にずっと甘えられてる由良を羨ましがった久子に手を伸ばした。久子はそれが嬉しくて、すぐにその手を取った。
「秋乃ちゃんの手は冷たいのね」
「........」
「あ!悪い事じゃないわ!私が暖かいから、ちょうどいいわね!」
「........(コクリ)」
秋乃は相変わらず無表情だ。でも、どこか安心したような雰囲気になっている。
「じゃあ俺部屋戻るな」
由良は秋乃の手を離して一人、部屋に帰っていった。
由良は部屋のベッドに座って先ほどまで秋乃に握られていた手を見た。
柔らかく、細く、弱々しい秋乃の手。
普段女の子と手を繋ぐ機会などないから、もう少し繋いでおけば良かったと少しだけ後悔した。
「シャワー浴びよ...」
由良は冷水に浴びたくなって、今日はシャワーの温度を下げて入った。
シャワーから出ると、携帯にメッセージが入っていて、久子からだった。
『明日、秋乃ちゃんの洋服やら生活用品やらを買いに行きます。運転お願いしますね』
つまり明日は二人の荷物持ちをしろということだ。
面倒だと思いながらも、しょうがないと納得した。